生理前のイライラ、どうしたらいい? 今すぐできる「月経前症候群」対策
生理前になると「イライラする」「怒りっぽくなる」「やる気が起きない」など、精神的に不安定になることはありませんか? その結果、仕事でミスをしてしまったり、周囲の人と衝突してしまったりすると、余計に落ち込んでしまいますよね。今回は、「生理前のイライラ」がどうして起こるのか、また有効な対処法について、産婦人科医の高尾美穂先生に聞きました。
今回のお悩み
「生理前はちょっとしたことでイライラして、不機嫌な態度を取ってしまう。そのことに自己嫌悪して落ち込んでしまう」(26歳/医療・福祉/専門職)
お話を伺ったのは……高尾美穂先生
イーク表参道 副院長/産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクター。
東京慈恵会医科大学大学院修了後、同大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。大学病院では婦人科がん(特に卵巣がん)専門。西洋医学をベースに、ヨガ、アンチエイジング医学、漢方、栄養学、スポーツ医学を多角的に用い、女性の心身をさまざまな角度からサポートすることをライフワークとしている。
約6割の女性がイライラ、不安になるなどの症状を自覚
読者アンケートで、生理前に情緒不安定になることがあるか聞いてみたところ、「毎回ある」と答えた人は約2割、「ときどきある」と答えた人は約4割という結果に。約6割の女性が生理前の情緒不安定を自覚しているようです。
また、みんなが自覚している症状としては
・「些細なことで家族と喧嘩する」(25歳/医療・福祉/専門職)
・「生理前はイライラして、気持ちのコントロールができず、仕事に支障が出ます」(39歳/その他/秘書・アシスタント職)
・「怒りっぽくなり、興奮状態になりやすい。気が立って、寝つきが悪くなる」(39歳/建設・土木/事務系専門職)
・「テレビを見ていても涙もろくなるし不安定」(33歳/その他/事務系専門職)
・「ちょっとしたことでイライラする。いつもはイライラしても我慢できるけど、生理中は態度に出やすくなる」(32歳/その他/販売職・サービス系)
・「今までは精神的なことはあまりなかったのに、30歳を越えてから生理前のイライラや倦怠感が出るようになった」(31歳/ホテル・旅行・アミューズメント/販売職・サービス系)
といった声が上がりました。「イライラする」「不安になる」「涙が出る」といった症状が目立ち、中には、仕事や日常生活に支障が出ているケースも。ほかに、頭痛や腰痛などの生理前の時期の体調不良が原因で、イライラしてしまうという声も出ました。
※マイナビウーマン調べ
調査日時:2019年5月31日~6月3日
調査人数:387人(25~39歳の働く未婚女性)
生理前のイライラ、ホルモン変動が背景に
―― 前回は、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という2種類の女性ホルモンの働きや、生理周期が乱れる原因などについて教えていただきました。今回は、生理前の心の症状についての相談です。生理前に何かと不調が起こりやすいことは、女性の多くが経験していると思いますが、なぜイライラしやすくなったり、気分が落ち込んだりする症状が起こるのでしょうか?
高尾先生:まずはじめに、前回のおさらいをしましょう。排卵後、体は妊娠を継続させるためにプロゲステロンというホルモンを出しますよ、とお伝えしましたね。
―― はい。プロゲステロンは排卵を期に増えていくのでしたね。
高尾先生:そうです。その後、妊娠に至らない場合は、プロゲステロンが急激に減っていきます。このプロゲステロンの急激な増減が、生理前の不調の原因のひとつと考えられています。ホルモンの分泌の変化は、体の機能を調節する「自律神経」に影響を及ぼすため、頭痛やイライラなどの自律神経失調症状があらわれやすくなるんですね。ただ、自律神経はストレスによって受ける影響が大きく、女性ホルモンの変化以外にも多くの要因が関係しているといわれています。
一方で、生理前の「嫌だな」と感じるからだの変化もよく考えると、ちゃんと排卵し、プロゲステロンが出た結果、感じる変化なんです。婦人科医としては、みなさんに「生理のサイクルがちゃんと来ているからなのね」と、受け止めてもらえるとうれしいですね。体の変化を肯定的に受け止めるだけでも、気持ちが落ちついて症状が改善することがありますよ。
生理前のみ調子が悪いなら月経前症候群(PMS)
――ところで、月経前に体調が悪くなる、イライラするなどの不快症状が続くことを「月経前症候群(PMS)」といいますね。精神症状が強いものは「PMDD(月経前不快気分障害)」と診断されると聞きました。イライラが強い場合にはどちらになりますか?
高尾先生:PMSとひと言でいってもさまざまな症状があり、症状の程度にも個人差があります。心の症状としては「イライラする」「緊張が強い」「涙もろくなる」「うつっぽくなる」という4つが多いです。
ただ、PMSとは「生理前だけ調子が悪いこと」と理解しておけばよいでしょう。具体的には、生理がはじまる1週間ぐらい前からさまざまな不快症状が起きて、生理がはじまると症状が軽くなったり、解消したりする症状のことをいいます。生理前のイライラや不安、落ち込みなどもPMSの症状のひとつです。
一方、PMDDは精神的な症状が強く出て、重症な抑うつ状態になることをいいます。PMDDの頻度は約1%と言われ、 診断される人の割合は多くはありません。PMDDは心療内科や精神科での診断・治療が必要になります。
月経前症候群(PMS)とは
月経前症候群(PMS)とは、生理(月経)前、3~10日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、生理開始とともに軽快ないし消失するもの。精神神経症状として情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感、身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがあります。日本では生理のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状があります。生活に困難を感じるほど強いPMSを示す女性の割合は5.4%程度といわれています。
参考資料:日本産科婦人科学会HP 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13
楽になれる方法を見つけ、つらいときには婦人科へ
――症状にもよりますが、生理前にイライラしそうと思ったら、リラックスして過ごしたり、予定を入れすぎないようにしたりするなど、工夫することで気持ちを落ち着かせることはできそうですね。
高尾先生:そうですね。多少の不調は誰にでも見られるものなので、一時的なことと受け止めて上手に過ごしている人も多いと思います。調子のいいときに、仕事場やまわりの人に「生理前は、イライラしてしまうことがあるの」と、伝えて理解を求めるのもひとつの方法ですね。
でも、中には、気持ちのコントロールがきかなくなって、仕事や人間関係に支障が出てしまう人もいますよね。そんな場合には、婦人科に相談してみましょう。治療で症状を緩和することができます。
――PMSの治療法にはどのようなものがあるのですか?
高尾先生:ひとつ目のチョイスは漢方療法です。漢方療法は、個人の証(症状や体質)に合わせて、漢方薬を使用することで体調を整えていくというような治療法になります。PMSの治療では、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散、桃核承気湯、 女神散、抑肝散などがよく用いられます。効果は個人差があり、効き目もゆっくりとしたものになります。
2つ目のチョイスは低用量ピル。ホルモン値を安定させることで、PMSの症状を緩和します。服用すると、PMSの症状が3カ月以内によくなるというデータ [*1] があります。
――低用量ピルは避妊薬として以外に、月経困難症(生理が重い)や子宮内膜症の治療にも使われますね。PMSに対してはどのように作用するのですか?
高尾先生:低用量ピルには、エストロゲンとプロゲステロンが少量含まれていて、これを服用すると、体はエストロゲンがすでに体内にあると錯覚するんですね。その結果、排卵は起こらず、プロゲステロンの急激な増減も起こらなくなるという仕組みです。本来なら、生理周期ごとに女性ホルモンのダイナミックな変化があるわけですが、その変化をなくすことで、「生理前の変化=PMS症状」を起こさないようにコントロールできるというわけです。
[*1]Takeda T et al., J Obstet Gynaecol Res. 2015 Oct;41(10):1584-90.
QOLを高くして生きることが自分を守ることに
高尾先生:みなさんに知ってほしいのは、今の時代、調子が悪いことをわかっていながらやり過ごす時代ではないよね、我慢は美徳ではないよねということ。QOL(生活の質)を高く保って生活することは、自分の体や生き方を大事にすることでもあると思うんです。働く女性は、仕事のパフォーマンスを維持することも重要ですよね。低用量ピルなどを上手に活用して、不調を積極的にケアしていこうというふうに、合理的な考え方を持つ女性が増えるといいなと思います。
もちろん、薬というものは当然副作用があったり、効果も個人差があったりするものですが、医師と相談しながら用法・用量を守って正しく使えば過度に心配しすぎる必要はありません。
また、治療がうまくいくかどうかは、その人の向き合い方でも変わってくるもの。自分でそうしたいと思って納得して薬を使うのと、勧められて嫌々やるのとでは、治療効果や継続率がちがってきたりします。だからこそ自分はどうしたいのかを大事にして、自分の体や心と向き合って自分で決めることが大切ですよ。
ちなみに低用量ピルは、月経困難症(生理が重い)や子宮内膜症の場合には、保険適用となります。自費の場合でも、ひと月3,000~4,000円くらい(東京での相場) で処方してもらえます。困ったら婦人科に相談してみてください。
――「このイライラはPMSかな?」と思ったときに、どう解決していくか。困り具合をいちばんよく知っているのは、自分自身だということ。毎日を快適に過ごすためにも、正しい知識を得て、心と体のケアをしていくことが大事ですね。高尾先生、ありがとうございました。
生理前のイライラはPMSの可能性がある。対策は?
- 1.一時的なことと受け止めて、リラックスして過ごしたり、予定を入れすぎないようにしたりするなど、生活を工夫してみる
- 2.周囲の人とのトラブルが心配なら、あらかじめ「生理前は、イライラしてしまうことがあるの」と伝えて理解を求める
- 3.生活や仕事に支障が出ている場合には婦人科を受診し、自分に合った治療法について相談してみましょう
(取材・文:及川夕子、監修:高尾美穂先生、イラスト:クー)
※画像はイメージです
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