オードリー・ヘップバーンの名言をななめ斬り!「自分を客観的に見なくてはなりません。ひとつの道具のように分析するのです」

矛盾に満ちた世の中を、レジェンドたちはどう渡り歩いてきたのか。ライター・仁科友里さんが名言をひも解きながら、「女の生きざま」をナナメから考察します。

オードリー・ヘップバーンの名言をななめ斬り!「自分を客観的に見なくてはなりません。ひとつの道具のように分析するのです」

ヒロイン願望がないことと、「成功したら、なんでも言えるっしょ」というひねくれ気質のために、偉人の名言をこの年になるまで読んだことがなかったのですが、手に取ってみると面白いものだなぁと思います。

スターになる人の条件の一つに、頭がいいことがあげられます。
マリリン・モンローの回でも書きましたが、彼女は「ブロンドはアタマが弱い」というイメージどおりにおバカさんを演じていました。モンローウォークも、あのセクシーな唇も彼女が研究に研究を重ねて編み出したものです。

それは「永遠の妖精」と謳われる女優・オードリー・ヘップバーンとて同じでした。
当時、ハリウッドではバストとヒップが大きな肉感的な女優がもてはやされていましたが、オードリーは華奢な体形で贅肉がまるでなく、背も当時としては高すぎました。自分を研究した結果、背の高さを感じさせたいためにバレエ・シューズを履き、四角い輪郭や鼻の穴が目立たないように、眉毛やアイメイクに力を入れて、カメラのアングルにも注意したそうです。

自分を演出するコツについて、オードリーは「自分を客観的に見なくてはなりません。ひとつの道具のように分析するのです」という言葉を残しています。スターは自己愛が強い代名詞のように言われることがありますが、その一方でおそろしく冷静な目を持っているようです。

イラスト:井内愛

スターになる人は、家庭が複雑であることが多いのですが、オードリーの少女時代も孤独でした。9歳で両親が離婚します。長いこと「自分は父親に捨てられた」という気持ちをひきずっていたそうです。そのうちに第二次世界対戦が勃発し、住んでいたオランダがナチスに占領されてしまうのです。極度の食糧難を経験し、餓死寸前まで行きながらも、少女だったオードリーはレジスタンスに加わり、ナチス転覆のために地下活動に従事します。つまり、オードリーはスパイ活動をしていたということ。
バレリーナになる夢を持っていたオードリーですが、背が高すぎて断念。ミュージカルに方向転換し、端役をこつこつとこなし、「ローマの休日」で主役をつかみます。

女優として順調にキャリアを積むオードリーでしたが、彼女が求めていたものは大女優というポジションではなく、家庭でした。最初の結婚相手は、映画監督のメル・ファーラー。
「ローマの休日」後で人気沸騰中にも関わらず、「家庭を大事にしたい」というオードリーの意向で、1年に2本以上映画に出ないことを決めます。家庭はくつろげる場所という気持ちから、ホテルに滞在するときも家と同じように過ごしたいと、絵画、ベットカバー、灰皿などを家から送り、家とおなじようにしつらえる癖があったそうです。当然、荷造りが必要になりますが、他人にまかせた時、夫のカフスボタンがどこにあるのかわからなかったことがあったそうです。「妻としてこんなことではいけない」とそれ以降、他人まかせにしなくなったといいます。しかし、一子をもうけたものの、結婚は破綻します。

二度目の結婚相手は、アンドレア・ドッティ。9歳年下のイタリア人の伯爵で、精神科医です。プレイボーイとして有名でもありました。二人めの子どもも生まれ、オードリーはますます家庭を大事にします。「大切なのはどんな花を選ぶか、どんな音楽をかけるか、どんな笑顔でいるかということ」とオードリーは述べています。夫の仕事が遅くなるときは、病院まで出向き、二人で食事をとることもありました。しかし、アンドレアの女遊びは止まらず、離婚します。

結婚生活がうまくいかなかった理由は他人にはわかりませんが(本人たちにもわからないかもしれません)、オードリーの「自分を客観的に見なくてはなりません」という言葉から考えてみると、一つの推測が浮かびます。常に自分を客観的に見て、道を切り開いてきたオードリーですが、健康的な家庭というものを見たことがないのですから、客観的になれと言ってもなりようがないのではないでしょうか。

その代わりにといっては何ですが、「こうあるべき」という理想ばかりが大きくなっていったような印象を受けます。家と同じベッドカバーで過ごしたかったり、職場で食事をしたかったのは、夫の希望だったのか。理想と思い込みは紙一重です。どちらなのかを判断するのが、客観力でしょう。「家庭が大事」という大義名分があろうと、思い込みは相手と自分を苦しめてしまうものではないでしょうか。

オードリーの最後の恋人は、7歳年下の俳優のロバート・ウォルダースです。オードリーのそばにいて、彼女をサポートするのが喜びというタイプでした。晩年、オードリーはユニセフの活動に専心しますが、これができたのもロバートの理解があったからと言われています。

しかし、二人は結婚しませんでした。結婚しない理由をマスコミに問われたオードリーは「式を挙げなくても、私たちはすべてを手に入れています」とコメントしています。さて、みなさんはオードリーのコメントをどう見るでしょうか。結婚をしなかったのは、また失敗したら恥ずかしいからとか、ロバートのキャリアが地味だから、自分にふさわしくないと思ったという人もいるかもしれません。

私は、オードリーは理想を捨てられたのではないかと思うのです。彼女はずっと愛を欲しがっていて、愛を保存し生み出すために結婚や家庭があると信じていました。しかし、自分の経験から、役所での手続きや、どんな花を飾るかといったこれまでの努力が、本質的な愛とは無関係であることを知ったのではないでしょうか。

理想を捨てるということを、敗北のように解釈する人はいるかもしれません。しかし、私は理想を捨てた時、“本番”が始まるような気がするのです。つまり、世の中の仕組みや現実を知るアラフォーはこれからが本番ということ。正反対のものを表すたとえとして、「理想と現実」という言葉がありますが、「現実が理想」になることもあるのではないかと私は思っています。

(文:仁科友里/イラスト:井内愛)

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この記事のライター

1974年生まれ。OL生活をつづったブログが話題となり、2006年「もさ子の女たるもの」(宙出版)でデビュー。「週刊文春」「週刊女性」「女性セブン」にタレント論、女子アナ批評を寄稿。2015年「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)が異例の婚活本として話題を呼ぶ。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」