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【新連載】蒸し暑い地下鉄の駅。突然の出会いは思いもよらないもので……

Story2 ★自然体

わたしは駅のトイレで着せかけられたシャツを、
自分のシャツの上から完全に着込んで、
地下鉄のホームへと急ぎ、電車を待った。
その間、さっき渡された名刺をじっと眺めた。

先ほどの井上彰人という人、
さほど年が上とも思えなかったが、
わたしも聞いたことのあるIT系企業の、
専務をしているらしい。
仕事できる人なんだろうな。
わたしは井上さんに少し興味が湧いた。

名刺をカバンにしまうと地下鉄が到着した。
うしろに並ぶ人に押され気味に乗り込む時、
再びシャツに染み込んだコロンが香った。

最近、毎日同じことの繰り返しで、
心が動くことなどない。でもこの香りには、
何か気持ちの深い部分が動かされる気がする。
なんとなく……もう一回会ってみたいかな。

翌日の土曜日、わたしは着せかけられたシャツを、
クリーニングに出しに行った。
破れたシャツは一昨年に買ったものなので、
弁償してもらわなくてもいい。
でも逆にこのシャツは返しに行かないと、と思う。