恋愛映画が苦手でも泣ける『きみに読む物語』 #PM6時の偏愛図鑑
定時後、PM6:00。お仕事マインドを切り替えて、大好きなあの映画、あの舞台、あのドラマを観る時間が実は一番幸せかもしれない。さまざまな人が偏愛たっぷりに、働く女性に楽しんでほしいエンタメ作品を紹介する連載です。
正直、恋愛モノの映画はおもしろくないものが多いと思う。
少女マンガやドラマもそうだが、女性の理想の恋愛がただ繰り広げられるだけで、あまりに非現実的。
登場する男性も「いや、現実にそんな人いねぇよ……」みたいな人物像であることが多い。
また、家柄やスペックよりも本気で愛した人を選んで、周囲の反対を押し切って愛を成就する……というストーリー展開も多い。「実際、いろいろ大変だと思うけどナ……。その人、絶対甲斐性ないじゃん……」とか思ってしまったり。
とにかくそんな些細なことばかり気になって、映画に集中できないことが多いのだ。
そんな私が、自信を持って紹介する恋愛映画『きみに読む物語』(原題:The Notebook)。ご覧になったことはあるだろうか?
『きみに読む物語』あらすじ
映画のはじまりは、窓際の老女。認知症のために、老人ホーム的なところで生活している彼女。施設内の同じ年ごろの男性が、彼女に物語を読み聞かせる。
いきなりこんなスタートなので、老人ホームラブのお話だろうか? おじいちゃんおばあちゃんの恋愛の話なのか? と思ってしまうのだが、ここから映画は、男性が老女に読み聞かせている物語の内容へと入っていく。
物語の舞台は、1940年のアメリカ南部シーブルック。
ノアというきわめて庶民的な青年が、近くの別荘にやってきたお金持ちのお嬢ちゃんに一目惚れする。お嬢ちゃんの名はアリー、17歳。家柄の差はありながらも2人は仲よくなり、お付き合いをするようになる。
しかしアリーの滞在はひと夏の間のみ。ザ・肉体労働! という雰囲気の職場で働くノアとはちがい、彼女は大学へ行かなければならない。アリーの両親も、「ノアはいい子だけれどあなたの相手じゃない」みたいなことを言って別れるように仕向けてくる。
夏が終わり、アリーが別荘を去るとき、若い2人は離れ離れになるしかできなかった。
さて、そんなひと夏の恋などすっかり忘れ、都会で出会ったリッチな弁護士と婚約したアリー! いかにも女性らしい。リアルな展開だ。昔好きだった男性のことなんて、忘れてしまったりするものだよね。わかるわぁ。
リッチなフィアンセは、顔も、金も、家柄も、性格も言うことなし。両親も大喜び。アリーも、なんだかんだ言っても裕福な家のお嬢ちゃんなので、両親が喜んでくれて、収まるところに収まるんだなっていう空気感。
何もかもが順風満帆で、人生の正しい道に導かれるように結婚式の準備を進めていたアリー。しかし、あるきっかけでノアのことを思い出してしまう。
会いに行ったら最後だ。
映画のあらすじから少し逸れるが、全女性に伝えたい。
昔死ぬほど好きだった男に、気軽に会いに行くな。
会って何もハプンしないなんてことはないのだから。けじめをつけたいのなら、会わずに連絡先だけ消すんだ。なぜ会いに行ったんだ、アリー!
そういうわけで2人は会って、思い出してしまう。お互いに愛し合った日々を。
そして、アリーは知る。離れ離れになった、あの夏の終わりからずっと、ノアがアリーのことを想い続けていたことを。
都会に帰って行ったアリーに、ノアは365日手紙を出し続けていたことを(手紙は全部アリーのお母さんが隠して、アリーの目に触れないようにしていた。やっぱ、そういう類の介入はしちゃいけないよね)。
都会で待っているアリーのフィアンセ。スーパーハイスペックイケメンで、なおかつ性格もいいのに、ほんと何も悪くないのに、こんなことになってマジでかわいそう。
アリーも散々悩んだものの、結局選んだのは、ノア。そして2人は末永く幸せに暮らしましたとさ、と。
こんな物語、どう思うだろうか?
冒頭でも話したとおり、私は心が腐っているのでこう思ってしまう。
「その時点ではロマンチックでいいかもしれませんけども、結婚生活って現実的かつ複雑な問題がたくさん出てくるのだから、末永く幸せにはいられないでしょうよ」と。
しかし、思い出してほしい。みなさん。ダラダラとお話してきたが、いま私はまだ「あらすじ」を喋っている途中なのだ。
さて、このアリーとノアの恋の物語、なんだったかと言うと、老人ホームで男性が女性に読み聞かせていた物語の内容である。
映画は最後、また老人ホームの2人のシーンになる。
認知症のおばあちゃんが、この物語を聞いて、おじいちゃんに向かって言うんだ。「それ、私たちのことね……! ノア! 私とあなたの物語ね!」って。
しかし認知症の老女アリーは、ものの数分で、目の前にいるノアのことを忘れてしまう。「だれ、こいつ。怖い」みたいなことを言い出す。
それでも、ノアは毎日アリーにその物語を聞かせ続けるのである。たとえ一日に一瞬でも、愛し合っていた夫婦であることを思い出してほしいと願って。
アリーがノアを選んだ理由
2人の男性に言い寄られて、どちらを選ぶかヒロインが迷う。とてもありがちな話である。
ドラマや映画では、たいていロマンチックな選択肢が選ばれがちである。真実の愛とやらを貫いて、ハッピーエンドである。
綺麗ごとはやめてほしい。普通に、「リッチな弁護士とそのまま結婚の話を進めんかい」と思いながら、わたしも映画を観ていた。
「恋愛感情でノアを選んでも、ろくなことにならんぞ。どうせそんな愛は、永くは続かんぞ」と思いながら。
しかし、ノアの愛は本物だった。
365日、毎日手紙を贈った。アリーがノアを忘れて都会で楽しく過ごしている間も、ノアはアリーのことを想い続けていた。
そして、おじいちゃんになった今もなお、アリーのことが大好きなのである。
そういう、本物の愛をアリーは見抜くことができていたのだし、ノアは誓いどおり、全力で彼女を愛し続けたのである。
アラサー毒女も、たまにはラブロマンスを
私は、自分の心の醜さを呪った。恋愛映画はどうせ安っぽいハッピーエンドでつまらないと言った自分を恥じた。
もちろんこの映画『きみに読む物語』だって、フィクションではある。汚い現実から目を背けたい大人が、綺麗で美しい愛情を夢見て作った話かもしれない。
しかし、すれたアラサー女性に少し夢を見させてくれる、そんな美しい映画だと思う。
たまには「ラブロマンスなんか退屈」とバカにせず、映画に夢を見させてもらうのもいいだろう。
(文:E子、イラスト:谷口菜津子)
※この記事は2019年06月29日に公開されたものです