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尊敬語は? 謙譲語は? 「聞く」の正しい敬語表現

梶原しげる

今回は「聞く」の敬語表現について、フリーアナウンサーであり日本語検定審議委員も務める梶原しげるさんに教えてもらいました。です・ますを付けるだけの丁寧語と違って、尊敬語・謙譲語には自信がない。そんな方は要チェックです。

マイナビウーマン編集部のスタッフAさんから依頼がありました。

「聞く」の正しい敬語表現について書いてください。
え、「聞く」に限定した敬語ですか??
はい。実は「聞く」「尊敬語」「謙譲語」という3つの言葉がよく検索されているんです。
学校では敬語を丁寧語・尊敬語・謙譲語の3つをワンセットで教えられたものですが、丁寧語を抜かして、その代わりに「聞く」ですか……。なぜ「聞く」「尊敬語」「謙譲語」なのでしょう。
それは、新社会人の方が、学生時代あまり必要としなかった「尊敬語」や「謙譲語」を仕事で使うことを不安に感じているからだと思います。新社会人になって苦労するのはまず敬語です。「です」「ます」の「丁寧語」なら問題ありませんが、「尊敬語」と「謙譲語」の違いを理解したうえで使いこなすのは至難の業です。
確かに、敬語問題とは、尊敬語と謙譲語の問題とおっしゃる人もいるほどです。

それに、ビジネスでは「話すより聞くほうがずっと大事」と言われています。上司や顧客など目上の人と接するときに多く使う言葉(動詞)が「聞く」なのではないでしょうか。それで「聞く」「尊敬語」「謙譲語」という3つの言葉を検索したのではないかと思います。

確かに学生時代なら、友達に「ちょっと聞きたいんだけど、聞かせてくれる?」で何の問題もありませんでした。先生にだって「先生、聞いてもいいですか?」で完璧でした。ところが学校を卒業し社会に出るとそういうわけにはいかないようです。

仕事を始めたばかりの新人さんたちの不安を何とか払拭するお手伝いがしたい! そう強く思った私は、若い皆さんに負担を掛けない、ラクラク敬語レッスンを公開する決意をしたのです。

「聞く」の敬語表現

前置きが長くなりました。5分で分かる「聞く」の敬語表現、尊敬語と謙譲語にちょこっとだけ丁寧語も加えてお話しましょう!

「聞く」の丁寧語

丁寧語の果たす、目の前の人に丁寧さを伝える役割は捨てたものではありません。何より簡単なのがありがたいものです。

「聞く」の丁寧語は「聞きます」です。

「B子先輩! 嵐の幻のヒット曲、聞きます?」
「もちろん聞くよ、どれ?」

「聞く」+「ます」=「聞きます」は、親しい先輩程度ならむっとされることもありません。

ちなみに「どれ?」と聞かれた場合の答えも丁寧語で「この曲です」と対応できます。

最近は「~になります」を丁寧語のように使う人も増えています。

敬語のプロは「許せない!」とおっしゃる方もいますが、「この人は丁寧に言いたいんだなあ」ぐらいに鷹揚に受け止め、「でも、自分は使わない」程度の対応で良いと感じます。

以前、埼玉・東京を走る「東武東上線の成増駅」にタクシーで向かい、居眠りをしていて到着した時、運転手さんが「お客さん、成増になります」と声をかけて下さったことがありました。先ほどご紹介した「なります敬語」ですね。

私はそんなに嫌な感じはしませんでしたが、ビジネスなど「正式な場面」では避けた方が無難でしょう。

「聞く」の尊敬語

ここからが本論です。尊敬語表現には、例えば

「いる」→「いらっしゃる」
「言う」→「おっしゃる」

のように「専用変換言葉」を持つものもあります。

一方で「聞く」の尊敬語については、専用変換言葉がありません。

ではどうするか?

「聞く」+「れる」=「聞かれる」

「れる」「られる」の「尊敬の助動詞」を加えて尊敬表現にする方法があります。

「先輩! 例の新規プロジェクトについて、聞かれました?」
「うん、聞いたよ」

助動詞「れる」「られる」は「尊敬」以外に、

「受け身」(例:内緒話を聞かれちゃった)
「可能」(例:このラジオは海外の放送も聞ける)

などの形でも使われます。

「お」+「聞く」+「なる」=「お聞きになる」

「聞く」の尊敬語には「れる」「られる」以外に、もう一つ「お~になる」というパターンに当てはめて作る尊敬表現があります。

「先輩! 例の新規プロジェクトについて、お聞きになりました?」
「うん、聞いたよ」

「お~なる」の尊敬語は、他の言葉でも、このように使われます。

「お」+「話す」+「なる」=「お話しになる」
「お」+「読む」+「なる」=「お読みになる」

「お~になる」で尊敬語の出来上がりです。パターンさえ覚えれば、簡単ですね。

「聞く」の尊敬表現は「聞かれる」「お聞きする」と覚えておきましょう。

「聞く」の謙譲語

「謙譲語」こそ、敬語の中の敬語です。

尊敬表現は直接目の前の相手を「よいしょっと」高めることで敬意を伝えますが、謙譲表現は、自分側を低めることで、相対的に、相手方を高めるシステムを使います。

「伺う」

まずは、ずばり変換出来るケースを見てみましょう。「伺う」です。

「その件を、詳しく聞けますか?」と「聞く」の「丁寧語」を使うより「その件を、詳しく伺えますか?」と「聞く」の「謙譲語」を使った方が、グッと大人な、慎み深く、気の利いた雰囲気を伝えられます。

「お(ご)」+「聞く」+「する」=「お聞きする」

謙譲語にもパターンを当てはめれば簡単に変換できるものがあります。

「お(ご)~する」のパターンです。「~」の中に「動作を表す動詞」を入れると簡単に謙譲表現を作ることができます。

すなわち、「聞く」の謙譲語は「お聞きする」となります。「~」の中に「聞く」の活用形「聞き」を入れるんですね。

「聞く」の反対「話す」も同じ理屈で謙譲語化出来ます。

「お(ご)」+「話す」+「する」=「お話しする」

「聞かせていただく」

「聞く」の謙譲表現として「聞かせていただく」もあります。

「する・させてもらう」の「させていただく(せていただく)」は「許可や恩恵を受ける場面で使われる『受恵表現』(恩恵を受ける言い方)」で、使い勝手の良い言葉です。

ですが、使いやすいからと頻繁に使うと「謙虚さ」は失われ「怪しさ」を感じさせることになります。

「かつて私も不祥事を起こさせていただきましたが、今は県民のため働かせていただき、汗を流させていただきたいと出馬させていただかせていただきました……」

ある政治家がこんなふうに「させていただく」を乱発してひんしゅくを買ったという話を聞きました。

「ハイ! ○○株式会社でございます。山田でございますね。山田は、風邪を引かせていただき、お休みを取らせていただいております」

これまた「させていただく」を連発して会社の評判を落としたケースがあったとか、なかったとか……。

謙譲語でへりくだれば良いというものではありません。特に口癖になりがちな「させていただく」という謙譲表現に頼り切るのは控えましょう。

敬語を恐れずに使ってみよう

敬語を恐れずに使ってみよう。しかし、その使い過ぎには注意しよう。

上の二つは矛盾するようですが、何事もほどほどが良いのですね。

「聞く」「尊敬語」「謙譲語」と3つのワードを入れてネット検索しただけで満足せず、実際に使ってみることをおすすめします。

(梶原しげる)

※画像はイメージです

 

※この記事は2020年05月23日に公開されたものです

梶原しげる

早稲田大学卒業後、文化放送入社。1992年からフリーアナウンサーとして、テレビ・ラジオの司会を中心に活躍。2002年東京成徳大学大学院心理学研究科を修了。シニア産業カウンセラーの資格を持つ。現在、東京成徳大学応用心理学部客員教授、日本語検定審議委員も務める。主な著書に『すべらない敬語』(新潮新書)『敬語力の基本』(日本実業出版社)がある。

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