【新連載】雨空を見上げながら、あの人と出会った日のことを思い出す……
Story1 ★あの人は嵐のように
「あ、やっぱり降ってきたんだ」
窓の少ないこの店の、
天井近くの小窓には墨のような黒雲がのぞき、
小さく水滴が付きだした。
朝、検品で本がいつもより重いと感じたとき、
予感した通りに雨。
きっと間もなく、びしょ濡れの傘を持って、
小止みになるまで待とうとするお客様が、
この書店に多くいらっしゃるだろう。
「おい高野、ボヤボヤするな!」
一瞬、あの人の声が聞こえた気がして、
わたしは小さく笑った。
「飯塚さん、傘袋のスタンド出そう」
「はい、店長」
わたしはバイトさんと手分けして、
東と西にある出入り口に傘袋のスタンドを置く。
と同時に雨はたちまち豪雨になり、
道行く人々から「ワッ」と声が上がる。
きっと今ごろあの人も、自分の店で同じように、
雨を気にしているだろう。
わたしは空を見上げ、
あの人に始めて会った日のことを思い出していた。