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【新連載】田舎に戻った私が出会ったのは、やさしくて頼れる人……

Story3 ★わたしだけ飛び込めない

ふいに、何もかもに現実感がなくなった。
愛らしく感じていた窓の外の故郷の町並みが、
知らない土地のように、
冷たく疎外感を感じさせる風景に見えてくる。

岩城さんは、わたしと付き合ってほしいという。
実はわたしも、岩城さんのことは大好きだ。
「よかったね『うん』って言っちゃいなよ」
と、心の中でもうひとりのわたしが言う。

なのに今ひどく息苦しく、何もかもが恐ろしく、
家に、自分の部屋に逃げ帰りたいような気分だ。
もちろん、その恐さに理由はない。
わたしは心の中で「ゆっくり、ゆっくり息を吐いて」
と繰り返し唱えてから、なんとか笑顔を作った。

「お返事なんですけど……少しだけ、
ほんの少しだけ、待ってもらうことできますか?」
わたしがそう言うと、
岩城さんは一瞬だけ悲しそうな顔になった。
でもすぐに笑顔になって
「わかりました」と元気に答えてくれた。
「ありがとう……」
しばらくすると、またすべてが元に戻った。
呼吸は平常になり、故郷の町並みは愛らしく、
そして隣に座る岩城さんのことは、やはり大好きだった。

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