「早く結婚しないの?」と、執拗に聞かれる。
「営業成績を出すまで家へ帰るな!」と恫喝される。
職場で大事な書類を、自分だけ回してもらえない。
「それ、ハラスメントですよ」。
と、昔よりは声を上げやすくなりましたね。良い時代が来たもんだ、と言いたいところですが、進展には新しい課題が付きもの。
「ハラスメント・ハラスメント」という、新しい問題が浮かび上がってきたのです。
■「ハラスメント・ハラスメント」という言葉の意味
「ハラスメント」とは、嫌がらせを意味する英語です。セクシャル(性的)・ハラスメント、パワー(力による)・ハラスメントなど、どんな嫌がらせを受けているかによって、前に付く言葉が変わります。
そして、ハラスメント・ハラスメントとは「何でもかんでも嫌がらせとして訴える」嫌がらせという意味合いになり、「ハラハラ」と略されます。
■「ハラスメント・ハラスメント」の具体例
では、なぜハラスメント・ハラスメントが起きてしまうのか。ここからは私が実際に見聞きした話から、事例を見ていきましょう。
◇【事例1】部下を指導しただけで「ハラスメント」に?
佐藤さん(仮名)は、部下が同じミスを繰り返し起こすことに悩んでいました。そこで部下の手元を見てみると、単純なパソコンの操作ミスで、全体のデータ集計が間違っていたことに気付きます。
そこで「その部分、こうやって計算するといいよ」と、アドバイスを実践。実際に私も、そのアドバイスの様子を見ていましたが、恫喝するような素振りは全く見られませんでした。むしろ、「叱っている、指導している」とすら見えない柔和な態度だったと感じられました。
ところが部下は、ショックのあまり硬直してしまい、そのまま翌日も欠勤してしまいました。
佐藤さんは、部下を出勤できない状況に追い込んだ「悪い上司」なのかと自分を責めています。
――怒鳴りつける、みんなに聞こえるようミスを指摘するなど、パワハラに含まれる行為をしていたら佐藤さんは処罰の対象かもしれません。しかし、通常の範囲内で指導をしただけなら、佐藤さんに非があるとまでは言えなさそうです。
実はこの部下は、前職や佐藤さんの元に配属される前の部署でも、同じようにハラスメント被害を受けたと何度か訴えていたことが後から判明しました。
このように、通常の指導範囲内であると第三者から見ても判断できるにもかかわらず、ハラスメントを何度も訴えるのであれば、ハラスメント・ハラスメントといえる可能性があります。
◇【事例2】偶然体が触れてしまったら、ハラスメント?
山口さん(仮名)は、重い書類を運んでいました。会社は荷物でごった返しており、廊下をすれ違おうものならどちらかの人が道を譲らざるをえません。
しかし、山口さんは書類に埋もれてすれ違おうとした異性の社員に気付けませんでした。偶然肩がぶつかってしまった山口さん。非礼を詫びましたが、相手は「絶対にわざと触った、セクハラだ!」と人事部へ報告してしまいました。
――セクハラが「わざとか、そうでないか」は、非常に争いづらいポイントです。ですが、もし他の社員がこれを目にしていて、山口さんに非が無いと証言してくれれば「ハラスメント・ハラスメント」として認められる可能性が高いです。
■「ハラスメント・ハラスメント」が起こってしまう背景
では、なぜこういった「ハラスメント・ハラスメント」が職場で起きてしまうのでしょうか。原因を考えていきましょう。
◇(1)部下の指導法が研修で定義されていない
まず、「どうやって部下を指導すれば、ハラスメントにならないか」を定義付けるような、会社の研修はあるでしょうか?
アンガーマネジメントやアサーティブコミュニケーションなど、近年ではハラスメントを避け、円満に働いてもらうための指導法が確立されています。それを定義しないままでいると、「これも、あれもハラスメントだ!」と訴える人が出てきた時に、対策が取れないのです。
◇(2)服装規定、社外での振る舞いの指定が就業規則に無い
ネイルなどの服装規定や社外でいかに振る舞うべきかといった原理原則も、もし就業規則に書いてあれば「ここにルール・原則があるから」と話し合いが成立します。
しかし、そもそも規則がなければ、指導者の主観で良い・悪いが決まってしまい、ハラスメントが生まれやすくなります。また、「それ、ハラスメントです」と訴えられても、反論する材料も無いのです。
◇(3)ハラスメントの審査方法が決められていない
いざ、ハラスメントを訴えられた時に、それが「本当のハラスメントか、それともハラスメント・ハラスメントか」を審査するプロセスは決まっているでしょうか?
人事に訴えられたら、何をされても訴えられた人が負けるなら、ハラスメント・ハラスメントをする側ばかりが得をすることとなってしまいます。
■「ハラスメント・ハラスメント」の防止法
ここまでご覧いただけた方なら「ハラスメント・ハラスメント」の原因が個人によるものではなく、会社の制度不備によるものと見抜けたはずです。
とはいえ、一社員の場合、何ができるのでしょうか? 考えられる防止法を挙げていきます。
◇【対策1】人事部と協働してマニュアルを作る
近年、パワハラ防止法が成立したこともあり、人事部はハラスメントへ敏感になっています。
そこで、ハラスメントを減らす目的で「これがハラスメント、対してこっちは理想的な指導法」と線引きするマニュアル作りを提言すれば、通る可能性はかなり高いでしょう。
会社の制度不備に気付いたなら、あなたから改正を働きかけるのも一つの手です。
◇【対策2】ハラスメントの報告に2名以上を義務付ける
ハラスメントの報告が1対1だと、どうしても「あった・無かった」の争いになりがちです。
ですが、周りで見ていた〇〇さんもハラスメントだと感じた、あるいは被害を受けたと主張する人が2名以上いる……といった場合では、ハラスメントがより客観的に立証できるでしょう。
なお、これでは「2名の出張で上司に下半身を触られた」などの1発退場レベルのハラスメントを訴えづらくなるデメリットがありますが、冷静に考えてください。これは、ハラスメントではなく刑事事件です。人事部へ報告した上で、警察に相談すべきではないでしょうか。
■「ハラスメント・ハラスメント」を受けた場合の対策
もし、あなたがハラスメント・ハラスメントを受けているのかもと感じたなら、まずはもう一度今受けている行為がハラスメントに当たるのかをじっくり見極めましょう。
その上でハラスメント・ハラスメントだと判断したなら対策が必要です。
例えば、Aさんがハラスメントを訴えたとして、「この方は過去に5名連続でハラスメントを訴え、人を異動させた履歴がある」「この人は同じような主張を、さまざまな人に対して月に2件起こしている」といった、客観的にハラスメント・ハラスメントを疑わせる言質が取れれば十分です。
それを人事部など、ハラスメントを審査する部門か、上司へ伝えてもらうことで自分の身を守れます。
ハラスメント・ハラスメントを受けていると思ったなら、どうか1人で悩まず、自分が受けた嫌がらせにも冷静に対処していってくださいね。
(トイアンナ)
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