カレン・カーペンターの名言をななめ斬り!「このまま終わるんじゃないかと思うと、怖い」

矛盾に満ちた世の中を、レジェンドたちはどう渡り歩いてきたのか。ライター・仁科友里さんが名言をひも解きながら、「女の生きざま」をナナメから考察します。

カレン・カーペンターの名言をななめ斬り!「このまま終わるんじゃないかと思うと、怖い」


亡くなったダイアナ妃を悩ませた過食症は、摂食障害の一種です。摂食障害で命を落とした有名人と言えば、カーペンターズのボーカル、カレン・カーペンターを思い出す人は多いのではないでしょうか。20世紀最高の女性ボーカリストと謳われたカレンですが、実はボーカル志望ではなかったということは、あまり知られていないかもしれません。

カレンは4人家族の末っ子として育ちました。兄・リチャードの音楽家としての資質を強く信じていた両親は、成功するチャンスを求めてカリフォルニアに移住までしています。一家はリチャードを中心としてまわっていました。両親の期待どおり、リチャードはレーベルとの契約にこぎつけます。カレンもドラムのメンバーとして加わっていましたが、制作陣はカレンの歌声に着目し、ボーカルとして前に出ることになります。「リチャードが一番」という家庭に育ったカレンは大いに戸惑ったようですが、大好きなリチャードのために前に出る決心をしたそうです。

娘と息子がいた場合、あからさまに息子をかわいがる母親もいますが、カレンのお母さんもそのタイプだったようです。周囲に「カレンの歌声は素晴らしい」とほめられると、お母さんは「ええ、でも、リチャードもね」といった具合に「リチャードが上」というスタンスを断固として崩さなかったそうです。

通常、アメリカでは仕事をする年齢になると、家を出て独り暮らしをはじめます。この兄妹はスターですからお金はありますし、プライバシーだって必要な職業ですが、このお母さんは二人が家を出ることを許しませんでした。おそらく、自分の目の届く範囲においておきたかったのだと思います。リチャードがガールフレンドを両親と住む自宅に連れてきて、自室でセックスをしていたら、お母さんと目があった(お母さんがリチャードの部屋をのぞいていた)そうで、ここまでいくと、母の愛というより支配なのではと背筋が寒くなります。

ようやく兄妹での二人暮らしを許されると、今度はカレンがお母さんの代わりになります。リチャードの帰宅時間をチェックしたり、難癖をつけて交際相手との仲をひきさいたことも一度や二度ではありませんでした。お兄ちゃん大好きという見方もできるでしょうが、お母さんが愛するリチャードを「守る」ことで、役に立ついい子となって、お母さんに愛されたかったのではないでしょうか。

どんなスターの人気も陰ることはあるもの。この二人にもその時が訪れます。リチャードは睡眠薬中毒に陥り、カレンはぞっとするほど痩せていき、とうとう倒れてしまいます。リチャードが入院治療をはじめたことをきっかけに、カレンもロスを離れ、ニューヨークで心理療法士の治療を受ける決心をします。治療は一定の成果があり、体重も増え、生理が戻ってきたことが逆にカレンの体に負担となり、心臓麻痺で亡くなってしまいます。32歳の若さでした。

イラスト:井内 愛

私の友人も拒食症経験者ですが、彼女がこんなことを言っていたことがあります。
「食べたくないわけじゃない、むしろ、一日中、食べ物のことを考えている」
「でも、口の中に物を入れると、『太るぞ』という声が聞こえてくる」

拒食症にかかった人が、すべて同じ考えだとは思いませんが、もしかしたら、カレンも常に「声が聞こえていた」のかもしれません。

カレンの夢は、結婚して子どもを産むこと、仕事より家庭を優先したいと公言していました。そのための相手選びの基準は、非常に厳しかった。自分のおカネをアテにされては困るので、自分と同じくらい社会的に成功していて、ルックスもよく、レストランなどでのマナーが洗練されていること。当然のことながら、浮気をしないこと。問題は、カレンがろくにデートする時間もないほど忙しいことでした。カレンを心から愛した男性ももちろんいましたが、たとえばレコード会社の社員だったりすると、上記の条件にあてはまらないという理由で切り捨てていきました。カレンの親友、オリビア・ニュートン・ジョンは「そんな人が実際にいて、巡り合えたらすばらしいけど」と、婉曲に「そんな人、いね~よ?」と意見しますが、カレンは聞き入れません。

が、ブラインドデートで知り合った実業家の男性と、カレンは結婚することになります。金髪のイケメン不動産業者、バツイチ、プライベートジェット持ち。条件的には完璧でしたが、カレン以外は離婚は時間の問題だと確信していたそうです。

「〇〇でなくてはならない」
「××って思われている」
私たちは時にこういう言い方をしますが、それでは誰がそう言っているのか問われたとき、「A山B子さんが言った」といった具合に、固有名詞を挙げて答えられる人はごくわずかではないでしょうか。「〇〇でなくてはならない」「××って思われている」は誰かにはっきり言われたわけではなく、自分の内部から湧き上がってくる“声”であり、つきつめていくと、自分が勝手に思っているだけです。

それではなぜ、自分がそう思ってしまうかと言えば、親がそういう価値観だった可能性が一番高いのですが、もうひとつ思い当たるのが、「正解がひとつしかない」と考えるからではないでしょうか。

カレンは離婚を決めた頃、心理療法士に「このまま終わるんじゃないかと思うと、それが怖い」と語っていたそうです。もう結婚生活を送ること、子どもを産むことはないことはないと考えていて、そこに絶望や恐怖を感じていたそうですが、これが「正解がひとつ」の典型的パターンではないでしょうか。当時のカレンは30歳そこそこですから、病気を真剣に治せばいくらだって結婚や出産の可能性はあったはず。けれど「結婚は1回が望ましい」「結婚は20代でするもの」「離婚イコール失敗」と先に決めつけていたのなら、30代のカレンは絶望的な気分になるしかないのです。

「うまくいかなかったこと」からではなく、自分が決めたひとつの正解にこだわっているから、苦しいのではないか? 結論を先に決めつけているから、自分ばかりがうまくいかない気になるのではないか? 今ではほとんどなくなりましたが、“声”が聞こえてきた時、私は自分にこう語りかけることにしています。

(文・仁科友里/イラスト:井内愛)

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この記事のライター

1974年生まれ。OL生活をつづったブログが話題となり、2006年「もさ子の女たるもの」(宙出版)でデビュー。「週刊文春」「週刊女性」「女性セブン」にタレント論、女子アナ批評を寄稿。2015年「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)が異例の婚活本として話題を呼ぶ。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」

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