燃えた! 叫んだ! 泣いた! スケーターたちが日本中を焼き尽くした世界選手権の奇跡

フィギュアスケート、なかでも男子選手のすぐれた体術をこよなく愛するエンタメライターが、素人なりの偏愛を綴る、冬季限定コラム。

燃えた! 叫んだ! 泣いた! スケーターたちが日本中を焼き尽くした世界選手権の奇跡

五輪王者の帰還、若き天才の台頭、挫折からの復活――。3月20日~3月24日に開催されたシーズン最大の大舞台・世界フィギュアスケート選手権は、会場のさいたまスーパーアリーナのみならず、日本中のお茶の間を焼き尽くすエキサイティングな闘いになりました。

女子シングルは、ロシア勢のポテンシャルが爆発する展開に。金メダルのアリーナ・ザギトワ選手は、SP(ショートプログラム)もFS(フリープログラム)も文句なしの無双っぷり。これだけ技術で圧倒してくれたら、もう爽快! ぐうの音も出ない! 3位のエフゲニア・メドベージェワ選手も、FSのパーフェクト演技で、SP4位から怒濤の巻き返し。昨年の平昌五輪の金メダリスト・ザギトワ選手と、銀メダリスト・メドベージェワ選手は、今シーズンは揃って不調に苦しんできました。それが、シーズン最大の大会でこの鮮やかな復活劇。ネガティブな声をはねのけ、スケート大国の底力を見せつけたロシアン魂に、もうひれ伏すしかありません。
その2人とデッドヒートの末、銀メダルに輝いたカザフスタンのエリザヴェート・トゥルシンバエワ選手は、ついに試合で4回転ジャンプを決めるという偉業を達成! 細―――――い体でスルスルスルッと回転&着地する4回転ジャンプは新感覚で、女子ならではの美しさに心が躍りました。

日本女子たちは残念ながら台乗りできませんでしたが、それぞれエモーショナルな瞬間を見せてくれたと思います。SPで7位と出遅れた紀平梨花選手は、FSの神演技で4位に浮上。今シーズンはSPのトリプルアクセル(3回転半)に苦しみ続け、今回も決めることができませんでしたが、臆せず挑戦し続ける姿に未来の栄光を予感しました。5位の坂本花織選手は、FSでミスが出たものの、SPで自己ベストを更新。ダイナミックなジャンプだけでなく、スピンやステップもオールレベル4(最高評価)で、会場にジャンピングスタンディングオベーションを巻き起こす名演技でした。そんななか、個人的にベストパフォーマンスだと感じたのが、6位の宮原知子選手のFS。愚直なまでにひたむきな練習で育ててきた、正統派の洗練と情感……。それがなかなかスコアに反映されないのが歯がゆいけれど、確実に人の心を動かすスケーターに成長していると思います!

イラスト:ミーハーdeCINEMA

男子シングルのほうも、日本人選手の葛藤と成長が見られる展開でした。宇野昌磨選手は、初めて自らに「勝つ」という負荷をかけて臨んだ試合でしたが、いくつかミスが出てしまい4位に。確実に「勝つ」ために、SP冒頭の4回転で転倒した後、次の4回転+3回転を4回転+2回転に変更してリスクを回避する場面も。インタビューでは「誰に何を言われようと、潔く逃げました」とコメントしましたが、“逃げる”という言葉を自ら使える率直さ、冷静さ、強さは、やはりタダ者ではないです。メンタル面の急激な変化は、間違いなく次の世界王者への布石。まずは4月の国別対抗戦で、絶対にリベンジしてほしい!! 
一方の田中刑事選手は、SPでまさかの19位に沈んでしまいましたが、FSは堅実にまとめて14位に。キレキレのステップに男らしさを注入し、1滴も残すことなく力を出し切ったように見えました。

そして、ケガで休養中だった羽生結弦選手は、日本中の期待を背負って4カ月ぶりに試合に参戦。SPで4回転に失敗し、1位のネイサン・チェン選手に12.53点差をつけられるという波乱のスタートになりましたが、翌日のFSでは恒例の鬼神モードに! まるで火の玉のように激しくリンクを駆け巡り、今季世界最高点となる300.97点を記録しました。なのに、なのに……。その直後に滑ったネイサン・チェン選手が、目を疑うようなモンスター演技で323.42点を叩き出し、あっという間に記録を塗り替えて優勝!! 誰もできない高難度構成を完璧にこなし、ステップや音楽表現もキレッキレ。完全に覚醒した19歳の天才・チェン選手が、余裕の笑みさえ浮かべながら、五輪2連覇のレジェンドを破った瞬間でした。

おそらくケガが完治していなかった羽生選手は、燃え盛る気迫を燃料に、全身全霊で演技に食らいついているように見えました。その様子をみていて思い出したのは、2012年の世界選手権で演じたFS「ロミオとジュリエット」。まだ17歳だった羽生選手が、派手な転倒から立ち上がって気迫でジャンプを跳びまくり、銅メダルを獲得した伝説の演技です。そう感じたのは、FSの使用曲が「Origin」(起源)だったからかもしれません。本来これは、プルシェンコ選手に憧れた子供の頃に思いを馳せるプログラム。でも、あの怖い物知らずの獰猛さ、青い輝きを感じた2012年の演技もまた、羽生選手にとって、ひとつの原点だった気がするんです。

チェン選手との闘いに破れた羽生選手は、その直後こそ悔しそうな顔を見せましたが、いつしか「彼が本当に強かった」→「しっかり負けられた」→「正攻法で勝ちたい!!」→「4回転の種類を増やす!!!」と荒ぶり始め、キラキラしたリベンジャーの顔に。「初心に戻ってスケートを楽しみたい」という気持ちで選んだ「Origin」が、羽生選手を17歳の頃のような表情に戻してくれる。こんなメイクドラマが待っているなんて、シーズンの始めには想像もしていませんでした。

チェン選手と羽生選手、宇野選手はFSで4回転を4本、3位のヴィンセント・ジョウ選手や5位のボーヤン・ジン選手は3本の構成。女子も3回転+3回転を2種類跳ぶザギトワ選手、トリプルアクセルが武器の紀平選手、4回転を跳べるトゥルシンバエワ選手の活躍で、超高難度ジャンプ時代を実感させる試合となりました。それはワクワクすることではあるけれど、選手の体にはどれだけの負担がかかっていることか……。

かつて「スケート以外の夢は全部捨ててきた」と話したのは羽生選手ですが、おそらくほかの選手にとっても、スケートは人生を懸けた壮絶な闘いだと思います。だからこそ、氷上に映し出される選手たちの人生に、私たちは胸を熱くするのでしょう。この連載は今回で終了しますが、これからもひとりでも多くの演技を見て、その人生に圧倒されたい。そのためにも、チケット争奪戦という己の闘いに勝たなくては……!

(文:白山氷子/イラスト:ミーハーdeCINEMA)

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この記事のライター

ライター、インタビュアー。映画雑誌、テレビ雑誌、Webサイトなどを中心に、エンターテインメント記事全体に関わる。主なインタビュー対象は俳優、女優、アイドル、映画監督、プロデューサーなど。趣味は読書、映画鑑賞、音楽鑑賞。フィギュアファン歴は10年ほどで、一番好きなプログラムはプルシェンコ選手の『ニジンスキーに捧ぐ』。