男性が興奮したときや射精の前に、ペニスから分泌される「ガマン汁」「カウパー液」。医学用語では「カウパー腺液」といいますが、どうして出るのか、ガマン汁で妊娠はしないの? など、実態をよく知らないという人も少なくないのでは。
健やかなセックスライフを送るためにも、ガマン汁(カウパー腺液)や避妊法の予備知識を持っておくと安心。早速チェックしていきましょう。
■カウパー腺液って一体何?
カウパー腺液、通称ガマン汁とは、ペニスの先端から出る無色透明のヌルヌルとした液体のこと。アルカリ性の液体で、男性が性的に興奮すると、前立腺の近くにある尿道球腺(またはカウパー腺)という場所から精液よりも先に分泌されます。
◇カウパー腺液の役割
☆挿入をスムーズにする
カウパー腺液には、女性の腟内を濡らしてペニスをスムーズに挿入させる働きがあります。
☆妊娠を成立しやすくする
また、男性の尿道をアルカリ性にするとともに、女性の腟内環境をアルカリ性へと変える働きもあります。
通常、腟内は、外部から侵入してくる細菌などが繁殖しないように弱酸性に保たれています。これを腟の自浄作用といいますが、弱酸性の環境では、精子の活動が悪くなり死んでしまうことも。
そこで、男性の体は、射精の前にあらかじめカウパー腺液を分泌することで、腟内を弱アルカリ性にし、精子へのダメージを最小限にして、その後放出する精子が子宮や卵子めがけて到達しやすくしているのです。
ガマン汁は、妊娠を成立させるために必要なものでもあるのですね。
■カウパー腺液で妊娠はする?
まだ射精はしていないけれど、カウパー腺液が出ている段階でコンドームなしに挿入していた場合、妊娠することはあるのでしょうか。
答えは「YES」です。
なぜなら、性的に興奮し勃起している状態では、カウパー腺液の中に精子が含まれている場合があるから。
人によっては精子濃度が高く、何千もの元気な精子がカウパー液に混じることもあります。男性が意識的に、カウパー腺液だけを出したり、精液だけを出したりする……なんてことはできないので、カウパー腺液が腟内に入れば、妊娠することもあり得るのです。
◇指についたカウパー腺液や精子でも妊娠するの?
精子は体外で短時間しか生きられないため、このような場合に妊娠するリスクは非常に低いと考えられます。
ですが、勃起した状態(カウパー腺液が出ている状態)でペニスが腟に触れた、指に射精した精子がついたまま腟に触れた、腟の近くで射精したなどのケースでは、妊娠の可能性はゼロではありません。
望まない妊娠を避けるには、確実な避妊法を知っておく必要があります。
◇“外出し”でも妊娠するの?
腟外射精(外出し)や基礎体温法(排卵日や妊娠しやすい日を予測し避ける方法、オギノ式ともいう)、セックス後の腟洗浄などは、正しい避妊法ではありません。
ちなみに、腟外射精の妊娠確率は年間100カップルあたり約20件といわれており、5組に1組の割合で妊娠する可能性があります。
また、コンドームを装着した性交での妊娠確率は、100カップルあたり14。つまり7組に1組ぐらいは妊娠していることになるのです[*1]。
「中出ししなければ妊娠しない」「外出しすれば妊娠しない」というのは、間違いです。
■妊娠を避けるには? 正しい避妊方法
望まない妊娠をした場合、体への負担が大きいのは、いうまでもなく女性です。自分の体を守るためにも、正しい避妊方法をきちんと知っておきましょう。
日本で普及している避妊法には、コンドーム、経口避妊薬(低用量ピル)、IUS/IUD、不妊手術などがあります。
◇コンドームだけでは確実な避妊はできない
すでに述べたように、コンドームの避妊効果は確実ではないため、低用量ピルとの併用が勧められます。
コンドームは、エイズや梅毒、淋病といった性感染症を予防するためにも必要です。性感染症を確実に防ぐためには、オーラルセックスのときにもコンドームを装着しましょう。
コンドームをパートナーにつけてもらうことは大事なことで、恥ずかしいことではなく、負担に思うことでもありません。ガマン汁で妊娠する可能性もあるため、挿入する前(勃起すると同時)につける必要があります。
その他、主な避妊法のメリット、デメリットについても次項で紹介するので、押さえておきましょう。
◇主な避妊法の種類と避妊効果
さっそくそれぞれを使った場合の妊娠率(※)とメリット、デメリット[*2, 3]を見てみましょう。
※選んだ避妊方法を正確に使用した場合でも、使用開始1年以内に妊娠する確率(つまり数字が低いほど避妊効果が高い)。
☆経口避妊薬(低用量ピルOC)
妊娠率は0.3%(※)。
2種類の女性ホルモンが入った薬を飲むことで排卵を止める避妊方法。医師に処方してもらいます。
女性主体で避妊ができますが、毎日飲まなくてはなりません。
一時的なむくみ、吐き気、少量の不正出血をきたすことがあります。また、年齢や持病によって血栓症や心筋梗塞などのリスクを伴う場合には使用できないことがあります。
☆IUS(子宮内避妊システム)・IUD(子宮内避妊具)
IUSの妊娠率は0.2%(※)、IUDの妊娠率は0.6%(※)。
特殊な器具を子宮内に挿入し、受精卵が子宮内膜に着床するのを防ぐものです。装着は医師が行います。
一度の装着で2〜5年間、避妊効果を維持できますが、不正出血や痛みが出ることがあります。
また、自然に脱落することがあるので注意が必要です。
☆コンドーム
妊娠率は2%(※)。
簡単に手に入り性感染症予防に役立ちますが、男性の協力がないと使えないというデメリットがあります。また、破損や脱落、精液が漏れることもあります。
どんな避妊方法でも100%の避妊効果はないということがわかったと思います。
◇避妊に失敗、望まないセックスだった……など緊急時の対処法
コンドームが外れた・破れた、精液やガマン汁が入った、低用量ピルを飲み忘れたなど避妊に失敗した場合。レイプ被害など、望まないセックスをした場合。
そんな緊急事態が起こった場合の対処法があります。
72時間(3日間)以内に「緊急避妊ピル(通称アフターピル)」を服用することで、約80%という確率で望まない妊娠を避けることができるのです。
☆アフターピルの特徴
・日本で認可されているアフターピルは性交後72時間以内に服用するタイプ(一部のクリニックでは、120時間以内に服用するタイプを処方される場合もあります)
・避妊効果は100%ではない。性交後72時間以内の服用で妊娠阻止率は81%[*4]。また、性交後、できるだけ早く服用した方が効果は高い
・性感染症の予防効果はない
・原則として婦人科受診が必要。保険適応外で費用は医療機関によって異なるが、1万円以上かかることも多い(性被害にあったときには警察に届けると無料)
・一時的に頭痛や、胃の痛み、吐き気などの副作用が出ることがある
・服用後の性交で妊娠する可能性がある。
アフターピルには上記のような特徴が挙げられます。
緊急時というニーズに対応するためオンライン診療&処方を行うクリニックもあります。ただし、配送に時間がかかる場合があるので注意しましょう。
なお、通販サイトで扱っている薬や海外からの並行輸入品は、偽物の可能性があるため利用しないようにしましょう。また、SNS等での取引には絶対に手を出さないことです。
アフターピルは、あくまでも「緊急措置」として知っておくとよいでしょう。普段は、身体的・経済的負担も軽い「低用量ピル」でより確実な避妊をする方法が勧められます。
正しい知識を身につけたうえで充実したセックスライフを
セックスや避妊法については、いまだに誤った情報や都市伝説のような迷信も少なくありません。正しい知識を身につけることは、自分自身はもちろん、パートナーの心とカラダを守ることにもつながります。
充実したセックスライフを送るためにも、ぜひ参考にしてみてください。
(文:及川夕子/監修:宋美玄先生)
※写真はイメージです
※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください
参考文献
[*1]日本産科婦人科学会編 human+ P27
[*2]病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科 医療情報科学研究所/編集P96~99
[*3]Contraceptive Technology, 20 ed,. Ardent Media, 2011 Table3-2 改変
[*4]ノルレボ錠1.5mg 添付文書
[*5]NPO法人ピルコン (アフターピル・緊急避妊)