羽生結弦がプルシェンコ&ウィアーの名プログラムをトリビュート!「初心に帰った」彼の原石時代を回顧する

フィギュアスケート、なかでも男子選手のすぐれた体術をこよなく愛するエンタメライターが、素人なりの偏愛を綴る、冬季限定コラム。

羽生結弦がプルシェンコ&ウィアーの名プログラムをトリビュート!「初心に帰った」彼の原石時代を回顧する

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ついに、この日が来た――。
フィギュアスケートの2018-2019シーズンが開幕し、話題の新プログラムでフィンランド大会に挑んだ羽生結弦選手が優勝しました。SP(ショートプログラム)の「秋によせて」は、かつてジョニー・ウィアー選手が使った曲。FS(フリースケーティング)の「Origin」は、エフゲニー・プルシェンコ選手の「ニジンスキーに捧ぐ」をアレンジした曲です。羽生選手が幼少期から憧れていた2選手のプログラムを選んだのは、初心に戻り、スケートを楽しみたいという気持ちがあったからだとか。五輪2連覇を成し遂げた選手が、自らの原点となった選手をトリビュートする。そんな明快でエモーショナルな行動を素直にやってのけるところが、数々のメイクドラマでフィギュアファンを泣かせてきた羽生選手らしい!

SPの「秋によせて」は、クラシカルな身のこなしと、羽生選手の天性の透明感が溶け合い、とにかく美、美、美……。羽生選手はウィアー選手を“スピンやジャンプでも表現できる選手”だと話していただけに、このプログラムも、細部の表現にまで美が宿りまくりです。なかでもスピンは、頭を抱えるようなせつない手の動きや、ウィアー選手と同じパンケーキスピン(※フリーレッグを軸足の膝の上に乗せ、その上に上半身をかぶせたスピン。ウィアー選手はこのポジションで手を足の間から出していた)などが涙腺を直撃。深みのある情感の表現で、成熟と貫禄を感じさせてくれました。
そしてFSの「Origin」は、古事記をイメージして作られた神々しい和の世界で、ただならぬ気迫がダダもれ! ジャンプの軸がブレても転倒せず、意地でも着氷する羽生選手おなじみの光景が、現役時代のプルシェンコ選手と重なって胸が熱くなる瞬間も。バレエとフィギュアの美を融合させたプルシェンコ選手の「ニジンスキー~」とはまったく違うけれど、プルシェンコ選手と羽生選手が“強さ”によって共鳴し合っているかのような感覚……。演技を終えた後の羽生選手からは、エネルギッシュな王者の美が匂い立ち、新たなカリスマ誕生! と叫びたくなりました。

プルシェンコ選手とウィアー選手に憧れ、プルシェンコの髪型をマネしていた少年時代の彼が一躍注目を浴びたのは、ジュニアグランプリファイナル、世界ジュニア選手権でダブル優勝した14~15歳の頃。当然、まだ現在のようなオーラはなかったけれど、当時からひとつひとつのエレメンツ(※技術要素)そのものに圧倒的な華があるところに、プルシェンコ選手やウィアー選手に通じるものを感じました。どこまでもカッ飛んでいきそうな飛距離のトリプルアクセル、プルシェンコ選手を見て始めたビールマンスピン(※片足を後方から頭上に伸ばし、手でキープする体勢のスピン)や、レイバックイナバウアー(※上半身を大きく反らし、つま先を大きく開いて真横に滑る状態)など、男子には珍しい柔軟なポジション。そこに「この曲大好き!」という気持ちが伝わる音楽表現が加わり、キラッキラの原石感を漂わせていたのを思い出します。FSの「パガニーニの主題による狂詩曲」とEX(エキシビション)の「Change」には、いずれも音に合わせてパッと手を広げる仕草があるのですが、そんなキメどころの角度やタイミングも最高! まったく違う曲調のプログラムでビシバシ的確に音を捉え、美しいポージングの連続で音楽に調和する。そういうタイプの踊り心に無限のポテンシャルを感じていましたが、まさかその後、テクニック面でもここまでの超人になるとは……。

イラスト:ミーハーdeCINEMA

プルシェンコ選手やウィアー選手のプログラムのマネをしていた頃の思い出を、競技に昇華している今シーズン。強靱なチャレンジ精神とモチベーションで頂点を極めた羽生選手ですが、子供の頃から今までずっと、“カッコいい! やってみたい!”というピュアな少年魂をどこかに感じさせてくれる人です。コーチのブライアン・オーサー氏は、羽生選手が五輪2連覇を成し遂げてもなお戦い続ける理由を、「彼はただただスケートが好きなのです」と話しています。すさまじい孤独や試練のなかで輝く“好き”という曇りのない気持ちが、羽生選手を前人未到の境地へ連れてきてくれたのかもしれません。
「Origin」では世界初の4回転+トリプルアクセルという超大技を成功させた羽生選手ですが、以前のアイスショーではそれどころか、4回転+トリプルアクセル+トリプルアクセル+トリプルアクセル…と繰り返す超超超大技を、楽しそうに披露していました。4回転+アクセルジャンプは、ルール上は連続ジャンプとして見なされず、基礎点が0.8倍になってしまう組み合わせ。それでも試合に組み込むのは、「自分がジャンプを楽しんでいる原点だから」だと話す彼は、本当に純粋に、難技への挑戦が好きなのでしょう。その上、「今後はクワドアクセル(4回転半)を入れたい」とまで話している異次元さ。プログラム発表時は「自分のために滑りたい」「楽しみたい」と話していたのに、今はもう「勝たなければ意味がない」と完全ギラギラモード。きっとそうくるだろうと思っていた、思っていたけれど……本当にちょっと強靭すぎる!

羽生選手は今年4月に、自らプロデュースしたアイスショーに「コンティニューズ・ウィズ・ウィングス」というタイトルをつけています。“羽生結弦が引き継いできたもの”を意識したというこのショーの最中に、羽生選手はプルシェンコ選手とウィアー選手にトリビュートの許可を得たといいます。そして数奇なことに、プルシェンコ選手の5歳の息子・サーシャくんは、羽生選手に憧れ、「僕のヒーロー」と呼んでいるというドラマティックさ。偉大な先人から引き継いだフィギュアスケートの血脈と、“好き”という純粋な思いを、下の世代に引き継いでいく。それもまた、羽生選手の大きな偉業なのだと思います。
まさに“Origin”(起源)という言葉を体現しながら猛スピードで生きる彼は、今シーズン中に史上初のクワドアクセルを跳び、新時代の起源になってくれるんじゃないか……。見ているこちらも初心に帰り、少年時代の羽生選手を応援していた頃のようにワクワクしています。

(文:白山氷子/イラスト:ミーハーdeCINEMA)

【いっちょかみフィギュア 記事一覧】
第1回 おかえりなさい、髙橋大輔! サプライズ復帰で再着火したフィギュア熱
第2回 羽生結弦がプルシェンコ&ウィアーの名プログラムをトリビュート!
第3回 トリプルアクセルとともに生きた浅田真央への愛を叫ぶ!

この記事のライター

ライター、インタビュアー。映画雑誌、テレビ雑誌、Webサイトなどを中心に、エンターテインメント記事全体に関わる。主なインタビュー対象は俳優、女優、アイドル、映画監督、プロデューサーなど。趣味は読書、映画鑑賞、音楽鑑賞。フィギュアファン歴は10年ほどで、一番好きなプログラムはプルシェンコ選手の『ニジンスキーに捧ぐ』。