宇野千代の名言をななめ斬り!「恋をしなさい」

矛盾に満ちた世の中を、レジェンドたちはどう渡り歩いてきたのか。ライター・仁科友里さんが名言をひも解きながら、「女の生きざま」をナナメから考察します。

宇野千代の名言をななめ斬り!「恋をしなさい」

瀬戸内寂聴センセイが「婦人公論」(中央公論社)で、こんな話をしていたことがあります。
寂聴センセイが文壇の先輩にあたる宇野千代(以下、チヨ)に、男性作家の人となりをたずねる意味で「〇〇さんは(どんな人でしたか)?」と聞くと、チヨは「寝た」とか「寝ない」と答えたと。気を許した後輩女性作家との会話だからと思いきや、チヨは「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に出演した際も、公共の電波で「寝た、寝ない」を披露し、徹子を笑わせます。

このエピソードだけでもチヨのユニークさは十分伝わってくると思いますが、ここでチヨの人生を自叙伝「生きていく私」(角川文庫)をもとに振り返ってみましょう。

山口県岩国市の裕福な家庭に生まれたチヨは女学校を出た後に、小学校の代用教員となります。チヨの美貌にひきよせられて、名家の息子がチヨを犯します。本来なら大問題になるべきことですが、チヨは「一瞬の間に終わった。これが、あのことか」と恬淡としています。同僚の教師に恋をしたチヨは、相手の男性の家に泊まり込んで大問題となり、学校をクビになります。ほとぼりをさますためにチヨはソウルに渡りますが、同僚の教師が結婚すると聞くと、出刃包丁を持って相手の家に押しかけ、逆につきとばされて終わったそうです。修羅場であるはずなのに、どこかおかしさが漂ってしまうのが、チヨのすごいところ。

三高に通う従兄と再会したチヨは「兄妹です」と偽って同棲をはじめ、その後結婚。夫の北海道転勤について行き、小説を書き始めます。懸賞小説で一等を取ったチヨは北海道から出版社に賞金を取りに行った際に、尾崎士郎と知り合います(士郎は二等)。その日から二人は同棲をはじめ、北海道には帰らなかったそうです。

従兄である夫と正式に別れ、尾崎と結婚しますが、作家・梶井基次郎との関係を疑われ、別居。まもなく離婚します。画家の東郷青児が愛人と頸動脈を切って心中未遂したことにインスピレーションを得たチヨは、東郷に取材を申し込み、東郷の家へ出かけます。心中の際に飛び散った血がかぴかぴに固まった布団の上で、チヨは東郷とセックスをするのでした。想像するとホラーですが、チヨはいつもどおりあっけらかんとしており、「気味悪さを感じるどころか、自分もまた、一種いいようのない冒険の世界を通り抜けたような気持になったから、不思議である」と書いています。あんたが一番不思議だよ、チヨ!

この後も10歳年下の北原武夫と結婚して離婚するなど恋愛を繰り返します。恋愛と結婚を繰り返す彼女を“恋愛体質”という人もいるでしょう。しかし、調べてみると、チヨはオトコ(東郷青児)に聞いた話をもとに自身の代表作、「色ざんげ」などの代表作を生み出しています。ただ単に恋愛ばかりしていたわけではなく、きっちり回収するあたりがさすがです。

イラスト:井内愛

チヨと同世代の作家に、真杉静枝がいます。チヨと同じく美貌の作家で、武者小路実篤など文壇の大物と恋愛をしますが、仕事も恋愛もなんだか中途半端なのです。彼女の人生を林真理子センセイが「女文士」(新潮文庫)で書いており、そこにチヨも登場します。静枝は結婚がしたくて彼氏の顔色をうかがっているのに、チヨが年下オトコ相手に臆することなく用事をいいつける様子を、静枝がうらやましく思うシーンがあります。静枝はその原因を「運が悪い」と思っていると小説では描かれていましたが、客観的に見れば、チヨが仕事で成功しており、自分で食べていけるから遠慮する必要がなかったからではないでしょうか。男性から見ても、美しく、有名人であり、自分に金銭的なものを求めないチヨは好ましい存在だったでしょう。

チヨは「恋をしなさい」と言います。その一方で、チヨは人生の大切なことのうちに金を稼ぐことをあげています。実際、チヨは従兄と同棲している2年をのぞいて、職種を問わず、ずっと働きつづけています。生涯で十軒以上の家を建てたというのだから、たいしたものです。

恋と仕事(カネ)というのは対極と考えられがちですが、誰かに食べさせてもらう必要がないから堂々としていられる、相手の経済力を度外視して、自分の好きな人を選べることを考えると、恋をするために必要なこと、それが仕事なのではないかと思うのです。

仕事をするということは、出会いがあるということでもあります。四回結婚したチヨも、初婚をのぞいて、仕事の関係で相手を見つけています。チヨのように尋常でない恋愛体質とははっきりいって生まれつきであり、凡人がどれだけ努力しても真似することができないでしょうし、これはこれで厄介な性質でもあると思うのです。しかし、恋愛をする確率を上げる、もしくはパートナーを見つけるのに仕事が有効であることは、誰にとってもあてはまる真理ではないでしょうか。

以前、晩年に最愛のパートナーと知り合った有名人として、オードリー・ヘップバーンや、ジャクリーン・ケネディ・オナシスをご紹介したことがあるかと思いますが、彼女たちのパートナーは、仕事仲間です。ジャクリーンの相手はもともとはケネディ大統領のブレーンでしたし、ヘップバーンの場合は年下の俳優仲間でした。若い時は、見栄としての見た目や聞こえの良さを重要視しますが、それを取り去って相手を選ぶとしたら、残るのはお互いを理解したいと思えるかという同志的な愛情ではないでしょうか。

チヨは恋愛において、さっと身を引くタイプでした。そして、失恋が確定すると、部屋にこもって大泣きして大暴れし、スッキリしたらおしゃれをして外に出かけていたそうです。チヨ、フツウは泣いたくらいでスッキリしないんだよと言いたいところですが、チヨは天性の恋愛体質に加え、健康で仕事をしていれば、恋なんて無限にできると知っていたのかもしれません。

(文:仁科友里/イラスト:井内愛)

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この記事のライター

1974年生まれ。OL生活をつづったブログが話題となり、2006年「もさ子の女たるもの」(宙出版)でデビュー。「週刊文春」「週刊女性」「女性セブン」にタレント論、女子アナ批評を寄稿。2015年「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)が異例の婚活本として話題を呼ぶ。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」

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