【新連載】蒸し暑い地下鉄の駅。突然の出会いは思いもよらないもので……
「じゃあ、あともう一軒付き合ってください」
井上さんはさっき買ったショップの紙袋をさげて、
先にどんどん歩いていく。
ついたのは、高級靴店だった。
店員さんとは馴染みなようで、
井上さんが入っていくと、
それまでの作業をやめて、
さっと脇について話を聞く体制に入る。
「この方に合うハイヒールを選んでください」
「かしこまりました。測定いたしますので、
こちらの椅子におかけください」
どうやらここはオーダーメイドの靴屋さんのようだ。
「困ります」
「大丈夫です。ここは決して足が痛くならない、
本当にいいものを作ってくれますから」
「いえ、そういう意味ではなくて」
わたしがなおも辞退しようとすると、
井上さんは小さく咳払いした後に言う。
「あの、ですね。
ここは3週間で靴を作ってくれますので
……靴を受け取るころに、
もう一度会ってくれませんか?」