新米ママの素朴な疑問 「粉ミルク」って何からできてるの?
初めての子育てに右往左往……そんな新米ママにとって、たくさん種類のある「粉ミルク」を1つ買うのも一苦労ですよね。また、粉ミルクって結局のところ「母乳と何がちがうの?」 と思う人もいるでしょう。
そんなママたちの素朴な疑問にお答えするべく、母乳研究の第一人者、雪印ビーンスタークの中埜さんにお話を伺いました。
疑問1 粉ミルクは何からできているの?
中埜さん:みなさんは、粉ミルクが何からできているかご存じですか? もちろん牛乳が主原料なのですが、牛乳を加工しているだけではありません。牛乳は「牛の母乳」です。牛乳には「子牛」の成長に合った成分が含まれており、人間の赤ちゃんには合いません。
「粉ミルク」は、人間の赤ちゃん用に、母乳をお手本にした特別な設計にそって、乳製品(乳清、脱脂粉乳、乳糖など)だけでなく、植物油などを組み合わせて作られているのです。そしてそこに、母乳成分の研究からわかった成分をさらに加えています。たとえば、母乳にはDHA(ドコサヘキサエン酸)が含まれていますが、牛乳には含まれていません。そこで、DHAが多く含まれる魚の油を配合して、母乳に近づけているのです。
<粉ミルクの成分>
・牛乳
・乳清、脱脂粉乳、乳糖など乳製品
・植物油
・母乳成分の研究からわかった成分
疑問2 母乳はどんな成分でできているの?
―母乳には、産まれたばかりの赤ちゃんが成長するのに必要な成分がすべて詰まっていると言われています。具体的に、どのような栄養素が含まれているのでしょう。代表的なものを教えていただきました。
中埜さん:リボ核酸は赤ちゃんをアレルギーから守る母乳成分のひとつです。雪印ビーンスタークの母乳調査の一環で行われた5歳までの追跡調査で、アレルギーにならなかったお子さんが飲んでいた母乳に多く含まれていたことがわかっています。
ガラクトシルラクトースは母乳に含まれるオリゴ糖のひとつです。健康に役立つ善玉菌のエサにはなりますが、悪玉菌のエサにはならないという特長があります。
耳にしたことがある人も多い「DHA」も母乳に含まれています。この成分は魚に多く含まれる脂肪酸のひとつです。脳や網膜の脂質に含まれる主要な成分で、魚介類をたくさん食べるお母さんの母乳にはDHAが多いことがわかっています。
TGF-βは、赤ちゃんをアレルギーになりいくい体質に導いてくれる母乳成分です。免疫バランスが崩れるとアレルギー体質になりますが、TGF-βはバランスをととのえる働きがあると言われています。複数の乳酸菌やビフィズス菌を毎日摂取しているお母さんの母乳にはTGF-βが多く、TGF-βが多く含まれる母乳を飲んだ赤ちゃんはアレルギー発症率が低いという報告があります。
中埜さんいわく、研究でわかった成分すべてが粉ミルクに配合できるかというと、そうではないようです。というのも粉ミルクに配合するためには乗り越えなければならない壁がたくさんあるからだそう。その壁とは、赤ちゃんにとって配合する原料が安全であることはもちろん、食品に入れることができるものは法律で定められているのでその範囲であること、そして商品化するのに欠かせない「安定的に手に入れられるか」が条件となるそうです。さらに味や風味などにも気を使うといいます。こうした条件をすべてクリアしてはじめて、粉ミルクに配合できるというから、その道のりが簡単ではないことがおわかりいただけるかと思います。
疑問3 母乳は発育や病気にどのように関係している?
―「医食同源」という言葉があるように、私たち人間は食べるものから栄養を摂取していますが、母乳は子どもの発育にどのように関係しているのでしょうか?
中埜さん:実はそれに関する詳しいことがまだわかっていません。しかしその謎を解明すべく、全国のお母さん1200名、全部で5,000検体を集める大規模な調査(第3回目の全国的な母乳調査)を実施中です。今回の調査では、お母さんの食事や生活環境についてもアンケートをとり、お母さんの生活と母乳成分の関係を明らかにする予定です。また、その後5年間の追跡調査も実施し、母乳成分と赤ちゃんの発育や病気の関係についても解明していきたいと考えています。
まとめ
まだまだ謎の多い「母乳」。しかしその謎がすべて解明される日は、そう遠い未来ではないのかもしれませんね。今回の取材を通し、母乳の神秘を改めて知るとともに、「粉ミルク」の未来が楽しみになりました。
お話を伺ったのはこの方!
中埜拓さん
雪印ビーンスターク株式会社 商品開発部 副部長。
1990年に雪印乳業(現雪印メグミルク)に入社。
粉ミルク中のタンパク質の研究で、千葉大大学院で農学博士の学位を取得。
母乳研究歴は今年で25年。
(取材・文/マイナビウーマン編集部 梅津千晶)
※この記事は2016年11月16日に公開されたものです