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【新連載】田舎に戻った私が出会ったのは、やさしくて頼れる人……

その時小さな予感がして顔を上げると、
自動ドアからがっしりとした男性が入ってきた。
岩城さんだ。
小さいけれど重そうな箱を小脇に抱え、
紙を巻いた長い筒を3本持っている。
いつものように「どうも失礼します~」と、
体に合わない優しげな声でカウンターにくる。
わたしはカウンターの時計に視線を走らせる。
11時45分。あと15分で、お昼休みだ。

「例のイベントのポスターとパンフです」
「じゃあ、我が朝里が誇る大女優が、
とうとう出てくれることになったのね」
布田さんが心底うれしそうに、
パンフレットとポスターを受け取った。

「ポスターは一番目立つところで、
パンフレットは入口に置いてください」
「わかりました……あら、もうお昼の時間ね。
藤川さん、今日先にランチいってもらえるかしら」
「よかったら、ぼくもご一緒させてください」
こうなったら、イヤとは言えない。
いや、わたしもうれしいのだけれど。
でも岩城さんとわたしが出ていくのを、
図書館の人たちがあわてて見にこようとするのは、
やはりちょっと、恥ずかしすぎる。

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