お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

【新連載】蒸し暑い地下鉄の駅。突然の出会いは思いもよらないもので……

Story1 ★残り香

暑い。さっき夕立が降ったのに、
ちっとも涼しくならない。
20時過ぎの地下鉄六本木駅は、
うっすらと冷房が効いているはずなのに、
人の熱気でムンムンしていた。
バッグをかけるために曲げた腕の、
肌の合わせ目から汗が伝う。
この暑さはさすがにきびしいな、と感じたとたん、
さっき自社デザイナーに言われた言葉を思い出す。

「流美子さん、ぼく暑いと集中できないんです」

だからって、納期を遅らせていいわけないだろう。
まったく、あのデザイナーはいつも甘えてばかり。
いや彼だけじゃない。
「流美子ちゃんしっかりしてるから」
なんていいながらほぼすべてのデザイナーが、
わたしに甘える。ふざけるな。

わたしはイライラしながら、
暑さと人の流れに負けないよう、
地下鉄の通路を早足で歩いていた。
すると突然、人混みが小さく開ける。

見ると20歳そこそこの女のコが3人、
ロッカーの前でペタリと床にお尻をつけ、
やはり床にたてた鏡を見ながら、
一心不乱に化粧に精を出していた。

次のページを読む

SHARE