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「言われた」は敬語として使える? 意味や丁寧な言い換え表現を解説

松岡友子(コミュニケーションマナーアドバイザー)

「言われた」という言葉は、上司など目上の相手にも使える正しい敬語なのでしょうか? 尊敬や受け身など複数の意味があるため、解釈違いが発生することもあるようです。今回は、「言われた」という言葉について、コミュニケーションマナーアドバイザーの松岡友子さんに教えてもらいました。

「今日の朝礼で、課長は新規開拓に力を入れると言われた。どうやら部長から営業成績が上がっていないと厳しく言われたらしい」

この文章には「言われた」が2回使われていますが、その違いを説明できますか?

前半の「言われた」は課長に対する尊敬表現として、後半は受け身表現として使われています。

今回は、少し紛らわしいこの「言われた」について詳しく見ていきましょう。

「言われた」の意味

「言われる」は、動詞の「言う」に「れる(・られる)」という助動詞がついたものです。

辞書を見てみると、助動詞「れる(・られる)」には、以下の4つの働きがあると書かれています。

れる(・られる)

(1)自発を表す。「故郷が懐かしく思い出される」
(2)可能(許容も含めて)を表す。「駅へは5分で行かれる」
(3)軽い尊敬を表す。「本当にそう思われますか」
(4)受身を表す。「れる」を付けて受身とした時、受身の対象が迷惑を蒙る意味を込めることが多い。「長いものには巻かれろ」「雨に降られる」

(出典:『広辞苑 第七版』岩波書店)

冒頭の「言われた」に関しては、(3)の「軽い尊敬」と(4)の「受け身」の用法が当てはまりますが、このように、「れる(・られる)」の助動詞には複数の意味があるため、解釈違いが発生する可能性があるのです。

「言われた」は敬語として使える?

「言われた」は文法的に正しい敬語表現の1つですので、基本的にはどんな場面でも、上司を含めどんな方に対してでも使うことができます。

ですが、私個人としてはあまりおすすめしません。

なぜなら、前述の広辞苑の記載にもあるように、助動詞「れる(・られる)」を用いた敬語は「軽い」尊敬表現だからです。

そのため、目上の方に使うならば、相手に高い敬意を表すことができる「おっしゃった」「仰せになった」という「変換形式」の敬語を用いる方が好ましいでしょう。

敬語表現で「言われた」を使う時の注意点

前述したように「言われた」を敬語表現として使う場合には少し注意が必要です。具体的に見ていきましょう。

(1)尊敬表現と受け身表現との違いに注意

日本語は主語や目的語がなくても、たいていの場合意味が通じるという特性を持っています。それは多くの場合、聞き手の方が先回りして意味を想像するからです。

ところがこの特性によって、かえって尊敬と受け身の違いが分かりにくくなってしまったり、誤解が生じたりすることがあります。

例えば、「課長がよく頑張ったと言われた」という1文だけでは、尊敬表現なのか受け身表現なのかはっきりしません。

しかし、「課長が新人に対してよく頑張ったと言われた」のであれば尊敬表現、「課長が部長からよく頑張ったと言われた」のであれば受け身表現だと解釈できます。

助動詞「れる(・られる)」は尊敬よりも受け身としての意味の方が一般的ですので、多くの方は受け身表現と読み取ったのではないでしょうか。

このように、あえて「言われた」を尊敬表現として使用するなら、「誰に対して」言ったのかを明確にするように意識しましょう

(2)二重敬語に注意

一般的に、敬語は長い(文字数が多い)方が丁寧な表現と思われている傾向があります。確かに、「お願いします」「お願いいたします」「お願い申し上げます」というように、長くなるほど敬意が上がっていくのは事実です。

そのため、「言われた」をより丁寧な表現にしようとして、「おっしゃる」に「れる(・られる)」を付けて「おっしゃられた」とする方もいるかもしれません。

しかし、「部長が資料を用意するようおっしゃられた」と述べるのは二重敬語です。敬語を長くしようとして、必要のないところで語尾に「れる(・られる)」を付けてしまう方は意外と多いので注意しましょう。

「言われた」の丁寧な言い換え表現【例文付き】

ここからは、「言われた」の丁寧な言い換え表現をいくつか紹介します。

(1)「おっしゃる」

「言う」の一般的な変換方式の敬語表現です。「言われた」では敬意が不十分ではないかと不安な時は、こちらを用いるのがベターでしょう。

例文

「社長も内容に賛成だとおっしゃいました

(2)「仰せになる」

「おっしゃる」より敬意が高い敬語表現です。面識の少ない目上の相手などに用いると丁寧な印象を与えることができるでしょう。

例文

「田中様は魚料理が良いと仰せになりました」

(3)「お言いになる」

「お~になる」を用いた敬語表現ですが、あまり一般的ではありません。また、少々発音しづらいフレーズでもあるので、悩む場合は「おっしゃる」を用いるのがベターでしょう。

例文

「お客さまがそのようにお言いになるはずがありません」

(4)「お話しなさる」

「言う」を「話す」に言い換えた敬語表現です。「お~なさる」という形を用いることで、相手の動作に敬意を表すことができます

「課長、会議の冒頭で何かお話しなさいますか?」

ビジネスシーンでは適切な言葉に言い換えて使うのがおすすめ

「言われた」のような「れる(・られる)」の助動詞を使った表現も、慣れれば正しく使えるようになります。

ですが、二重敬語になっていないかなど、自信がない場合はあえて使う必要はなく、「おっしゃった」など確実な尊敬語を用いるのが好ましいでしょう。

語彙と表現方法が豊かな日本語ですから、敬語も1つだけではありません。どんな時でも、自分にとって使いやすく、相手にとって理解しやすい、そして正しい言葉遣いを心掛けたいものですね。

(松岡友子)

※画像はイメージです

※この記事は2023年12月12日に公開されたものです

松岡友子(コミュニケーションマナーアドバイザー)

マニエール・トモ代表。コミュニケーションマナーアドバイザー®。
駒沢女子大学・戸板女子短期大学 非常勤講師。
早稲田大学卒業後、ANA国際線客室乗務員およびチーフパーサーとして乗務。
退職後、エアラインスクール講師などを経て2007年より研修講師として活躍する。
日本語教師、NLPプラクティショナーやTAカウンセラー、ハラスメント防止コンサルタントなどの資格を活かし、ビジネスマナーからセルフマネジメントまで幅広く研修、講演を行う。
現在、横浜市立大学大学院にて女性学を研究中。

著書『誰とでも仲良くなれる敬語の使い方』(明日香出版社)

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