【新連載】蒸し暑い地下鉄の駅。突然の出会いは思いもよらないもので……
「そんなドラマみたいなこと、あるんですね」
「ええ。あるんです。だから……今日で、
お会いするのも最後になっちゃいますね」
井上さんは寂しそうに微笑んでいる。
わたしは少し大きな声が出てしまった。
「それじゃあ、困ります!
あのハイヒールを履いて並んで歩ける男性、
井上さんしかいませんから」
向かいに座った人は、苦笑いしている。
「でも無職の男ですよ」
「わたし、チャレンジし続ける人が好きなんです。
このまま終わる気ないですよね?
また何か、新しいこと始めますよね?」
「……たしかに、このままでは終われません。
また新しく始めます。やりたいことはいくつもある」
井上さんは力強くうなづいた。
帰り際、地下鉄の階段の前で、井上さんは言った。
「また会ってください。
今度の食事はファストフード店かもしれませんが」
「もちろんです。
それがどんな場所でも、また会いましょう」
わたしたちは笑顔で手を振った。
(おわり)
※この記事は2014年08月07日に公開されたものです