ナンパ男
女性を困らせる人はこの世にたくさんいます。セクハラ、パワハラ、マウンティング、毒親……。「男は敷居を跨げば七人の敵あり」なんてことわざもありますが、女性の方が敵多くない? そこでこの連載ではコラムニストのアルテイシアさんに、困らせてくる人々に立ち向かう知恵を授けてもらういます!
連載「#女子を困らせる人」、今回のテーマは「ナンパ男」。
「ナンパ男」の恐怖を感じた体験談
「ナンパって怖いよね」と女性陣に話すと「分かる! めっちゃ怖い!」と膝パーカッションで地表が割れる。
例えば、家の近くでナンパされると「後をつけられて、自宅を知られるんじゃないか」と怖い。
以前、私も駅から自宅までつけられたことがある。自宅アパートの前で「あの……」と男性に声を掛けられ、おしっこをちびりそうになった。40代の今なら確実に漏らしている。
「電車の中で男に声を掛けられて、断ってもずっと話し掛けてきて、電車を降りてもついてきた。そのまま家までついてきそうだったので、交番の前まで行った」
「近所のコンビニから自転車で追い掛けられて、殺されるんじゃないかと思った」
……などなど、ナンパの恐怖体験を語る女子は多い。しかも「断ったら逆ギレされて、危害を加えられるんじゃないか」という恐怖もある。
男性芸能人がコンビニで女性をナンパして、断られたことに腹を立てて暴行する事件があった。
「ナンパを断ったら体当たりされた」「お腹を殴る真似をされた」という女友達もいる。「クソ!」「ブス!」と罵倒された経験を持つ女子も多い。
こうした被害も、男性には見えない世界なのだろう。男性にナンパの話をすると「モテ自慢?」と言われたりして、血管が何本あっても足りないヘルジャパン。
と言うと「ナンパされて喜ぶ女や自慢する女もいるだろ!」とクソリプが来るが、だから何なんだ。そういう女性がいるからといって、ナンパされて怖い思いをする女性がいる事実は変わらない。
ヘルジャパンでは、女性が警戒すると「自意識過剰だ」と責められて、現実で被害に遭うと「なぜ自衛しなかった」と責められる。
性暴力の加害者より被害者が責められる日本では、女はモヒカン&トゲ肩パットで武装しなきゃならんのか。好きな格好もできないなんて、ヘルみが過ぎるじゃないか。
女性が自衛を求められる現状がクソだが、「マスク&サングラスで通勤するようにしたら、ナンパにも痴漢にも遭わなくなった」という声もあるので、そこは参考にしてほしい。
通りすがりの「ナンパ男」撃退法
通りすがりのナンパについては、どう対処すればいいか?
「お茶しない?」と声を掛けられた時に「戯言は地獄の鬼にでも言え!」と返したいが、逆ギレされたら怖い。
ポリス返し
男「お茶しない?」
私「今から仕事なんで」
男「仕事って何してるの?」
私「警察官です」
という「ポリス返し」は効果的だろう。これはキャッチセールスなどにも使えるので、覚えておくと便利。
彼氏・夫の存在匂わせ返し
女性陣から「今から彼氏の家に行くんで」と返すと大抵のナンパ男は引き下がる、との意見が寄せられた。
だが私は「夫が待つ家に帰るんで」と返したら「いいやん、飲みに行こうよ」と粘られた経験がある。女友達は「旦那も他の女と遊んでるって」と粘られたそうだ。
ゾンビ並みにしぶといナンパ男を撃退するには、グレッチや丸太を携帯するしかないのか。
とはいえ携帯するにはデカすぎるので、スマホで適当に電話を掛けて「もうすぐ着くから」と小芝居するといいだろう。
「パードゥン?」返し
「私は日本語が分からないフリをします」という意見もあった。
「ソーリー」「パードゥン?」と返せば、大抵のナンパ男はひるむそうだ。
オカルト返し
「えっ……あなたの後ろにいる女の人、すごい怒ってるけど大丈夫ですか?」とオカルト返しする、という意見もあった。
「私、見えるんですよね……」と呟いて、逆に相手を恐怖に陥れてやりたい。カラスを肩に乗せて、オカルト感を盛るのもナイスだ。
まだまだいる! 飲食店に出没するナンパ男
飲食店、書店、スポーツクラブ、新幹線などで声を掛けられた、という体験談も寄せられた。
私もバーでナンパ男に話し掛けられ、しかも勝手に1杯おごられて、帰ろうとしたら「おごったのに無視かよ!」と逆ギレされたことがある。
「こっちは頼んでねえし、たかが酒1杯で接客サービスを求めんじゃねえ!!」と酒をぶっかけたかったが、反撃されるのが怖くて何もできなかった。
女友達はバーで男性2人組に話し掛けられ、さんざん下ネタを聞かされた挙句、「女は風俗で稼げるからいいよな」と暴言を吐かれたそうだ。
「結局、飲みかけのお酒を残したまま帰りました。なぜこんな最悪な気分にさせられなきゃいけないの? と悔しくて、家に帰って泣きました」
という彼女の言葉に、泣きながら膝パーカッションする我である。
そんな下郎どもに「汚物は消毒だ~!!」とベンジーをぶっかけたいが、現実には泣き寝入りするしかない。そして「なぜこんな目に遭わなきゃいけないの? 私が女だから?」と絶望するのだ。
夫と一緒に飲みに行った時に、不快な目に遭ったことは一度もない。一方、1人の時や女同士で飲みに行った時、不快な目に遭ったことは何度もある。
渋谷のバー「bar bossa」の店主である林伸次さんが、cakesのコラムに以下のように書かれていた。
すごくわかりやすいパターンですと、カウンターで女性二人組が楽しそうに恋の話なんかで盛り上がっていますよね。そこに、隣に座ったおじさんが声をかけるというものです。
これ、日本人女性二人組に特徴的なんですが、そのおじさんのつまんない話にあわせてしまうんです。(略)そして、その二人組は、二度とうちのお店に来ないんです。
それ、他の国の人だと、「あ、すいません、今、私たち、大事な話をしているので、話しかけないでください」って言うんですね。同じ東アジアでも、中国人女性や韓国人女性は言います。
(略)でも、日本人女性はそうせずに二度と来ないを選びます。
海外在住の女友達にこの話をすると「分かる! 海外だと男性側もあっさり引くのよ。でも日本だと『お高くとまりやがって』『調子に乗るな』とか逆ギレする男性が多いんだよね」と話していた。
女性は男性に接客サービスをして当然だと思っているから、そうじゃないと自分の権利が奪われたかのように逆ギレする。
そんなヘルジャパン在住のガールズに言いたいのは、「会話するかどうかを選ぶ権利は自分にある」ということだ。
私は夫と近所のバーで出会って、ガンダムや漫画の話をして仲良くなった。当時の夫はトンチキな服装をしていたが、こちらを尊重する姿勢があったし、話していて楽しかった。
しかし、こちらを尊重しない相手を尊重してやる必要はないし、つまらない話に付き合ってやる義務もない。
推しごと返し
とはいえ、私もウザいおじさんに話し掛けられた時に「ウゼえな、失せろ」とは返せない。やっぱり反撃されるのが怖いから。
なので「すみません、仕事してるんで」とスマホをいじって、推しの動画を見たりする。これも大切な推しごとなので、嘘ではない。
ミサワ返し
「説教する人」で書いたように、地獄のミサワに擬態して、俺に構うなアピールをするのは効果的。
推しの動画を見ながら「2時間しか寝れないわ~つれえわ~」と呟く。「仕事の資料多すぎ~」とスマホをスワイプしながら、ツムツムをする。
スマホで話すフリをして「アサインされたマターのバジェットにアグリーです」とイキるもよし。
接客サービスなんかしてたまるかよ! の心意気で、自分の権利を守ってほしい。
自分にできることは何だろう?
「道を聞くフリをしてナンパしてくる男性がムカつく! 人の親切心につけ込みやがって」という意見も寄せられた。
他人には親切にしたいけど、まともな人とヤバい人の見分けがつかないから、警戒せざるを得ないのだ。
ならば、私たちには何ができるのだろう?
「親切な人」さえも足を引っ張られる社会
女友達は駅で男性に声を掛けられて身構えたら、「肩にカナブンがとまってますよ」と言われたそうだ。見たら本当にカナブンがとまっていて、その人が取ってくれたという。
こういう本当に親切な人もいるが、日常的に被害に遭いすぎて、とっさに身構えてしまうこともあるだろう。一部の迷惑な男性のせいで、まともな男性まで足を引っ張られてしまうヘルジャパン。
我々はカナブンやカメムシと違って、被害に遭った時に臭い汁を発射できない。なので私は護身用に、ヒグマも撃退できるペッパースプレーを携帯している。
その話を知人男性にしたら「そんなしょっちゅう襲われるんだ(笑)」とニヤニヤされて、スプレーを発射してやろうかと思った。
大学時代、授業の帰りに坂道を下っていたら突然車が停まって、2人組の男性が出てきた。私は必死に駅まで走って、友達に電話して迎えに来てもらった。
あの時の恐怖は今でも忘れない。女性が拉致されて殺されたニュースを見ると、それは自分だった可能性があるかもしれないと思ってしまう。
「中学時代、下校中に車から出てきた男性2人組に声を掛けられ、腕を引っ張られた。そのトラウマで今でも男性に接近されるとパニックになる。こんな自分は恋愛も結婚も無理だと絶望している」
そんな体験談が読者の女性からも寄せられる。
男性はどうか「たかがナンパ」と軽視しないでほしい。「殺されるかも」という恐怖を理解して、トラウマに苦しむ女性がいることを知ってほしい。
そして、全ての人に「自分にできることは何だろう?」と考えてほしいのだ。
何もしないことは、性暴力に加担していることになる
そんな願いを込めて、今回私は性暴力防止の啓発動画の脚本を担当した。
#性暴力を見過ごさない
#ActiveBystander
こちらが動画のテーマである。Active Bystanderとは「行動する傍観者」という意味だ。
海外には性暴力の非当事者の介入プログラムがあり、そちらの文献によると「性暴力を見過ごす人(passive bystander)」と性暴力に介入する人(active bystander)の2種類が存在するらしい。
つまり性暴力の現場に居合わせた人はみなbystanderであり、その中に行動を起こすbystanderと、行動を起こさないbystanderがいる、という概念のようだ。
性暴力の現場に居合わせた時、「自分には関係ない」と見て見ぬフリをする人もいるだろう。
一方で「本当は行動したいけど、自分に何ができるか分からない」と動けない人もいると思う。
そんな人々に向けて、動画ではさまざまなシチュエーション(ぶつかりおじさん、痴漢、ナンパ、セクハラなど)を描いている。
「何かできるのに何もしないことは、性暴力に消極的に加担していることになる」というメッセージも込めたつもりだ。
現実に性犯罪者をゼロにするのは無理だろう。でも、まともな良識のある人は「性犯罪を少しでも減らしたい」と思うはず。そういう人々が声を上げれば、世の中を変えていける。
逆に「自分には関係ない」という無関心が、加害しやすい社会を作ってしまう。
「その場で犯人が捕まらないと意味がない」というクソリプも来るが、「大丈夫ですか?」と声を掛けるだけでも、被害者は安心するし救われるだろう。
そして「助けてくれる人がいる」という安心感、社会に対する信頼があれば、被害者は助けを求められる。
逆に「誰も助けてくれない」と絶望してしまうと「助けを求めても無駄だ」と1人で抱え込み、支援につながることもできない。
「女性を助けられる女性」になるために
30代の女友達がこんな話をしてくれた。
20代の時、ライブハウスでしつこいナンパに困っていると、知らない女性が「久しぶり~、元気だった?」と声を掛けてくれたそうだ。
おかげでナンパ男は去っていき、彼女が助けてくれた女性にお礼を言うと「大丈夫だよ、ライブ楽しもうね!」と笑顔で言ってくれたという。
「その体験が私の支えになってます。自分も女性を助けられる女性になりたい、と思いました」と振り返る彼女。
梵天丸(※)じゃなく、アルテイシアもかくありたい。そして「行動する傍観者に、俺はなる!」の心意気で、困っている人を見掛けた時に「自分だったらどうするだろう?」と常に自身に問い掛けたい。
※梵天丸:NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』の名台詞「梵天丸もかくありたい」。伊達政宗の幼年期である「梵天丸」が不動明王像に向かって発した言葉
(文:アルテイシア、イラスト:若林夏)
※この記事は2020年10月25日に公開されたものです