私たちは日頃人と話をする中で「あなたの言っていることを理解しました、受け入れました」ということを相手に伝えたい時、「わかりました」という言葉を使っています。
特に仕事をしていると、周りの人から何かを指示されたり依頼されたりすることがあります。
もし、上司から「この資料を11時までに5部準備しておいて」と言われたら、あなたは何と答えますか?
「はい、わかりました」と答えるのはOKなのか、それともNGなのか? 結論から言うと、避けた方がいいです。
今回は「わかりました」の正しい使い方について解説します。
■「わかりました」の意味
「わかりました」を正しく使うために、まずは言葉の意味を見てみましょう。
◇「わかりました」は丁寧語
「わかりました」とは、「わかる」という動詞に丁寧語の「ます」を付け、過去形にした丁寧語で、敬語表現の1つです。
丁寧語とは、尊敬語のように相手を高めたり、謙譲語のように自分がへりくだったりするという働きを持たず、相手や自分の立場に関係なく物事を丁寧に伝える言葉です。
◇「わかりました」とは「相手の話を理解し、認めた意思表示」
「わかる」の意味は、『広辞苑 第七版』(岩波書店)によると、
・事の筋道がはっきりする。了解される。合点がゆく。理解できる。
・明らかになる。判明する。
などと定義されています。
相手の話を「理解し、認めました」という意思表示を丁寧にしたものが「わかりました」という言葉であることがわかります。
■目上の人に「わかりました」と使うのは失礼?
丁寧語である「わかりました」は目上の人に使っても良いのでしょうか?
結論から言うと「避けた方がベター」です。
◇「わかりました」と返すのは避けた方が良い
確かに「わかりました」は丁寧語という敬語表現の1つですが、他の敬語に比べて敬意の度合いがやや控えめです。
そのため、失礼だという印象を抱かせないよう、できれば目上の人に対して「わかりました」と返すのは避けた方がいいかもしれません。
相手が目上の人の場合は、丁寧語だけではなく、後述するような「相手を立てる表現」または「自分がへりくだる表現」を用いる方が良いでしょう。
◇「了解しました/了解です」もカジュアルな印象を与えてしまいがち
なお「わかりました」と同じように使われている言葉に「了解です」「了解しました」というものがあります。
同僚や部下など、自分と同等かそれ以下の立場の人を相手に、情報伝達や指示・依頼などへの返答の言葉として日常的に使われています。
しかし、上司など目上の人に対しては少し軽々しく、カジュアルな印象を与えてしまうので、避けた方が良いでしょう。
◇「了承しました」も目上の人や上司には使わない
「了承しました」とは「了承する」という言葉に敬意を表した丁寧語です。依頼に対し、承諾する意味合いとして使用します。
ただし、相手に対して「OK」という意味合いが強いため、こちらも^目上の人や上司に使うことはおすすめできません。部下や同僚に向けて使うことが一般的^です。
■メールや電話で使える「わかりました」の言い換え敬語表現
では目上の人に「わかりました」と伝えたい時、どのような言葉を使えば良いのでしょうか。
いくつかのパターンを使用例と合わせてご紹介します。
◇「かしこまりました」
「かしこまりました」は、動詞の「かしこまる」に丁寧語の「ます」を付け、過去形にした言葉です。
「かしこまる」は、「つつしんで目上の人の言葉を承る」(『広辞苑 第七版』岩波書店)という意味を持ち、「つつしむ」という相手への高い敬意を示す表現です。
取引先やお客さまへは「かしこまりました」を使うと良いでしょう。
☆ビジネス例文:取引先からの確認の場合
A:恐れ入ります、○○社の○○と申します。営業部の中村様と14時にお約束をいただいているのですが……。
B:中村ですね、かしこまりました。少々お待ちくださいませ。
☆ビジネス例文:お客さまからの依頼の場合
A:申し訳ないのですが明日の予約の時間を変更してもらえませんか?
B:ご予約の変更ですね、かしこまりました。ご希望の日時をお聞かせいただけますでしょうか?
参考記事はこちら▼
「かしこまりました」の意味や使い方、「承知しました」との違いなどを詳しく解説します。
◇「承知いたしました/承知しました」
「承知しました」「承知いたしました」も言い換えに適しています。特に「承知いたしました」は、「承知する」という動詞に「いたす」という謙譲語を付けて過去形にした言葉で、相手の申し出や頼みを聞き入れ、引き受けるという意味合いがあります。
謙譲語なので自分のことをへりくだっている表現ですが、「かしこまりました」ほどの高い敬意は込められていません。
上司や自分より立場が上の人へは「わかりました」よりも「承知いたしました」を使うと良いでしょう。
☆ビジネス例文:上司や先輩からの依頼の場合
A:今から外出しなくてはいけなくなったので、16時からの会議資料の準備をお願いできるかな。
B:承知いたしました。15時までには準備しておきます。
☆ビジネス例文:自分より立場が上の人からの依頼の場合
A:新システムへの移行の際に、旧システムのパスワードを引き継ぐことができないそうなので、各自パスワードの再登録をお願いできますか。
B:承知いたしました。ご連絡ありがとうございます。
参考記事はこちら▼
「承知しました」の意味や使い方、「了解しました」など他の表現との違いを解説します。
◇「承りました」
「承りました」は「承る」という動詞に丁寧語の「ます」を付け、過去形にした言葉です。
「承る」は「(目上の人の)命を受けてその通りにする、謹んで聞く、拝聴する」(『広辞苑 第七版』岩波書店)といった意味を持ち、話を理解したというよりも、「聞いた・引き受けた」というニュアンスが強い言葉です。
取引先やお客さまなど、社外の人から伝言を依頼された際などに使うと良いでしょう。
☆ビジネス例文:社外の人から電話で伝言を依頼された場合
A:電話があったことを○○様にお伝えいただけますか?
B:はい、伝言の旨確かに承りました。○○に申し伝えます。お電話ありがとうございました。
■「わかりましたか?」と質問したい場合の言い換え表現
相手の理解度を確認したい場合、「わかりましたか?」と聞くことがありますが、ビジネスシーンにおいて適切な表現とはいえません。
では、どのような言い回しであれば良いのでしょうか。3つの例文をみていきましょう。
◇「ご理解いただけましたでしょうか」
相手との誤解や情報伝達不足を防ぐために、内容を理解しているかどうかを確認する言葉が「ご理解いただけましたでしょうか」となります。
丁寧語ではありますが、相手の理解力を見切る表現となるため、^目下の人に説明する時や、会議など大勢の人に向けて使用する^機会が多いといえるでしょう。
そのため、目上の方への使用は避けた方が良いでしょう。
◇「ご不明な点はございませんでしょうか」
「何かわからないことはありませんか?」を表現した丁寧語です。
はっきりとしない物事、またそのさまという意味の「不明」に、「ご」をつけた相手を敬う表現となります。
ビジネスシーンでは、^一通り説明した上で「まだ何かわからないことはありませんか?」と、こちらが相手に問いかける際に使用する言葉^です。
質問を遠慮してしまう人に向けた配慮するシーンにも活用されます。
◇「わかりづらい箇所があればお申し付けください」
「申し付けください」とは「言いつける」の謙譲語で、^わかりづらい箇所があれば私に何でも言いつけてください^という意味になります。
相手への敬意や礼儀を尊重する表現なので、一般的には社外の方へ使う表現言葉でしょう。
一方、同僚や部下、よく顔を合わせる上司への使用は不自然となりますので、注意しましょう。
■状況に合わせて「相手を尊重した表現」に言い換えるスキルを
ビジネスの場では、上司や目上の人、取引先、お客さまなどから指示・依頼・提案を受けることが多々あります。
そんな時に使う「わかりました」という短い言葉だからこそ、状況に合わせて相手を敬う表現に変えて対応すると、より印象がアップするかもしれませんね。
「かしこまりました」「承知いたしました」「承りました」と相手を尊重し気遣う言葉で、目上の人とのコミュニケーションを円滑にし、確かな人間関係を築いていきましょう。
(直井みずほ)
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