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「粉ミルク」で育った子は“アレルギー”になりやすいのか?

「昨日はたくさん母乳を飲んでくれたのに今日は全然飲んでくれない……」

 あなたにはこんな経験がありますか? お母さんが食べるものによって味が変るともいわれる母乳ですが、実際はどうなのでしょうか?

そこで今回は、母乳研究の第一人者である雪印ビーンスタークの中埜拓さんに、「母乳」に関する様々な疑問について聞いてみました。

母乳の成分は変化していく!?

編集部:人間の赤ちゃんは、生まれて1年ほどで卒乳すると言われていますが、その間母乳の成分って同じなのでしょうか?

中埜:赤ちゃんの成長に合わせて、母乳の成分は変化しています。「初乳(しょにゅう)」を見ていただくとわかるのですが、産後すぐにママの乳房から出てくるこの液体は黄色くどろっとしています。そして産後約1週間を過ぎると徐々に白っぽくなり、母乳(成乳)になります。

色がちがうということは中身がちがうということです。黄色の元となっている成分ですがビタミンAや、トマトやにんじんなどに含まれる色素でおなじみのカロテノイドが多いからだと考えられています。また、初乳に含まれる各成分は、濃度がとても濃いのですが、これは生まれたばかりの赤ちゃんが一度にたくさんの母乳を飲めないためです。少ない量でも大丈夫なよう液体量あたりの栄養素が濃いんですね。

初乳と1年くらい経過した母乳を比べてみると、糖質、脂肪が濃くなり、たんぱく質やミネラルが少なくなることが分かっています。その理由として、生後120日(4カ月)ほどで、離乳食がはじまることが関係していると考えられます。離乳食からたんぱく質や脂質が摂取できるので、そこで補えるものが減っていく……というわけですね。

母乳を飲む子は寝つきがいい?

編集部:昼と夜では成分に変化はありますか?

中埜:日内変動といって、朝と夜で成分が変わることも分かっています。海外には眠気を促したり、時差ぼけを解消するサプリメントがあるのをご存知ですか? あれはメラトニンという睡眠に関係する物質の量を調整することで眠気を促すといわれています。一般に、メラトニンの血中濃度が増えると人は眠くなります。

そこで母乳中のメラトニンを調査するため、朝を「朝の8時から夜の8時」、夜を、「夜の8時から朝の8時」と定義して2つの区分に分けて摂取したところ、夜に採取した方がメラトニン成分が多くなることが分かりました。ただしこれは、赤ちゃんを眠らせるためにでているのか、お母さん(母体)が眠いから分泌されているのか、そこまでは調査できませんでした。

編集部:母乳を飲む赤ちゃんは寝つきがよく、粉ミルクを飲む赤ちゃんは寝つきが悪いといったことはありますか?

中埜:それを証明したくてこの調査をしたのですが、そういった事実は確認できませんでしたね。母乳、粉ミルクに関わらず、生後3~4カ月もすると赤ちゃんは朝と夜の区別がつき、自然に夜に眠るようになります。しかしその生体リズムが母乳と関係しているかは、今のところ明言できません。

粉ミルクで育った子はアレルギーになりやすい?

編集部:初乳には、ラクトフェリンや免疫グロブリンといった「免疫成分」もすごく含まれているというお話でしたが、粉ミルクで育った子どもはアレルギーになりやすいなどあるのでしょうか?

中埜:周りの人を見渡してもらうと分かると思いますが、粉ミルクで育ったからといってアレルギーがヒドイかというと、そんなことはないですよね? 初乳を飲まなかったからといって、そんな差異はでないと思います。また初乳が出るのは本当に最初の1週間ほどです。その期間にアレルギー体質になるかどうかが決まるとは言い切れません。

また、アレルギーに関するあることが分かってきています。それは、口から摂取するものはアレルギー物質になりにくいということです。本来、免疫とは体の中に侵入する異物に反応し排出する役割を持ちますが、食べ物にまで反応しては困ってしまいますよね? そこで、口から食べるものは「食べ物」だと区別するようになるといわれています。

そのため口ではなく皮膚から摂取されたものはアレルギー物質になりやすい。実際に、小麦成分を配合した石鹸を使用し、皮膚から小麦のたんぱく質の一部を摂取してしまったことが原因で、そのあと食べた小麦たんぱく質が異物として反応されるようになってしまったことがあります。このように、赤ちゃんのころに「食べるもの」によって、アレルギーの罹患率は下げることが可能だと思います。

編集部:しかし、1989年に行われた第2回母乳調査によると、5歳までにアレルギーを発症しなかったお子さんが飲んでいた母乳には、リボ核酸が高かったことが分かっていますよね。

中埜:たしかに、5歳までにアレルギー疾患にかからなかったお子さんの飲んでいた母乳には、「リボ核酸」「ポリアミン」の濃度が高いことが分かっています。これらの成分はネズミを使った実験から、赤ちゃんの未熟な消化管の成長を促進し、アレルゲンの侵入を防げるように自分自身の機能を高めたのではないかと考えられています。とはいえアレルギーに罹患するか否かは、「遺伝要素」もかなり大きいのは事実です。そのため母乳に含まれるリボ核酸やポリアミンが多いからといって一概にアレルギーに罹患しなくなるとはいえないのが現状です。

食べ物で母乳の味が変わる?

編集部:食の欧米化により母乳におけるたんぱく質濃度が上がったという調査結果もでていますね。ということはやっぱり、食べ物で母乳の成分は変化するのでしょうか?

中埜:はい。これについては地域と母乳の相関がとれた調査があります。東北に住む女性の母乳ほど、母乳中のナトリウム濃度が高い傾向があることが分かったのです。東日本の食事は西日本と比べて塩分が濃いめですよね。また、魚を食べる文化がある国の女性の母乳中にはDHAが多く検出されています。一方、同じく魚に含まれるアラキドン酸の母乳中に含まれる量に変化はみられませんでした。

編集部:DHAって記憶力をあげる成分としても有名ですよね! ということは授乳中に魚を食べれば、赤ちゃんの記憶力があがるかも!?

まとめ

人は、生まれてからわずか1年の間に体重が3倍、身長は1.5倍にも成長するといいます。そして人の一生のなかで、もっとも大きく成長・変化する時期に摂取されるのが「母乳」です。今回の取材では、私たちの成長に欠かせない「母乳」にまつわるいろんなお話が聞けました。またそれと同時に、「母乳」にはまだまだ明らかになっていないことが多いことも分かりました。母乳はまさに神秘なんですね。あらためて生命の誕生は尊いものだと実感しました。

お話を伺ったのはこの方!

中埜拓さん

雪印ビーンスターク株式会社 商品開発部 副部長。
1990年に雪印乳業(現雪印メグミルク)に入社。
粉ミルク中のタンパク質の研究で、千葉大大学院で農学博士の学位を取得。
母乳研究歴は今年で25年。

(取材協力:中埜拓、文:マイナビウーマン編集部/梅津千晶)

※画像はイメージです

※この記事は 総合医学情報誌「MMJ(The Mainichi Medical Journal)」編集部による内容チェックに基づき、マイナビウーマン編集部が加筆・修正などのうえ、掲載しました(2018.08.09)

※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください

※この記事は2016年10月27日に公開されたものです

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