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京都が若き漫画家を育てる一大拠点に!その中心にこの大学「京都精華大学 マンガ学部」

授業風景

京都が「漫画」発信の一大拠点になりつつあるのをご存じでしょうか。出版社のほとんどが東京にあるのになぜ? と思われるかもしれませんが、その動きの中心には一つの大学があります。京都精華大学です。今回は、京都精華大学の試みについて取材しました。

京都精華大学はマンガ学部を持ち、漫画業界に多くの人材を提供するための教育課程を設けています。実は、漫画を大学で教えようという当大学の試みは最近始まったことではありません。その原点は1973年(昭和48年)にまでさかのぼります。

京都精華大学 マンガ学部 学部長の吉村和真さんにお話を伺いました。

【連載中でお薦めの歴史漫画10選―「『ヒストリエ』作:岩明均」「『キングダム』作:原泰久」】

なぜ大学で漫画を教えるの!?

――「なぜ大学にマンガ学部があるの?」と言われませんか。

吉村学部長 「なぜ大学で漫画を教える必要があるんだ」という声があっても当然だと思います。「漫画」は普通の人との距離が近いものです。ですから「たかが漫画」、また「漫画は学ぶものではない」といった気持ちになりやすいのでしょう。

でも、漫画はもっと深いものですし、非常にポテンシャルの高い「表現」だと思います。表現方法として「油絵」があり、その描き方を教える大学があるなら、「漫画」の描き方を教える大学があっても至極当然ではないでしょうか。

――なるほど。

吉村学部長 ただ、「文化」「芸術」といった言葉に引きずられてしまうと、それも漫画について語っていることにはならないとも思っています。「なぜ漫画なのか?」という気持ちは大事だと思います。

「なぜ漫画?」という気持ちを持たせつつ「だから漫画」、本学部は、それを4年間かけて学ぶ場です。「なぜそんなことをやるの?」という問いは、いつも持っていてほしいと思います。それは「経済学部」であっても「文学部」であっても同じことでしょう。

なぜ大学にマンガ学部ができたのか?

――そもそもなぜ大学にマンガ学部を設立したのでしょうか。

吉村学部長 もともと本学は美術系の大学ですが、1973年(昭和48年)に「美術学部」の「デザイン学科」の中に「マンガクラス」を設けたのが始まりです。

芸術の一環として漫画を捉えるという設立主旨でした。このときは、「マンガ」といっても「ひとコマ漫画」、「風刺画」といった漫画で、いわゆる「カートゥーン」という意味でした。また、それでも漫画を扱うということで議論があったと聞いています。

――昭和48年といえば『あしたのジョー』が『週刊少年マガジン』で連載されていた最後の年ですね。「大学生が漫画を読むなんて」といった議論があった時代です。

吉村学部長 当時は、漫画の社会的地位が現在と比べてずっと低かったのです。ですから、大学で漫画を扱うということに議論があって当然だったのでしょう。

――その後はどのような道のりでしたか。

吉村学部長 いわゆるストーリー漫画を扱う課程ができたのは2000年(平成12年)です。芸術学部の中に「マンガ学科」が開設されました。アートの中で漫画を扱うというスタンスには限界があるということで、ここで大きくかじを切ったのです。

この学科の中に「カートゥーンコース」「ストーリーマンガコース」を設けていました。

――ストーリー漫画が芸術かというと難しいですものね。

吉村学部長 そういう考え方もありますが、「芸術の中に漫画を置くのはどうか」という議論もありましたので。これが2006年に改編されて、

・マンガ学科(カートゥーン/ストーリーの2コース)
・アニメーション学科
・マンガプロデュース学科(原作者/編集者の2コース)

という3学科になりました。

――中身が厚くなってきましたね。

吉村学部長 さらに2013年(平成25年)に再編が行われました。マンガプロデュース学科を1コースにしてマンガ学科の中に入れ、マンガ学科の中に「キャラクターデザインコース」「ギャグマンガコース」を新設して現在の形になっています。

マンガ学部の現在の学科・コース

●マンガ学科
カートゥーンコース
ストーリーマンガコース
マンガプロデュースコース
キャラクターデザインコース
ギャグマンガコース
●アニメーション学科

漫画家さんを先生に招くことの難しさ

――講師はプロの漫画家が務めていらっしゃいますが、招聘(しょうへい)するのは難しくはないですか。

吉村学部長 難しいです(笑)。先生をお願いしたいのは、現在も活躍中の漫画家さんで、その方々の生の声を学生に聞かせたいのですが、連載を持ってばりばり活躍されている方は忙しいですから。

――先生はどうやって探すのですか。

吉村学部長 基本的には公募です。学生に刺激を与えてくれて、理論的に語れる方を求めています。

マンガ学部教員

姜竣
篠原ユキオ
玉田京子
松井えり菜
板橋しゅうほう
おがわさとし
荻原征弥
佐川俊彦
さそうあきら
柴田昌弘
下村富美
高山瑞穂
竹宮惠子(学長)
都留 泰作
belne(菅谷多津)
浅井康
岩見吉朗
西田真二郎
三河かおり
おおひなたごう
竹熊健太郎
田中圭一
ひさうちみちお
すがやみつる
西野公平
村田蓮爾
石堂吉彌
大橋雅央
川辺真司
くずおかひろし
小堤一明
下村浩一
杉井ギサブロー
津堅信之
前田庸生
若林和弘
川瀬綾子
小泉真理子
ジャクリーヌ・ベルント
マット・ソーン
吉村和真
石岡正人
呉智英
業田良家
junaida
中野晴行
東村アキコ
みうらじゅん
村上もとか
森本 晃司
山田章博
(敬称略)

――非常に分厚い布陣ですね。

吉村学部長 ありがとうございます。学生にとって良い授業をしてもらえる先生方だと自負しております。実際、アンケートを採ってみますと学生の満足度はとても高いという結果です。

――個人的には「田中圭一」「業田良家」「東村アキコ」「村上もとか」「山田章博」の名前に驚きました。そうそうたるメンバーですね。

吉村学部長 その先生方でしたら、田中先生以外は、大変お忙しい中、客員教員として来ていただいております。例えば、東村アキコ先生からは「客寄せのための私ではなく、きちんと授業をやらせてもらえるのであれば引き受けたい」と言われました。

「それこそ望むところです」とお答えして教員をお願いしました。東村先生は、『かくかくしかじか』という漫画でご自分の学生時代のことについて描かれていますが、若い人たちに伝えたいことがある人なのですよ。

実際、プロの漫画家は皆さんエンターテイナーですから、学生を喜ばせようと、とても良い授業をしてくださいます。

京都精華大学出身の漫画家さん

――卒業生で実際に漫画家として活躍されている方はいらっしゃいますか。

吉村学部長 はい。デビューしたといったレベルでは枚挙にいとまがないほどいます。第一線で活躍している卒業生も多いですよ。

マンガ学科一期生:助野嘉昭 『貧乏神が!』(集英社『ジャンプSQ.』)
マンガ学科二期生:えすとえむ 『Golondrina』(小学館『IKKI』)
マンガ学部一期生:榎屋克優 『日々ロック』(集英社『週刊ヤングジャンプ』)

また、漫画プロデューサー部門の卒業生で、

金城宗幸 『神さまの言うとおり』(講談社『神様の言うとおり 弐』)の原作

といった卒業生が有名ですね。

――映画化された作品もありますね。

吉村学部長 卒業生が活躍しているのはうれしい限りです。各漫画雑誌の漫画賞に本学の学生がたくさん応募するものですから、『週刊モーニング』の「ちばてつや賞」の選考で、ちば先生が「京都には漫画のうまい人が多いんだね」とおっしゃったという話を聞いております(笑)。

漫画の用途は実は広い!

――漫画家になる、というと狭き門というイメージがあるのですが。

吉村学部長 漫画というと、皆さん「週刊誌や月刊誌に連載して……」といった漫画を想像されがちですが、それだけが漫画ではないのです。教育分野、実用分野での漫画、実はこうしたジャンルが非常に大きなポテンシャルを持っています。

経済の仕組みや歴史、あるいは資格、そういったものを説明するのに、漫画というのはとてもいい表現方法なのです。読み手に親和性が高く、読みやすく、理解しやすい。

こういった用途で漫画を使いたいというニーズはとても大きいのですが、「その描き手が足りていない」という事実があります。

『週刊少年ジャンプ』に連載して、世界中で億単位の単行本が売れて……といった漫画とは違いますが、このようなジャンルでは優秀な描き手が切望されています。

――なるほど。

吉村学部長 漫画は娯楽である一方で「教育資源」である、という考え方があるわけです。「漫画は何でも表現できる。だから『萬画』と呼びたい」とは石ノ森章太郎先生の言葉ですが、漫画にはたくさんの用途があると思います。

世界からマンガ学部に留学生が来ている!

――日本の漫画は今や世界中で読まれていますが。

吉村学部長 はい。ですので、わが校にも多くの留学生がいます。主に大学院ですが。

――留学生は何人ぐらいいるのですか。

吉村学部長 大学院は毎学年20人ぐらいなのですが、そのうち15人ぐらいは留学生です。

――どんな国から来ているのですか?

吉村学部長 韓国、中国、ヨーロッパ、南米、アメリカなど、本当にさまざまですね。

――「漫画を描く」ことを学びに来るのですか?

吉村学部長 そうですね、描きたいという人ももちろん多いですが、歴史や表現方法としての漫画を研究したいといった志向の人もいます。漫画を介して、これからどんどん海外との接触は増えていくと思います。現在留学生として来ている人が、自分の国に戻ってどんなことをするのか、それが楽しみですね。

そして世界を目指して!

――これからのマンガ学部の展望を教えてください。

吉村学部長 少なくとも2つあります。

1.漫画業界を中心に広く社会へ優秀な人材を輩出し続けること
2.マンガミュージアムなどを通じて地域振興や文化交流に協力していくこと

1に関しては、マンガ学部を設けている教育機関としてまず考えなければいけないことです。それは、描き手である「漫画家」、作り手である「原作者」だけではなく、「編集者」や「プロデューサー」といった裏方の人たちなど、業界に人材を輩出し続けることです。

2は最近になって私たちがお手伝いしていることです。漫画が社会資源に入り込んでいて、漫画の影響力というのはとても大きくなっています。例えば、ある地方自治体が舞台の漫画があったら、そこに多くのファンがやって来るといったことがあります。

――ご当地漫画が増えていますよね。

吉村学部長 はい。その漫画がアニメになるなどすると、影響力はさらに大きくなります。漫画が地域振興に使われるケースが増えているのです。それを一過性のもので終わらせないためには地道な継続した努力が必要です。

そういった人材も必要なのです。

私たちはそのような人材も提供していきたいと思っています。それを海外にも向けることができれば、と。今やっていることの延長線上に海外があると思っています。海外の人が「漫画」を発見して、教育資源として漫画を使う、そのための人材を私たちが提供できるようになれば、それは大きな喜びですね。

――ありがとうございました。

若い漫画家志望者を支援する『トキワ荘プロジェクト』が、京都に新たな「トキワ荘」を作るなど、京都では漫画に関する動きが活発です。若い作家を育てるこれらの地道で着実な努力が、やがて大きな花を咲かせることになるかもしれません。

⇒『京都精華大学』の公式サイト
http://www.kyoto-seika.ac.jp/

⇒『トキワ荘プロジェクト』の「京都版トキワ荘事業」のページ
http://tokiwa-so.net/kyoto/

(高橋モータース@dcp)

※この記事は2014年09月28日に公開されたものです

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