【心理学】傍観者効果とは? 身近な例や陥らないための対策
「傍観者効果」を知っていますか? 集団心理の1つで、緊急事態に直面した時、周りに多くの人がいることによって、自らが率先して援助行動を起こさなくなる心理効果のこと。心理カウンセラーの高見綾さんが、身近な例や傍観者効果に陥らないための対策を解説します。
「傍観者効果」という言葉を知っていますか?
集団心理の1つで、周りに多くの人がいることによって率先して行動しなくなることをいいます。
今回は、この効果の意味をはじめ、どういった場面で起こりやすいかなどについて詳しく解説します。傍観者効果に陥らないための対策についても考えてみましたので、ぜひ参考にしてみてください。
傍観者効果とは?
まずは、傍観者効果の意味や概念について見ていきましょう。
「周りに人がいる場合に援助行動が抑制される集団心理」を指す
傍観者効果とは、集団心理の1つで、援助が必要な緊急事態に直面した際、周りに多くの人がいることによって、率先して援助行動を起こさなくなる心理効果のことをいいます。
その場にいるのが自分だけの場合は、行動する確率が高くなりますが、周りに多くの人がいる場合は援助行動が抑制されると考えられており、この効果は米国の社会心理学者ビブ・ラタネによって提唱されました。
研究のきっかけは「キティ・ジェノヴィーズ事件」
傍観者効果が研究されるきっかけになったものに、「キティ・ジェノヴィーズ事件」があります。
1964年に米国ニューヨークで起こった殺人事件。キティ・ジェノヴィーズ(女性)は、帰宅途中に、彼女の住むアパートの前で暴漢に襲われました。
当時、彼女の悲鳴を聞きつけて窓から顔を出した目撃者が38名もいたとされています。しかし誰も助けることはなく、彼女は殺されてしまいます。
後々、警察に通報した人がいたという事実が明らかになりますが、事件直後は「多くの人が、事件が発生していることを知りながら、誰も助けようとしなかった」と、都会の人の冷淡さ・無関心さに焦点が当たり、センセーショナルに報道されました。
傍観者効果の実験例
しかし1968年、社会心理学者ビブ・ラタネとジョン・ダーリーは、「都会人が冷淡であるからではなく、多くの人が事件発生に気づいていたために、誰も助けようとしなかったのではないか」と仮説を立てて、実験を行いました。
実験では、ニューヨーク大学の学生に集団討論へ参加してもらいました。
討論の最中に「参加者の1人が発作を起こす」という緊急事態をつくり、被験者が助けを求める行動を取るかどうかをチェックしました。
討論に参加する人数を、2名・3名・6名の3つのグループに分けますが、匿名性を守るためという理由で、被験者は1人ずつ個室に通され、実験は全てマイクとインターフォンを用いて行われました。
討論中、発作を起こした参加者がマイクを通して助けを求めます。
発作を起こすという緊急事態が起こった時、2名のグループは、自分しか目撃者がいない状況なので、助けを求める行動を迅速に起こす傾向が見られました。
しかし、6名のグループは、他にも目撃者がいると思っており、援助行動を全く取らない参加者が38%もいました。
この実験から、他者が多くいることにより援助行動は抑制されることが分かりました。
なぜ傍観者効果が起こるのか?
それでは、なぜ傍観者効果が起こるのでしょうか?
ここではその理由を考えていきます。
(1)自分以外の誰かがやってくれると思うから
周りに人がいることによって、「自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう」という心理が働きます。
そして、周りと同じ行動をすることで責任が分散され、自分だけ非難されるリスクが低くなると考えます。「みんなと一緒」であることで安心感を得ようとするのです。
何か問題があったとしても、「自分だけではない」という保身の心理から、傍観者は生まれます。
(2)恥をかきたくないから
「自分が行動してもネガティブな評価をされてしまうのではないか」という不安から、傍観者になってしまうことがあります。
身近な例では、お年寄りに席を譲りたいけれど、「そんなに歳を取ってない、失礼だ」と思われたらどうしよう、断れたらどうしようと不安になって結局何もしなかった、ということもありますよね。
「恥をかくくらいなら最初からやらない」と思ってしまうのです。
(3)誰も行動していないので緊急性はないと思うから
「周りが何も行動していないのなら緊急事態ではないだろう」と誤った判断をしてしまうことが、傍観者効果につながることも。
例えば、酔った人が路上に寝ているとします。危ないから声を掛けた方がいいのではないかと思っても、通行人がみんな素通りしていたとしたら、「自分の判断が間違ってるのかな?」と思い、見て見ぬふりをしてしまうのです。
(4)とっさのことに思考停止してしまうから
人の命に関わるような緊急事態に遭遇することは、そう多くはありません。そのため、突然のことにびっくりして、どうしたらいいか分からず思考停止してしまうこともあるでしょう。
人命救助の知識があったり、日頃から訓練をしていたりするような人ではない限り、とっさの時に動けなくなることも多いはずです。
傍観者効果を起こさないための対策
最後に、傍観者効果を起こさないためにどうしたら良いのか、その対策方法を紹介します。
(1)緊急事態への対応方法を日頃から考えておく
日頃から何も準備していないと、とっさの時に行動することは難しくなります。
例えば、具合の悪そうな人がいたら救急車に連絡し、症状や場所の伝達をするなど、普段から何かあった時のためにシミュレーションしておくと良いでしょう。
(2)最悪の事態を想定して動く
「大ごとにしすぎて後から問題になったらどうしよう」と思うと、行動に移せなくなります。
緊急かどうか判断しかねる際には、「大げさに行動をして、何も問題なかったらラッキー」というように考えると良いでしょう。
社内教育などにおいても、最悪を想定して動くことを訓練し、そうした社風をつくっておくと、傍観者を生み出しにくくなるはずです。
(3)指名して具体的に指示を出す
助けてほしいことがあったら、ただ助けてほしいと言うだけではうまく伝わらず、傍観者を生んでしまうことがあります。
「○○さんが、△△で困っているので××してください」「そこの青い服を着たお兄さん、110番してください」など、指名して具体的に指示を出しましょう。
すると指名された相手は「自分に責任がある」と感じますので、行動に移しやすくなるはずです。
(4)日頃から行動に移す訓練をする
緊急の時に、とっさに対応できるようにするためには、日頃からフットワークを軽くしておくのがおすすめです。
例えば、電車内で妊婦さんを見かけたら席を譲る、具合の悪そうな人には声を掛ける、会議で真っ先に手を挙げて発言するなど。
「あれ?」と気づいた時にそのまま様子を見るのではなく、行動につなげる訓練をしておくと、いざという場合でも適切な判断ができるようになるでしょう。
日頃のちょっとした行動の積み重ねを大切にしよう
周りにたくさんの人がいると、傍観者となって行動を起こさなくなるという心理効果は、人柄に関係なく、誰にでも起こり得るものです。
みんなが動いていない時に自分だけ行動するのはとても勇気がいるものですが、傍観者効果があることを自覚して、陥らないようにしたいですね。
日頃から、ちょっとした物事でも見ないふりをせず行動につなげていけば、緊急時にも体が動くようになると思いますよ。
(高見綾)
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