上司から受けるさまざまな行為。パワハラかもしれないと感じているけれど、厳しい「指導」なのかもしれないし、判断がつかずになかなか言い出せない……。そんな経験ありませんか? 今回はどのような行為がパワハラにあたるのか、さらにその対処法について、弁護士の刈谷龍太先生に伺いました。
■パワハラ上司の特徴とは?
まずは、パワハラとはなんなのか、さらにそういったパワハラをする上司の特徴について教えていただきました。
◇パワハラと指導の違い
「パワハラ」とは、パワーハラスメントの略語ですが、法律上に定義がある言葉ではありません。厚生労働省は職場のパワーハラスメントを、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、「業務の適正な範囲」を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義しています。これを踏まえると、仕事における上司の言動に不満を感じたりする場合でも、「業務の適正な範囲」で行われている場合はパワハラではなく、業務上の必要な「指導(指示や注意も含む)」にあたると考えられます。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められているからです。では一体、どのような行為がパワハラにあたると言えるのでしょうか。
☆叩く・殴る・蹴るなどの身体的な攻撃
暴行罪や傷害罪に該当しうる行為なので、「業務の適正な範囲」とは到底考えられず「パワハラ」にあたります。
☆脅しや侮辱、暴言など
「やめてしまえ」など、社員としての地位を脅かす言葉、「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱や名誉棄損にあたる言葉、「バカ」「アホ」などの暴言は、原則「パワハラ」にあたるでしょう。
☆人間関係から切り離す行為
一人だけ別室に席を離す、職場の全員が呼ばれている忘年会や歓送迎会に呼ばないなどの仲間外れや無視なども、原則「パワハラ」にあたります。
☆無理な仕事の要求
業務上の必要な「監督」・「指導」とされる場合もありますが、些細なミスについて見せしめ的に逐一始末書の提出を求めたり、能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課したりすることは、パワハラになる可能性があります。
☆少しの仕事や職種と別の仕事しか与えない
会社の状況や教育の観点から行う場合は、業務上の必要な「監督」・「指導」とも判断できます。しかし、採用された部署での仕事を与えなかったり、仕事を与えずに放置したりすることなどは、過小な要求としてパワハラになることも。
☆プライバシーの詮索
執拗に配偶者や交際相手との関係や私生活を問いただしたり、携帯電話やロッカーなど私物を覗き見たりすることなどは、プライバシーの侵害としてパワハラにあたると言えます。
以上のように、「パワハラ」と「指導」の境界線はその線引きが難しい場合も。その際、「パワハラ」にあたるかは、さまざまな観点から総合的に判断されます。例え上司が「指導」であると主張したとしても実際は「パワハラ」と判断されることもあるのです。疑いを持った場合は、まずは一人で抱え込まずに、家族、友人、専門医、弁護士など信頼のおける第三者に相談しましょう。
◇パワハラ上司の特徴をチェック
自分の上司がひょっとして「パワハラ上司かも!?」。そう思ったときには下記の確認事項をチェック。あくまでパワハラを引き起こす人の傾向として現れている特徴ですが、当てはまる数が多い上司ほど注意が必要と考えてよいでしょう。
(1)他者の人格や差異を軽んじる、尊重できない
(2)誠実さや正直さに欠けている
(3)自分を強く見せたい、よく見せたいという自意識を過剰に持っている
(4)支配欲・権力志向・野心が強い
(5)臆病、小心者
(6)些細なことを気にする神経質、心配性
(7)嫉妬深い
(8)自分より地位の高い・強い者に迎合する
(9)成果・数字ばかりを求める
(10)ストレスを抱えている
■パワハラ上司への対処法
続いて、パワハラ上司への対処法についても教えていただきました。
◇自己の安全と健康を最優先に
「パワハラ」は、心身にきわめて強いストレスを与えるものにも関わらず、自己の気持ちが弱いだけと自分を追い詰めたり、周囲や会社に迷惑を掛けるのではと考えて我慢したりするケースが多く見受けられます。しかし、一人で抱え込んでいても状況が良くなることはまずありません。むしろPTSDやうつ病などの発症につながることもあります。そうならないためにも、何より自己の安全と健康を最優先に考え、家族、友人、専門医など信頼のおける第三者に相談すべきといえます。相談することで、自身の状況を客観的に把握することにつながりますし、精神的苦痛が和らぐこともあります。
◇証拠を収集する
自己の安全と健康が確保できたら、上司や会社との示談交渉や裁判になる場合に備えて証拠を収集しましょう。具体的には、まず自身で可能なこととして記憶が鮮明なうちに、パワハラの日時、場所、内容を日記などにできる限り詳細に記録することをおすすめします。可能な場合は、スマホなどを用いてパワハラ時(前後も含む)の写真・録音・録画も残しておきましょう。また、家族や友人に相談していた場合には、メールなどのやり取り、病院に行った場合には診断書も証拠となるでしょう。なお、同僚などの証言も証拠となりえますが、立場上協力を得ることが難しい場合もあるので注意が必要です。
◇社内外の相談窓口への支援要請
証拠の収集とともに、人事部、労働組合、苦情処理窓口、健康管理室など社内に相談窓口がある場合には、まずそちらに支援を要請しましょう。一方、社内に相談窓口がない場合(会社が信用できない場合も含む)、社内では解決できない場合には、社外の弁護士や公的機関など外部の相談窓口へ支援の要請を。全国の労働局・労働基準監督署にある総合労働相談コーナーは、無料で相談を受け付けており、電話でも相談できます。
■パワハラは抱え込まずに第三者へ相談を
パワハラと指導の違いというのはなかなか一人で判断することは難しいもの。また、一人で立ち向かってさらに被害にあうことも考えられます。そのため、思い当たる行為をされた際にはまずは相談を。身近な人に話すことで気持ちが楽になったり、専門家のアドバイスで事態が改善したりすることもあります。耐えることが良いこととは限りません。あなたらしく生き生きと毎日を過ごすために、「自分は一人ではない」ということを、ぜひ心に留めておいてくださいね。
(文:刈谷龍太、構成:森嶋千春)
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