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モテるためにはキャラ作りが必要! 選ばれる女になるための、芸者のコミュニケーションテク

堀江 宏樹

道お客にモテる芸者のキャラは、モテる遊女とも実はかぶっていました。以前、モテる遊女ほど「わっさり」していた、というお話をしましたね。「わっさり」とは、当時の口語です。現代語の「あっさり」の元にもなった単語ですが、単にスッキリとした様ではありません。華やかだけど、おおらかで、明るくあっさりとした様子のことなんです。

玄人の女性というと、われわれは情念的で色っぽい人ばかりを想像しますが、特に江戸時代の玄人女性は、そういう雰囲気を濃厚に感じさせてはいけませんでした。そもそも芸者や遊女といった玄人の女性は、初対面の男性とも上手くコミュニケーションをとって、場の雰囲気を和やかにするスキルがもっとも最初に求められました。といいますか、そうなるように、鍛えられたのです。

現代の芸者さんの書いた本などを見ていても、とにかく偉い男性に対するほど、下手なおべっかを使ったり愛想は使わず、本音で接することが大事だそうですよ。気安く接する一方で、お客さんのプライベートには立ち入りすぎないようにすること、その2つがお客さんに喜ばれる、接客のポイントなのだとか。10代のいわゆる舞妓時代の芸者には特に本音をイヤミなく、明るく言えるようになることが求められます。これが職業上の訓練でもあるのですね。

このように良い意味にドライで、しかも本音で語り合える相手だからこそ、お客の男性も安心して、遊ぶことができたわけでしょう。ちなみに江戸時代の素人の女性は、基本的に、この手の屈託ない、楽しい会話というものができませんでした。同時に女性にとって男性との結婚は、就職&会社勤めみたいなものですから、結婚生活の維持には心を砕いて当然。つまり男性には、「重たい存在」にならざるをえないわけです。
本音でぶつかるということを、ある種の現代女性は間違えて覚えていると最近、よく聞きますよね。つまりグチや不満をぶつける一番の相手として恋愛相手を選ぶ、なんてことをしがちですが、それだけは避けたほうがよさそうです。

しかし江戸時代の素人女性が、今よりずっと口下手で、重たい女だったとも思われるのは、「男は外、女は家」といった儒教的な道徳律が強く、親しい男性以外とも気軽にコミュニケーションを取っていると、尻軽女といわれてしまったからでしょうね。

さて、現代でもお客をお布団の中でアテンドするタイプの遊女は消え去りましたが、芸者さんというお仕事は残っています。「芸者遊び」でいうと思い出すのは、野球拳とかでしょうか。しかし(当然ながら)野球拳は古い遊びではありません。野球自体、明治以降に欧米から輸入され、一説にあの歌人・正岡子規がベースボールを「野球」と訳し始めたといわれているくらいですから。

とはいえ、昔ながらの芸者遊びも、扇をシュッと飛ばし、的に当ててみる「投扇(とうせん)」など、他愛なく思えるモノが多いです。しかし実際のところ、何をして芸者と遊ぶかが問題ではなく、芸者といる時間そのものが、たいへんな魅力だったのです。そういうくらいにお客あしらいが出来るほど、コミュニケーションが巧みな芸者でなけければ、今みたいにカラオケだのなんだのあるわけではありませんから、線香1本分(約45分)のお座敷を勤めることは出来なかったとも言えますね。

そんなコミュニケーション能力がある玄人の女性だからこそ、男性は癒された、と感じたのでしょう。今の大河ドラマも幕末を扱っていますが、当時の志士たちが芸者や遊女とばかり真剣な恋愛はして、奥さんには本命どころか、スタッフのようにしか接さない理由も実は、女性のキャラの違いや、コミュニケーション能力にありそうですね。

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著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
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※写真と本文は関係ありません

※この記事は2015年05月10日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


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