「したたかさ(強かさ)」の意味とは? 使い方や例文・言い換え表現
「したたか(強か)」という言葉はネガティブな意味で使われるイメージが強いですが、褒め言葉としても使われます。今回は、ライティングコーチの前田めぐるさんに「したたか(強か)」の意味や使い方、類語、対義語を例文と併せて解説してもらいました。
「したたかな人だね」と聞くと、どう感じますか? ずる賢い、計算高いというイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、本来「したたか」とは、「強か」と書き、「強く、簡単に屈しない」という良い意味を持つ言葉です。
「したたか」と耳にしても、すぐに悪口だと判断せず、相手の意図や背景に思いを巡らせるようにしたいものですね。
「したたか」の意味
「したたか」を辞書で引くと、次のように載っています。
したたか【健か・強か】
(1)非常に強いさま。てごわいさま。
(2)いかめしいさま。しっかりしているさま。
(3)(副詞的にも用いる)甚だしいこと。沢山。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
辞書によれば、「したたか」とは「強く、しっかりしているさま」を表す言葉です。
「健」の字も当てられていることから、身体的な強さや、見た目のいかめしさなども意味しています。
また、「腰をしたたか打った」「酒をしたたか飲んだ」など、副詞としても使えます。
以上のことから分かるように、「したたか」という言葉は、「強く、簡単に屈しない」という意味です。
「したたか(強か)」はどんな時に使える?(例文付き)
さて、「したたか」という言葉をビジネスやプライベートでどのように使えるかを、例文とともに考えてみましょう。
「したたか」であることは、個人が強く生き抜くだけでなく、組織で働く上でも必要です。
単に気が強く負けず嫌いというだけでなく、交渉における根回しや、何手も先を読めるような洞察力は「したたか」なスキルであるといえるでしょう。
その点で言えば、経営者やリーダーにとっての「したたか」は、褒め言葉になることも多いのです。
シンプルに本来の「気の強さ」という意味で使う時
人の性格を表す時には、下記のように使います。
例文
・主人公はしたたかに逆境を生き抜き、多くの読者から共感された。
・嫌われてもいい。自分にだけはうそをつかず、したたかに生きる覚悟を決めた。
・あなたは優しすぎるので、いい意味でしたたかに、開き直るくらいがちょうどいいですよ。
・彼女は同僚から、しっかりした、したたかな女性だと思われている。
ビジネスにおける「たくましさ」という意味で使う時
経営者などに対してビジネススキルとして使う時は、下記のように表現します。
例文
・IT業界は移り変わりが激しく、油断できない。経営者がしたたかでなくては、生き残れない。
外交や折衝における「交渉強さ」という意味で使う時
交渉スキルとしての「したたかさ」は、下記のように使います。
例文
・国際外交では、ある種のしたたかさが必要不可欠だ。お人好しでは務まらない。
試合などで「メンタルの強さ」という意味で使う時
「したたか」は、スポーツなどで選手の姿勢を表すのにも使えます。
例文
・その選手は終始したたかで、負けていても平然としており、ついには挽回勝ちした。
「たくさん」という意味で副詞的に使う時
「したたか」は、後に続く言葉の程度を強める副詞としても使えます。
例文
・久しぶりに高校時代の同級生と会って、お酒をしたたか飲んだ。
「したたか(強か)」を使う上での注意点
前段で述べたように、「したたか」という言葉は、「強く、容易には屈しない」という意味で、本来褒め言葉として使います。
しかし、冒頭に書いたように、現代ではネガティブなニュアンスも含むことがあります。
例えば、『明鏡国語辞典 第3版』(大修館書店)では、「したたか」の意味は次のように掲載されています。
したたか【強か】
強くて、容易には屈しないさま。また、世なれていて、手ごわいさま。
『明鏡国語辞典 第3版』(大修館書店)
2つめの「世なれていて、手ごわい」は他者から見た表現であり、良いとも悪いとも感じられる微妙なニュアンスを含んでいます。
「したたかさ」が、周囲の人にとって利益となれば褒め言葉となるでしょうし、疎ましいと思われれば否定的な言葉になってしまうでしょう
例を挙げてもう少し詳しく説明します。
A.彼はしたたかだ。
B.彼はしたたかで、リーダーシップがあり、周囲に勇気を与える人だ。
「したたか」という言葉は、Aのように単独で使うと誤解を招くことが多いです。
Bは、「したたか」だけでなく、良い意味を持つ他の言葉も添えています。文意が補強され、ポジティブな印象を与えるのが分かります。
前後に付く言葉によって印象が異なる場合があるので、ポジティブな意味で使う場合には「したたかさ」単独ではなく、言葉を付け加えつつ伝えるようにしましょう。
「したたか(強か)」の類語・言い換え表現(例文つき)
「したたか」という言葉が本来良い意味だと知っていても、いざ自分が使うとなれば、相手が正しい意味を知らずに誤解されることもあるかもしれません。
そんな時は、「したたか」を無理に使わず、別の類語を使う方法もあります。
似たような意味の言葉、言い換え表現を以下に紹介します。
「たくましい」
「志を曲げないで、心が強い様子」を意味します。「したたか」とほぼ同義。
例文
・その部署は一時期かなり厳しい業績だったが、皆たくましく乗り切ることができた。
「打たれ強い」
「つらい仕打ちに耐える、逆境にくじけない様子」を意味します。「したたか」とほぼ同義ですが、ネガティブなニュアンスはありません。
例文
・彼は打たれ強いだけでなく、努力家だったので、やがて営業部のエースに成長した。
「図太い」
「神経が太く、大胆な様子」を意味します。
「肝が座っている」という良い意味もありますが、否定的な意味で使われることが多い言葉です。
一方で、か弱い印象の人に対して、第三者や本人が良い意味で使うこともあります。
例文
・彼女は優秀だが、他人に気を使い過ぎる。もっと図太くなってもいいくらいだ。
「気丈夫」(きじょうぶ)
気がしっかりしているさま。「したたか」とほぼ同義ですが、ネガティブなニュアンスはありません。
例文
・母はもともと気丈夫な人だったが、父を亡くしてからは涙もろくなった。
「骨がある」
物事に耐える気力があること。「したたか」とほぼ同義ですが、ネガティブなニュアンスはありません。
例文
・今でも覚えているのは、新人研修で「なかなか骨があるね」と部長に褒められたことです。
「気骨がある」
「強い心があり、すぐ人に屈しないさま」を意味します。「したたか」とほぼ同義ですが、ネガティブなニュアンスはありません。
例文
・彼には、このあたりで気骨があるところを見せてもらいたい。
「したたか(強か)」の対義語(例文つき)
「したたかではない」「気持ちが弱い」という意味の言葉には、どのようなものがあるのでしょうか。
「したたか」とは、反対の意味を持つ言葉を以下に紹介します。
「打たれ弱い」
「攻撃に耐える力がない」「気が弱く、批判や非難、逆境に耐えられないさま」を意味します。
広辞苑には掲載されておらず、「打たれ強い」に対してできた言葉だと推測できます。
例文
・親というものは、わが子に「打たれ弱いよりは、打たれ強い子に」と願うものでしょう。
「気弱」
「気が弱いさま」を意味する言葉です。
例文
・あの人はああ見えて、皆が思うよりもずっと気弱な人だ。
「もろい」
「感情的に弱いさま」を意味する言葉です。
例文
・彼は一見気が強そうで、情にもろい一面もある。
「心弱い」
「気が弱いさま」を意味する言葉です。
例文
・その子犬は、母親を亡くしてからは心弱くなったように見える。
「したたか」の意味が「気の強さ」だけではなくなった背景とは?
本来、良い意味であった「したたか」がネガティブなニュアンスも加わってしまったのは、なぜでしょうか?
理由はさまざまですが、1つには私たちの使う言葉が、昨今では他者との関係性によって判断されることが多いからだと考えられます。
ある人が「したたか」であるという事実以上に、その「したたかさ」が周囲にどう受け止められるかが、言葉の意味にかなり影響してしまうようです。
元来、人が強く生き抜くためには、単純に気の強さだけではなく、聡明さや計算、洞察も必要です。
しかし、そうしたことが、周囲には「かけひき上手、ずるがしこく、計算高い」と見られてしまうことがあるのでしょう。
窮屈な気がするでしょうが、これもまた言葉の持つ一面です。
(前田めぐる)
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※この記事は2021年09月02日に公開されたものです