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【File53】既婚者との交際宣言をした話

#イタい恋ログ

大泉 りか

今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回は大泉りかさんのイタい恋。

既婚者との関係は、都合がいいと思っていた

不倫は辛苦の道。そんなことは分かっていても、結婚をしている人を好きになってしまうことはある。わたしもまた、既婚者の男性と体の関係を持ったばかりでなく、ガチで好きになってしまった経験があります。

彼と出会ったのは、友達と一緒に飲みに行ったバーでした。当時、恋人と上手くいっていなかった――具体的にいうと完全に“レス”だった――わたしが「あー、誰かとシたい!」とボヤいた時に、彼が「だったら俺としてみる?」と冗談めかしてわたしを誘ってきたのが最初です。

レスといっても、恋人のことは好きだったし、別れるつもりもなかった。だから、彼が既婚者であることは、わたしにとってはむしろ都合のいいことでした。奥さんがいるのであれば、お互いに都合のいい関係として、後腐れなく付き合える。今思えば、自分のことは、自分で完全にコントロールしきれると、驕っていたのだと思います。恋心の持つパワーを舐めていた……。

既婚男性との交際宣言をした

以降、わたしとその既婚者と彼とは、定期的に会ってはホテルに行くような関係となりました。

それだけなら良かったけれども、まずかったのは、彼とは飲みに行く店が被っていて、そこに行けば約束が無くとも会えたことだと思います。ベッドの上だけの関係であれば割り切れたのかもしれないけれど、酒を飲み交わしながら、本命の恋人の愚痴を話して慰められたり、共通点を見つけて盛り上がったり、バカバカしい話で笑い合ったりしているうち、彼と一緒にいることが、どんどん楽しくなっていった。

やがて、もっと一緒にいたい、もっと会いたいという欲望が生まれ……そう、すっかりわたしは彼に恋をしてしまっていたのです。

わたしと彼との関係に、いま思えば周囲の人々もうっすらと……いえ、はっきりと気がついていたと思います。けれど、誰もひとりとして、わたしに「実は、出来てるよね?」と突っ込んではきませんでした。

それは今となれば、周囲の皆が大人だったからだと解るのだけれども、当時のわたしには、それがまったく見えていませんでした。むしろ、「彼は既婚者だし、わたしにも彼氏がいるしで、『実は出来てるよね?』と突っ込めないことに、みな、ストレスを感じているのではないか。だったらぶっちゃけてしまったほうが、みな『黙っていなくては』というプレッシャーから解放されて、楽になるに違いない!」と思ったのです。

「わたしたちの関係を、みんなに公言したい」と彼に相談し、了承を得たわたしは、まずはそのバーのマスターに「実はわたしと〇〇さん、付き合っていて……」と告げました。しかし、「やっぱりそうだよね~!」とか「知ってたわ!」といった反応を期待していたものの、「へ、へぇ……」と煮え切らない返事。え?! なんで?

バーのマスターばかりではありません。知人友人の誰もがそうでした。「そんなこと、分かっているけども、公言すんな!」という釣れない態度。そうしてわたしは、ようやく気がついたのです。不倫の恋は、どうであっても不貞であり、周囲にとって、それを知らされることは迷惑なものなのだと。

イタい恋から得た教訓「不倫を公言するということは、その片棒を他人に担わせるということ」

不倫を公言するということは、その片棒を他人に担わせるということ。気まずい秘密を抱えさせること。絶対にやっちゃいけないことだったと今では思います。けれども、あの時は、みんながわたしの味方で、ゆえに正直に現状を告げることが、正しい行動だと思っていた。

彼は円満に関係を解消することとなりましたが、以後、何人かの女友達や知人から「付き合っている人がいるんだけど、実は既婚者で」という報告を受けたり、時には男女そろって「実は俺たち、そういう関係で」なんて暴露されたこともある。その度に「ああ、わたしも通った道……」と居た堪れなくなるとともに、「お願いだから、それは黙っていてくれないか」と願う。

だって正直なところ、そんなこと、知らされたくない。知らされるということは、ふたりの関係を認める/認めない、どちらのスタンスを取るのか決めろと言われているのと同じことだから。

そう。既婚者の彼と交際宣言をした時のわたしに「無い存在とされたくない。“彼女”として、周囲に公認されたい」という気持ちがあったのも確かなのです。だって、相手にとって“特別な存在になりたい”と思うのが恋であり、自分が“特別な存在”であるかどうかに不安を抱いていたならば、それは周囲に“彼女”と公認されることでしか解消のしようがない。

好きになってしまった人が既婚者なのは仕方がないし、彼との愛を貫きたいと思うのも好きにすればいいけれども、他人を巻き込むな。これがわたしのイタい恋から学んだことです。

(文・大泉りか、イラスト・菜々子)

※この記事は2022年06月12日に公開されたものです

大泉 りか

2004年「FUCK ME TENDER」(講談社)で作家デビュー。以後、ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方についてのエッセイを多く手掛ける。「サディスティック88」(小学館)、「ときめき軽音部 ヒミツの放課後レッスン」(リアルドリーム文庫)、「もっとモテたいあなたに 女はこんな男に惚れる」(イーストプレス)など、著書は20冊以上。今年の夏には初めてのルポ・ノンフィクション系の書籍を刊行する予定。趣味は映画、海外旅行、外食。

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