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愛にも嘘は必要か? 高橋一生インタビュー「嘘」編

落合由希

2017年、ドラマ『カルテット』をはじめ、大河ドラマ『おんな城主 直虎』、連続テレビ小説『わろてんか』などに相次いで出演し、全国区の人気俳優に登りつめた高橋一生。その人気っぷりは、出番を終えるたびに「一生ロス」という言葉が女性たちのあいだで囁かれるほど。

そんな彼の次作『嘘を愛する女』(2018年1月20日公開)は、恋人の嘘に翻弄された女性がすべてを失った果てに知る「本物の愛」を描いたラブストーリー。

一流企業に勤める完璧なキャリアウーマンの川原由加利(長澤まさみ)と、その恋人である小出桔平(高橋一生)。幸福な日常の中、桔平がくも膜下出血で倒れて昏睡状態になったことをきっかけに、その職業はおろか、名前すらすべて嘘だったことがわかる――というショッキングな展開で幕をあける。

「すべてが嘘だった男」を演じた彼に、「嘘」と「愛」という2つのテーマでインタビューを敢行。今回は、「嘘」編のインタビューをお届けする。

その嘘に悪意があるかどうか、そこが大事

すべてを嘘で固めて生きる男・小出桔平という人物を、彼はどう理解したのだろうか。

「いくら嘘で自分を固めているといっても、過去と現在で人格や見栄えを別人のようにはしたくありませんでした。過去から現在まで一貫した人物像にすべきだと思ったんです。そうしないとどこか詐欺っぽく見えてしまうと思ったので」

そして、「そこに悪意があるかどうかはとても大事なことだと思う」と話す。

「桔平が過去や今の状態を偽っていることについて、僕自身感情移入できました。自分だけは役の味方になってあげたいという想いが心のどこかにあって」

そんな彼に「もし自分が桔平の立場だったら、恋人に嘘をつき続けると思いますか?」と訊いてみた。すると、どこか俯瞰した物言いで「これは時間を味方につけるしかないと思うんです」と、穏やかな表情が返ってきた。

「タイミングだと思うんです。きっと、真実を告げるタイミングが桔平にはなかったんだと思う。2人の関係が進展しそうになると、よけい言いづらくなってきます。もしかしたら大事なものを失ってしまうかもしれないという恐怖もあるだろうし。きっと、どんどん言えなくなってしまったんでしょうね」

では逆に、もし自分が由加利の立場だったら、桔平の嘘に隠された本当のことを知りたいと思うのだろうか?

「うーん……。なんとなく真実が見えてくればそれでいいと思うので、追求はしません。相手が出してくる真実と、僕が読み取る真実はちがってしまうと思うので」

そして、彼が話すその意図に私は納得させられた。

「他人の携帯のメールを見る行為と一緒で、絶対に白が黒になってしまうと思うんです。相手が本当に白だったとしても、黒の気持ちで見てしまうと『どう考えても黒でしょ』となってしまうし、真実はどこにあるかわからない。ほんの少し見えている嘘がとても嘘くさく感じられたとしても、相手の世界観と自分の世界観は必ずしも同じじゃないと思うので」

どこか冷たいようにも思えるが、相手と自分の見ている世界がちがうことなんてざらにある。恋人同士でさえ、それぞれが別の世界で生きているといってもいいくらい人は孤独な生き物だ。彼の言うように、嘘を追えば追うほど自分本位な考えでそれを黒に変えてしまうのかもしれない。

愛する人の前ではすべてをさらけ出す。けれど嘘もつく

現実を冷静に受け止め、相手の嘘を「追求しない」と話す高橋一生。でも「本当は気になりますけれど」と本音を覗かせる。

「気になるけれど、追求はしません。言いたくなったら言うかもしれませんが、変に先入観で固めていくのはちがうと思うので、我慢します」

その「我慢」には、相手を「誤解したくない」「信じたい」という気持ちが見え隠れしているようにも思えた。では、そんな彼は愛する人の前で自分のすべてを見せられるのだろうか? それには、即座に「見せます」という言葉が返ってきた。

「最初から金メッキが剥がれていたほうが楽しいと思うんです。ラクだし、理解してもらえる速度ははやいと思う。で、飽きてくれる速度もはやくなりますし」

飽きてくれる速度? まさか、自分の愛する人に「飽きてほしい」ということなのか。

「情が生まれてしまったら離れづらくなると思うので。そういうものが生まれる前にたくさん出していったほうがいいかと思うんです。金メッキを『剥がす』という行為については、相手に剥がれてもらうためにもこっちから剥がれないといけないので。こっちがダサくならなきゃ相手もダサくなんてなれない」

「自分が相手の本質を知りたかったら、まず自分がすべてをさらけ出さないと」と彼は続ける。自分のすべてを見せることと、嘘。両極にあるそれだが、彼はすべてをさらけ出せる相手に嘘をつくことはあるのだろうか。尋ねてみると、意外にも「あります」という答えが。

しかも「すごくうまいと思います」なんて、余裕たっぷりに笑う。軽い気持ちで「役者さんですもんね」と返してしまった私に向けられたのは「それとこれとはちがうんです」という否定と、逸らしたくなるほどに真剣な眼差しだった。

「お芝居をする時は『演技』とは意識してないんです。テクニカルなことは一切やらないようにしています」

それは、演技という言葉は嫌いだという彼が持つ信念。

「お芝居はやっぱり引いていくべきだと思うんです。芝の上に居る(=芝居)だけで、演じる技(=演技)ではない」

役者という仕事自体、虚構の世界に生きるという意味において嘘とは切っても切れない関係にある。というより、極論を言ってしまえば嘘をつき続けるのが役者だと言えるのではないだろうか。しかしそれは、あくまでもその「嘘」の中にある「本当のこと」を伝えるための手段。だからこそ、その手段が意図として透けて見えてしまってはいけないのだ。

時間が経って、「嘘」が「本当」に変わることもある

ただ、日常で嘘をつく時は逆に「演じる技を使わないとつけない」とポロリ。高橋一生がつく嘘って? 気になるのは私だけじゃないはずだ。

「たとえば、恋人が夢中になっていることに興味がなくてもあるフリをするとか。それによって、相手がどんなふうに喜んでくれるのか期待してしまいます。あと、つき続けなくてはいけない嘘もあるような気がして。決定的に『ここは合わない』というところがあったとしても、もしかしたらいつか共有できるようになるかもしれない。それまでは嘘をついていたほうがおもしろいかもしれません。その壁はいつか絶対突き破らなければいけないけれど、今ではないだろうと思えば言わないことだってある。基本的に嘘を言葉で説明しようとは思わないし、僕の場合は、行動で見せると思います」

なるほど。あえて「今は本当のことを言わない」という嘘もある。

「恋人として一緒にいると生活サイクルやリズムが合ってくる。そうすると、たとえば『これには笑えなかった』ということが笑えるようになったり、感覚が似てきたりというのは往々にしてあって。そう感じた瞬間、本当のことを言いやすくなるんです。相手に対して以前と比べて変わったと思うのは、僕が変えたのではなく、きっと自分も一緒に変わっている証拠だと思います」

影響し合った結果、嘘が本当になることだってある。しかも「それを狙っている部分もある」なんて話すから、やっぱり彼はどこまでも大人だ。「恋愛に嘘は必要だと思うし、恋愛以外の日常生活においても嘘は大事だと思う」という高橋一生の持論。その真意とは。

「物事を円滑に進めていくためや、その場の雰囲気を悪くしないために、嘘をつかなくてはいけない瞬間はたくさんあると思うんです。 もしかしたら、僕がこのあと控え室に戻って『こんなインタビューしやがって!』と物を投げているかもしれないですし」

なんと、それはショックだ。そう告げると「そうでしょう?」といたずらっ子のような目をして笑ったあと「嘘がショックにならないための緩衝材だとしたら、必要性があると思う」とまっすぐな表情を見せてくれた。

「お互いの気分が悪くならないように。たぶん相手に他意はないだろうし、物事をいい方向にしようと思って進んでいるのに、両者が傷ついたり怒ったりしてしまう結果になるのだけは、絶対によくない。そこはどんなことであっても嘘をつくべきだと思います。それで自分のストレスがたまったとしても、結果的に楽しかった時間になるはずなんです」

人は日常的に、ほとんど無意識にと言っていいくらい嘘をつく生き物だ。そして、それは高橋一生も例外ではなかった。「嘘がうまいと思う」と笑う彼に、このインタビューがどう思われていたかなんて私にはわからない。ただただ、彼が控え室で物を投げていないことを願うばかりだ。だって私は、仕事として「なんでもないですよ」なんて表情で嘘をついていたけれど、彼の13年来の大ファンなのだから。

(取材・文:落合由希、撮影:洞澤佐智子、編集:井田愛莉寿/マイナビウーマン編集部)

 

※この記事は2018年01月13日に公開されたものです

落合由希

フリーライター、エディター。京都出身。『TV Bros.』(東京ニュース通信社)の編集を経て、『TV Taro』『GOOD☆COME』『マンスリーよしもと』などさまざまな雑誌の編集・執筆を担当。現在はおもにお笑い、映画、ドラマ関連の記事を手がける。音楽、お笑い、ファッション、グルメが大好物。

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