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【新連載】蒸し暑い地下鉄の駅。突然の出会いは思いもよらないもので……

「うわあ、ごめんなさい!」
代わりに男性が、わたしの方を振り向き叫んだ。
そしてすぐさまその人が、
Tシャツの上に羽織っていたシャツを脱ぎ、
わたしの破れたシャツの上に着せかけた。
「本当に申し訳ない!」
男性は体を90度に曲げて謝った。
わたしはとっさのことに
「いえ」と小さくしか声が出なかった。

「あの……本当に申し訳ないんですが、
ぼく、これからどうしても、
出席しないといけない会議があるんです。
明日以降、服は絶対弁償しますから、
ここにメールか電話ください」

男性はそう言うとクラッチバッグから、
名刺を取り出してわたしに差し出した。
そして再び深々と頭を下げると足早に去った。

着せかけられたシャツからは、
多分天然アロマを使っているだろう、
ナチュラルで深い柑橘系の香りが漂っていた。
名刺には井上彰人と書かれている。
ロッカーの前の女のコたちはもういなかった。