
【File52】旅行前日に彼氏が他の女性へプロポーズを決意した話
今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回はさかもとみきさんのイタい恋。
付き合う人や好きになる人が「仕事を辞める」ダメンズホイホイ恋愛コラムニスト、さかもとみきです。
学生時代から都合のいい女予備軍だった私の家は、気づいたらスロットガチ勢が部屋にたむろし、男友達にとって居心地のいい「クズハウス」と呼ばれるたまり場になっていました。
そんなクズハウスにも遊びに来ていた大学時代のサークルの先輩が、今回の主人公です。
仕事を辞めた男どもの止まり木に
地方で社会人になっても、「自分の部屋より落ち着く」と男友達に好評だった私の部屋には、無職やフリーターになった友人が定期的に転がり込んできます。彼もそんな中の一人でした。180cmを超える長身で、人当たりの良い、いつもニコニコスマイルの真面目な先輩。
再会した時は、警察官を辞め、バイクで旅に出た先で警察官に職質を受けるような風来坊に変貌し、当時流行っていたヒルクライムの『春夏秋冬』を壊れた機械のようにずっと歌っていました。
お酒を飲みながら旅の土産話を一通りきくと、仕事の愚痴や辞めた経緯がぽつぽつと出てきます。私も、「大変だったんですね」「それはしんどいですね」「仕事が全てじゃないですよ」と、先輩がかけてほしい言葉をシャワーの様に浴びせながら受け入れまくりました。
当時4つ上の先輩は当時30歳目前。周りは仕事をバリバリ頑張って昇進し、結婚を決める人も多かったのでしょう。そんな中、弱音を吐き、仕事を辞めることに共感してくれる人が少なかったのかもしれません。そこに、都合のいい、話を聞いてくれて拒絶しなさそうな私がいたわけです。
心の隙間につけこみ、彼女に昇格
その再会を機に、先輩はバイクで300kmの距離を運転し、私のところに度々来るようになりました。実家に帰ると500km先の私の地元までも遊びに来るように。
「え? そこまでする普通? 私のこと好きなのかな?」
と、うっかり、私もだんだんその気になってきました。
更に、先輩の家に私も行くようになったり、地元の友達に紹介されたりして、
「私のこと、長く付き合っていきたい人と思ってる???」
と勝手な勘違いが加速していきます。今なら分かります。先輩、暇だったんですよね。
2周遅れでモラトリアムを楽しんでいた先輩を受け入れてくれる居場所は無かった。ただただそれだけだったんです。
当時の私は、丁度彼氏が欲しかったので、グイグイ押しまくりました。なんせ、先輩の欲しい言葉は分かっているし、弱みも、自信の無さも把握しています。
そうして私は紹介された友達も囲い込み、ごり押しで付き合うことに成功。
「こんなあなたのことを受けいれてあげられるのは私だけだよ」
という、救いの女神の皮を被ったモラハラ気質満載の彼女が爆誕。「誰でもいいから自分を受け入れてほしい男」×「なんとなく彼氏が欲しい女」のカップルが成立しました。
3連休で先輩との初めての旅行を企画
押しに弱い、本来お人好しの先輩を丸めこむ形で、付き合い始めた私たち。
正直、うっすら先輩の気持ちに迷いがあるのは、気づいていたんです。でも、それは時間が解決してくれるだろうと楽観的に考えていました。
でも、その自信は割と早く木っ端みじんに砕け散ります。
事件は、付き合いはじめて一カ月。周りに「実は彼氏ができた」とカミングアウトし始めた矢先でした。
3連休を迎え、「今年の夏はどこ行こうか~」と歌う、無職で暇な先輩がパワースポットの出雲大社に行きたいと言い出します。
パワースポットに全く興味のない私でしたが、旅を通して先輩と私の絆は強くなるんじゃないかとワクワクしながら出雲大社をリサーチ。なんてったって、縁結びの神様です。旅行を楽しみに、仕事をもりもりこなしていました。
旅行前日に彼氏がほかの女性へのプロポーズを決意
金曜日の夜、当時勤めていた広告代理店の締め切りを乗り越えた私は達成感に満ちてました。そんな時に先輩から電話がかかってきたのです。
「今から好きな人に、プロポーズしてくるから別れてほしい」
もう、意味が分からないですよね。青天の霹靂とはこのことです。しばらくフリーズし、どういうことか説明を求めました。
1)出雲大社楽しみやな~。そや、あっちにゼミで一緒やったあの子おるな。連絡しよ~!
2)フェイスブックで連絡、スカイプで話すうちに意気投合! めっちゃ気が合う、楽しいな。
3)あれ、俺、あの子好きや……。よし、この気持ちに気づいたからには伝えに行かなあかん!
という……。ねぇ、なんなん? その行動力と確信。
私は「別れたくない、話したい。じゃあ、むしろその女んとこまで送ったるわい」と泣きつきました。今思うと、好きよりも、その急に訪れた理不尽さに抗うことに必死だったのだと思います。また、会えば丸め込めると考えていたんですね。
結局、遠距離ですぐには会いに行けないし、今まで見たことのないほどの先輩の固い意思に負け、別れることに。春夏秋冬どこへ行こうどころか、ひとつの季節も巡ることなく恋は終わりを告げたのです。
その夜は親友に電話で慰められ、真っ白になった連休の予定を埋めるように次の日の朝一で美容室を予約しました。失恋の顛末を話しながら伸ばしていた髪をバッサリ切ってショートカットにした思い出は今も忘れられません。急展開の失恋話に美容師さんは大爆笑でした。
プロポーズが成功して私がただの勘違い女と気づいた瞬間
先輩は本当にその連休に好きな人に会いに行き、付き合い、地元を離れてそこで就職&結婚し幸せに暮らしています。
なんだ、そのハッピーエンド!!!! マジで許せん!!!(笑)
当時は、後々フェイスブックで知ったその事実もボディーブローのように効きました。
先輩が私に会いに来たのは、「誰かにかまってほしかった」「居場所が欲しかった」この2つの理由だけだったのでしょう。
最初から男性が甘えてくる場合、「好き」だから以外に理由があることがほとんどです。普通好きなら、かっこいいところや、自分の良いところを見せたいじゃないですか。
弱点から見せるのは「自分を受け入れてほしい」というエゴの先行です。そこに思いやりや好きな気持ちがあって勘違いすると、私のような悲劇が訪れるのです。
イタい恋から得た教訓「都合のいい女になって本命女のかませ犬になるな」
都合のいい女をやめることは難しいです。相手に都合がいい時はそれなりに大事にされているように感じるし、自分が相手を好きだとなかなか抜け出せませんよね。
でも、相手に本命が見つかった時は見るも無残に捨てられます。
先輩は、ある女性と出会った時に「都合のいい女(私)」と比較して「好き」という確信がより持てた。
つまり、私は都合のいい女な上に、引き立て役&かませ犬になり下がりました。これは、口で勝てて丸め込めるからと弱っている先輩の心につけ込んだ報いでもあったと思います。
都合のいい女でいると、男性から甘えられ、モテ気分が味わえます。でも、もうそんな都合のいい女ポジションに甘んじるのは卒業しようと思わされたイタい恋でした。
(文・さかもとみき、イラスト・菜々子)
※この記事は2022年05月29日に公開されたものです