お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

同じやせ型でもダイエット経験の有無であることが変わる? やせ型女性の背景検証調査

#ヘルシーニュース

エボル

順天堂大学スポーツ健康科学部・大学院スポーツ健康科学研究科の室伏由佳 准教授、同大学院医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史 先任准教授らの共同研究グループは、やせ型(BMI18.5 kg/㎡未満)の若い女性を対象に多面的な背景検証調査を実施しました。

「やせ」の背景検証調査の必要性とは

今回の調査では、日本の若いやせた女性においてダイエット経験のあるグループとないグループでは、出生時体重、自身のボディイメージや体重への認識、運動や食習慣、摂食態度、メディアから受ける美の影響や、性格特性等が異なることを明らかにしました。

これまでに田村先任准教授らにより、やせた若年女性は将来の糖尿病リスクが高い可能性が明らかになる等、若い女性のやせは社会課題として注目されつつありましたが、同研究ではそのやせに至る背景にせまりました。

この成果は、「やせていれば健康」という誤った認識を解消する健康啓発には、各個人に最適化されたアプローチが必要ということを示しています。同論文はオープンアクセスジャーナルFrontiers in Public Health(Journal Impact Factor:6.431)に2023年6月2日付で公開されました。

やせた女性の健康問題は社会課題に

日本は、先進国の中でもやせている女性の割合が最も高く、さらに、若い世代(18~29歳)では約20%がBMI(体格指数)18.5kg/㎡未満のやせ型です。

近年、「少食で運動不足」の若いやせ型女性は、肥満者と同様に糖尿病リスクが高い可能性が明らかにされ(田村氏ら、2021)、やせた女性の健康問題は社会課題になりつつあります。

しかし、そもそも「若いやせ型の女性がやせに至った背景」については、これまで十分に検討されてきませんでした。若いやせ女性が、将来にわたり健康で豊かな生活を送ることができる社会を実現するためには、やせに至る背景を解明し、個人に最適化された運動習慣や食生活を検討することが必要と考えられます。

そこで同研究は、やせ型女性の「ダイエット経験の有無」に着目し、出生時体重、ボディイメージ、体重に対する認識、運動・食習慣、摂食態度、eHealthリテラシー、メディアから受ける美の影響と内在化する傾向の度合、性格特性、自尊感情等多面的な背景検証調査を実施しました。

ダイエット経験有無による主な背景の違い

表1 ダイエット経験有無による主な背景の違い

やせ型女性の背景検証を行うにあたり、やせ型並びに母子手帳を基に出生時体重の申告が可能な対象者をスクリーニングする目的で18~29歳の女性にWebアンケート調査を実施。5,905名から回答を得られ、このうち、23.5%(1,390名)が低体重(18.5kg/㎡未満)の条件に該当しました。

同調査において、低体重女性400名を対象に、ダイエット経験、身長や体重(BMI)、母子手帳に基づく出生時体重(母子手帳を基とした回答者:ダイエット経験なし168名、ダイエット経験あり136名)、ボディイメージ(自身がイメージしている自身の体型)、体重への認識、小学生から現在までの運動習慣*1、食習慣等について尋ねました。

また、5つの標準化された質問紙(摂食態度調査*2、eHealth リテラシー*3、メディアから受け取る美のメッセージを内在化する傾向の度合い*4、性格5因子*5、自尊感情*6)を調査しました。

解析の結果、出生時体重、自身のボディイメージや体重への認識、運動や食習慣、摂食態度、メディアから受け取る美のメッセージ内在度合い、性格特性等において、ダイエット経験有無の両グループには異なる背景が存在していることが明らかとなりました。

以下では、各グループの特徴をまとめました(図1,2は公開したインフォグラフィック動画の一部を抜粋)。

ダイエット経験のない若いやせた女性

図1 ダイエット経験のないやせ女性

ダイエット経験のないグループは、出生時体重がダイエット経験のあるグループよりも軽く(Ⅰ-1)、体重が減りやすいと回答する割合が多い(Ⅰ-4)ことから、潜在的なやせ体質である可能性が考えられます。

肥満だと感じる体重(Ⅰ-2)はダイエット経験のあるグループよりも約2.5Kg重い数値を申告しました。体重や食事量を増やすことに対しては、比較的抵抗が無いような認識がみられました(Ⅰ-3, Ⅲ—1)。

運動習慣を有する割合は、小学生時代から現在まで、ダイエット経験のあるグループよりも15~20%程度少ないことが分かりました。

運動習慣を持たないと回答したグループは、運動嫌いやこれまで実施機会がなかったとする理由が多い結果でした(Ⅱ-1)。ストレス時には、「食欲が減少する」割合がダイエット経験のあるグループより多くみられました(Ⅲ-3)。

性格5因子のうち「開放性」の得点が高いため興味関心が外へ向けられる特徴があることから、新しい経験や健康行動に対して積極性がある可能性が考えられます(Ⅵ-4)。

しかし、現在の運動習慣(Ⅱ-3)や食習慣(Ⅲ-4)に着目すると、あまり行動に移せていない傾向がありギャップがみられました(Ⅲ-3)。

少食で運動不足の場合、糖尿病等、将来の健康リスクが高くなると考えられるために、適切な運動や食習慣を得られるような情報提供の必要性が示唆されました。

ダイエット経験のある若いやせた女性

図2 ダイエット経験のあるやせ女性

ダイエット経験のあるグループは、体重が落ちにくく(Ⅰ-4)、ストレスや疲れを感じたとき食事量が増える傾向がみられました(Ⅲ-2)。

肥満だと感じる体重(Ⅰ-2)はダイエット経験のないグループよりも約2.5Kg軽い数値を申告しました。体重増加や食事量の増加に対する抵抗感が強い傾向にありました(Ⅰ-3, Ⅲ—1)。

運動習慣は、小学生時代から現在まで、ダイエット経験のないグループよりも高い割合でした(Ⅱ-1)。現在の運動習慣を持つ理由のうち「美容と肥満解消のために運動を行う」と回答した割合が高い結果でした(Ⅱ-2)。

摂食態度を測定する質問紙(EAT-26)の得点(Ⅵ-1)やメディアによる美に関する情報の内在化傾向がダイエット経験のないグループと比較して高く(Ⅵ-2)、ボディイメージの歪みといった主観的認知への影響が生じやすい可能性が考えられました。

性格5因子のうち、「勤勉性」の得点が高いため(Ⅵ-3)、責任感が強く、自制心を持ち忠実に行動し、目標達成に向けて努力する傾向が考えられます。痩身行動や思考のあるやせた女性に特化した情報提供の必要性が示唆されました。

今後の展開〜共同研究グループよりのメッセージ

本研究は、やせた女性でも痩身願望やダイエット経験がある人と、そうでない人への健康に関する情報提供が異なる必要性が示唆されました。本研究の結果は、各個人に最適化されたスポーツ機会の検討や、適切な栄養摂取ができるようにするためのアプローチに役立てられます。

これらに取り組むことで女性が年齢を重ねても長く健康で豊かな生活を送ることができると考えます。また、今後の低体重女性に関する研究の推進に広く役立てられることが期待できます。ただし、自然に痩せているような女性も多く、すべての痩せた女性がリスクを持っている訳ではありません。

私達が体型の多様性やリスクについて正しく認識できるようなエビデンスが不足しており、今後さらなる研究を続けていきます。

用語解説

*1 運動習慣者の定義:週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者(国民栄養調査参照)。
*2 摂食態度調査票(EAT-26):食事障害の可能性をスクリーニングするための自己報告式尺度(診断ツールとは異なる)で、合計スコアが20点以上の場合、食事障害の可能性を示唆すると考えられ、専門家によるさらなる評価が推奨される。
*3 eHealth Literacy Scale日本語版(eHealth):個々がインターネットを介した健康情報の検索、理解、評価、適切に活用する能力を測定し、得点が高いほどeHealthリテラシーが高い。
*4 Sociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3短縮版(SATAQ-3 JS):個人が社会文化的な美の規範や外見に対する圧力をどの程度認識し、受け入れているかを測定し、得点が高いほど影響が高いことを示す。
*5 日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J):個々の人の性格を理解するための基本的な枠組み性格5因子(開放性・勤勉性・外向性・協調性・神経症傾向)から構成される。
*6 自尊感情尺度(Rosenberg’s Self Esteem Scale: RSES):個々の自尊心を測定するための心理学的な尺度で、得点が高いほど自尊感情が高いことを意味する。

同研究で作成した教育・啓発動画の紹介

同研究の成果を基に、「順天堂大学が伝える健康のハナシ」として教育・啓発映像を制作し、順天堂大学公式YouTubeサイトより公開しました。

1.教育用インフォグラフィック動画(教育機関・教育実施者向け)
URL:https://youtu.be/HRgKYhiszZI

2.啓発用インフォグラフィック動画(一般向け・教育現場)
URL:https://youtu.be/2TNoxQgiqEo

※論文の主要内容をレジュメ(和文)としてまとめた資料をYouTubeサイト概要欄、または、次のURLよりダウンロードできます。

レジュメ URL:https://www.juntendo.ac.jp/assets/attachmentfile/attachmentfile-file-6154.pdf

(エボル)

※この記事は2023年06月13日に公開されたものです

エボル

ネットを中心にさまざまなサービスやビジネスを創造する企業。特にコンテンツ開発分野においては、さまざまな分野で活躍する多彩なライター陣と経験豊かなエディターを中心に各ネットメディア向けて最適化された、品質の高いコンテンツを企画制作しています。マイナビウーマンではニュース記事を担当。
https://e-vol.co.jp
https://pro-web.jp

この著者の記事一覧 

SHARE