「とんでもございません」は間違い? 正しい敬語表現と言い換え(例文つき)
上司や目上の人から褒められた時、謙遜の気持ちを示す意図で「とんでもございません」という言葉を使っていませんか? 実はこの「とんでもございません」は、文法的に正しいとは言い難い表現なのです。ライティングコーチの前田めぐるさんに、「とんでもございません」の正しい表現、使い方について解説してもらいました。
「とんでもございません」という言葉は、目上の人から褒められて返す時などによく使われる謙遜の表現です。
本来「とんでもございません」は文法上の法則から外れた用法ですが、現在では相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消す時の表現で使うことは問題ないとされています。
果たして、全てのビジネスシーンに当てはめていいものでしょうか?
「とんでもございません」の意味とは?
目上の人から褒められた時などに使う「とんでもございません」の元になっている言葉は「とんでもない」です。「とんでもない」には、次のような意味があります。
とんでもない
(ト(途)デモナイの転)
(1)とても考えられない。思いもかけない。途方もない。
(2)(相手の言葉を強く否定して)そんなことはない。冗談ではない。▽いまは「とんでもありません」「とんでもございません」の形でも使う。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
上記の意味から判断すると、目上の人から褒められた時の「とんでもない」は、(2)の意味です。
褒められたり、賞賛を受けたりした時に、「いえいえ、それほどのことではありません」と謙遜して使います。
ちなみに、「とんでもございません」の「ございません」は「ありません(ない)」をより丁寧にした言葉で、「とんでもない」を丁寧に言うための表現です。
「とんでもございません」は誤用なのか?
ここでは「とんでもございません」が文法的に間違った表現なのか、日常生活で使用してはいけないのかどうかを解説します。
「とんでもございません」は伝統的用法ではない
「とんでもない」は、「とんでも」に打消しの助動詞「ない」が付いたものでもなく、あくまで6文字でひと続きの言葉です。
「もったいない」「切ない」「みっともない」が分割できないように、「とんでもない」も「とんでも」と「ない」に分けることはできません。
また、「とんでも+ある」に分けられるものでもなく、そもそも「とんでも」という単語はありません。
したがって、「とんでもございません」は、本来ひと続きの言葉である「とんでもない」を誤って2つに分けて丁寧な敬語表現に変換したものであり、成り立ちから考えると文法的に正しいとは言い難いのです。
普段のビジネスシーンでは問題なく使える
前述した通り、本来であれば文法的には正しいとは言いにくいのですが、昨今では日常的な場面で使うには問題がないと許容されるようになっています。
冒頭でも書いたように、第六版以降の『広辞苑』にも、“「とんでもございません」の形でも使う”と載っています。
また、2007年に発表された「敬語の指針」(文化審議会答申)でも次のように容認されています。
「とんでもございません」(「とんでもありません」)は、相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり、現在では、こうした状況で使うことは問題がないと考えられる
(「敬語の指針」【29】解説1より)
この解説にある「軽く打ち消すとき」の想定に個人差はあるかもしれませんが、次のような日常的な会話では「とんでもございません」と答えて差し支えないでしょう。
なお、「とんでもございません」だけだと、まれに「褒めたことがいけなかったのかな?」「気に障ったかな?」と勘違いする人もいるので、下記例文のように後に一言付け加えるといいでしょう。
例文
Aさん「御社は名実ともに業界ナンバー1だね」
Bさん「とんでもございません。まだまだ及びません」
Aさん「スタッフさんたちが素晴らしいね。あなたの教育のたまものだね」
Bさん「教育などとんでもございません。スタッフ達に助けられてばかりです」
A部長「担当の○○から、Bさんはできる人だと聞いていますよ」
Bさん「とんでもございません。まだまだ至らないことばかりです」
A部長「この間は、○○さんを手伝ってくれてありがとう。助かったと感謝していたよ」
Bさん「とんでもございません。お安い御用です」
次のページでは、「とんでもございません」を正しい敬語に言い換えるとどうなるのか解説します。