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唯一無二の「爪」を生み出す。つめをぬるひとさんの場合

#コスメアカの履歴書

ひらりさ

コスメを偏愛するコスメオタクが増えている。中でもTwitterの「コスメアカ」は、よりディープな情報発信の場として話題。この連載では「劇団雌猫」所属のライターひらりささんが、今気になるTwitterコスメアカにインタビュー。おすすめアイテムや美容愛、さらには人生までをも覗き見ます。

取材・文:ひらりさ
編集:田島佑香/マイナビウーマン編集部

同人サークル「劇団雌猫」所属の美容オタクライターひらりささんが、今気になるTwitterコスメアカの実態を探る連載「コスメアカの履歴書」。

今回は、2020年12月に『爪を塗る ―無敵になれる気がする時間―』を刊行した「つめをぬるひと」さん(@nail_hito)にインタビューしました。
※取材時期は2020年12月です

会社員から「つめをぬるひと」へ。独立のきっかけ

――12月に初めての書籍を刊行した、「つめをぬるひと」さん。もはやネイル好きなら多くの人が知っているお名前になりましたが、この名前での活動を始めたのは、いつ頃だったんでしょうか?

2013年の9月ですね。当時百貨店に勤務していたのですが、目まぐるしいほどの忙しさで、8月の終わりに退職したんです。

時間ができたら、買い物をしようとか遊びに行こうとかいろいろ考えていたんですが、退職した翌日に、高熱を出して寝込んでしまって……。

家を出られない状況で楽しめることを考えた時に、たまたま家にあったネイルポリッシュのことを思い出して、 爪を塗ってみたんです。それが思いのほか楽しかったので、Twitterにあげたのが始まりですね。

――そんなきっかけが。

名前も、かなり早い段階で「つめをぬるひと」と名乗っていたと思います。横文字の名前もかっこいいかもしれないんですけど、何年経っても気恥ずかしくならない名前がいいなあと考えた結果です。

――元々、ネイルは好きだったんですか?

百貨店で働いていた時は、食品を扱う業務だったのもあり、ネイルはほとんどやってなかったですね。

メイクもそうです。知識としても乏しくて、自分が最初に何を買ったかも覚えてないくらい。化粧下地を塗り始めたのも本当に最近なんですよ。

今の活動につながるものをあえて言うなら、「音楽」でしょうか。爪を塗り始めた初期の頃から、好きなCDのジャケットを親指の上に表現するというのをやっていて。

子供の時はピアノを習っていましたし、中学・高校の時は映画のサントラを延々と聴いていたので、そういう長年の音楽に対する思いが今につながって「つめをぬるひと」ができあがっているなと思います。

――今日の爪もすごく素敵です!

ありがとうございます。OSAJIのネイルに最近ハマっているので、ベース色もポイントに使用しているマット色もOSAJIのネイルポリッシュを使用しました。

取材当日の爪

――デザインは、どんな風に作り上げているんでしょうか?

まずベースの色から決めますね。

今テーブルの上に、ネイルポリッシュが100本くらいはあります。整理が全然できてなくて、ごちゃごちゃしているんですけど、その小瓶の並びをよく眺めていると「この配色いいな」というのが見えてくるんです。その配色で試作してみて、並べ替えたりもして、背景の配置を決めます。

その後に上に塗る模様や、つけ爪として販売する時の台紙の色を決めて、最後にタイトルを決めています。

――つめさんのつけ爪って、どれもネーミングが印象的なので、言葉からインスピレーションを得ているのかなと思っていました。

実は言葉は後付けなんですよ!  普段から、「面白いな」と思った日本語をiPhoneのメモ帳にためておいて、爪を作った際にはそのメモを参照して、なんとなく爪に合うものを選ぶ感じです。

――ご自身のネイルは、毎日変えているんでしょうか?

そんなことないです! むしろ、塗ってない日すらあります。この名前で活動していると、塗ってない時に「え、今日は爪塗ってないんだ?」と驚かれることも多いんですけど……。

爪を塗らない日があるのをあんまり後ろめたく思っていないんですよね。ネイル写真をツイートしているアカウントの中には、例えばささくれが写っていた時に、神に懺悔(ざんげ)するくらいの勢いで謝っている人を見かけることもあるんです。

でも、私は、生きていればささくれができることはあるし、常に100%じゃなくても、落ち込みすぎず懺悔しすぎず、ささくれも楽しんでもいいんじゃないかなというスタンスです。

「つめをぬるひと」さんの一軍コスメ

――爪作家としての活動を始めてから、コスメへの興味も高まりましたか?

自分で関心を持つようになったというよりは、友人から情報を聞くようになって、コスメへの興味も湧いてきた感じですね。

私は、目が奥二重で、アイシャドウを塗るとパウダーが溝に埋まって線ができるのがちょっと嫌だなと思っていたんです。その話をある日後輩にしていたら、「まぶた用の下地があるよ」と教えてくれました。

一緒に渋谷の109に行って、キャンメイクの下地を買って使うようになったんですけど、そうしたら線ができなくなって。人からいろいろ教えてもらううちに、コスメアイテムにも興味が持てるようになりました。

――今日付けている、ピンクのマスカラも素敵です。

これはRIMMELのエナメルコート カラーマスカラです。

脇川飛鳥さんという、短歌を詠む友人が付けていてすごくかわいいなと思って、感化されて買いました。それまでは黒や茶色を付けるのが当然と思っていたけど、もっと違う色を付けてもいいんだと気付かされました。

――お気に入りのブランドはありますか?

数で言えば、UZUのマスカラとアイライナーを一番持っている気がします。最近、使い始めて気に入っているのは、「北欧、暮らしの道具店」で購入したコスメです。

――有名なECサイトですよね。コスメを出しているとは知りませんでした。

普段は雑貨などを販売されているサイトですが、2020年の春頃からメイクシリーズが販売されました。「KURASHI&Trips PUBLISHING」というブランド名で、パッケージがすりガラスっぽくてとてもかわいいんですよ。コスメのメーカーではないけど、良いなあと。

KURASHI&Trips PUBLISHING シンボリック アイカラー (04 フィーリングブラウン)

――この辺りで、つめさんが普段持ち歩いているアイテムも教えてもらっていいでしょうか?

はい。私はメイクポーチは持ってなくて、カバンにそのまま入れちゃってるんですけど。このところ持ち歩いているのは、ukaのネイルハンドミスト。香りが好きで付けているのもありますが、消毒の役割も込めてますね。

マスクをして外出するようになってからは、マスクスプレーも。青森のヒバという植物を使ったものです。

左から、
・ネイルオイル(uka)
・ネイルハンドミスト(uka)
・マスクスプレー(MONCHEBOOTH)
・HERBAL SLEEPING CREAM(CHARLEY)

――爪のお手入れには、何かこだわりはありますか?

ukaのネイルオイルを塗るとか、それくらいですね。手を使った活動をしているせいかハンドクリームをよく頂くので、ハンドクリームも時々塗るようにしています。

今使っているのが、「HERBAL SLEEPING CREAM」というものなのですが、その名の通り、すごくいい匂いで、塗ると眠たくなります(笑)。ポイントメイクは外出後そこまで直さないので、家に置いたままですね〜。

ルールに縛られず、「爪」を楽しむ

――2020年は新型コロナの感染拡大もあり、それぞれ生活に変化があったかと思います。つめさんはいかがでしたか?

他の仕事をしながら続けていた活動だったのですが、昨年の3月に独立して、「つめをぬるひと」に専念しようとしていたんです。

でも新型コロナの影響で、出展予定のイベントがどんどん中止になって、つけ爪を取り扱っていただいていたお店も閉店して……。ものすごいタイミングでフリーになっちゃったなと思いましたね。

でも、自宅で爪を塗る方は増えたと思うんです。「つめさんの真似をしてみました」とSNSにアップしてくださる方もいて。

オンラインで売っているつけ爪を買ってくださる方もいるし、文章を書く仕事もちょいちょい増えていったので、なんとかなりました。オンライン配信で爪の塗り方をレクチャーするお仕事もしましたね。

塗り方講座配信でレクチャーした爪

――今回の書籍の企画は、いつ頃からあったんでしょうか?

前からちらほら「本にまとめたら?」とは言ってもらっていたのですが、具体的にお声がけいただいたのは、今年の春ですね。

夏頃から準備し始めてできあがりました。冒頭に、爪とは思えないような写真を並べて、そこから付け爪の作品ページが続き、ところどころに文章が入るような構成です。

――書籍を作る上で、特に意識したことはありますか?

「ネイルが『美容』という枠の外側にもあっていいんじゃないか」ってことです。

美容としてネイルを支えているプロの方達がいるわけですけど、そこ以外のネイルもあってもいいよね、という思いを込めています。

初めて爪を塗ろうとする人のハードルをあまり上げたくないので、ネイルケアの知識は書いていません。そういうのを期待している人には満足してもらえないかもしれないけど、爪を楽しみたいと思っている人に響くといいなと思っています。

――爪を塗ることに興味があるけど、センスがなくて不安……という方にアドバイスはありますか?

無理に爪を塗れ、とは思わないんです。塗るのに抵抗があったら、まずは爪をお手入れすることから始めてみるのもいいかもしれません。

そこに色を乗せてみたいな、と思った時も、全部きれいにベタ塗りしようとすると難易度が高いので、まずは先端だけに点をちょんちょんと置いてみるとか。中央だけに置くと、色が剥げたのが分かりにくくておすすめです。

あと、色の複数使いに挑戦するなら、思い切って黄色や青のような原色系にした方が、意外と合わせやすいです。

テーブルの上に100本以上並ぶネイルポリッシュ

――とても優しいアドバイスをありがとうございます。最後に、つめさんにとって、「爪」ってどんな存在か教えてください。

「つめをぬるひと」の活動で、人生が変わったのは間違いないです。仕事が変わったのもそうですけど、爪の活動を始めるまで、「自分のことめっちゃ好きです」とは言えなかったんですよ。正直、「あんまり好きじゃないです」としか言えなかった。

今、活動8年目なのですが、いろいろな方に爪を褒めてもらったり、自分の好きな物を好きと言う場を持てたりする中で、「好きな物」がどんどん増えていって、自分のことも好きになっていった感じです。

応援してくれたみなさんに、人生を変えてもらったような気がします。私の爪を買ってくださっている方にも、今の自分がそこまで悪くないと思ってもらえたら、すごくうれしいです。

つめをぬるひとさんの履歴書

※写真のコスメはすべて本人私物です

INFORMATION

『だから私はメイクする』漫画:シバタヒカリ、原案:劇団雌猫

『浪費図鑑』の劇団雌猫が贈る話題書をコミック化!

メイク道を爆進するうちにあだ名が「マリー・アントワネット」になった女、“推しネイル?にハマって猛練習する女、仕事場での“アドバイス?にうんざりしている女など、メイクを通して見えてくる、「社会」や「自意識」と戦う女たちの悲喜こもごも。

「自分がどうありたいか」と向き合う、共感必至のオムニバス・ストーリー!

※この記事は2021年01月13日に公開されたものです

ひらりさ

1989年生まれ、東京都出身。ライター・編集者。女性・お金・BLなどに関わるインタビュー記事やコラムを手掛けるほか、オタク女性4人によるサークル「劇団雌猫」のメンバーとしても活動。主な編著書に『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など。

ブログ:It all depends on the liver.
Twitter:@sarirahira

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