もしも光を追い越すなら「絶対零度に近づけたナトリウム原子の雲の中を通すと1,800万分の1の速さになる」
物質のなかでもっとも高速な光。秒速7~8kmで周回する人工衛星も非常に高速だが、1秒で地球をおよそ7.5周できる光は別格の速さだ。
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人間が光を追い越す方法はあるのか?特殊相対性理論では光速を超えることはできないというが、秒速17mの光も存在するから、光を遅くすれば何とかなりそうだ。
光速は一定じゃない?
光は電磁波の総称で、人間の目に見える可視光線をはじめ、赤外線や紫外線のような見えない光も含まれる。これらは波を描きながら進み、波長と呼ばれる波の間隔によって区別されている。身近な光とおよその波長を挙げると、
・赤外線 … 780nm(ナノ・メートル) ~ 3,000nm
・可視光線 … 380nm ~ 780nm
・紫外線 … 20nm ~ 380nm
・X線 … 0.001nm ~ 20nm
となる。これらは名前も特徴もまったく異なっているものの、基本性質が同じため光の仲間として扱われるのだ。
光の速さは秒速およそ30万kmで、現在分かっているなかではもっとも高速な物質だ。名古屋大学を中心に結成されたプロジェクトOPERAは、素粒子・ニュートリノの速度を計測し光速を超えると発表したが、残念ながら誤りのようで、現在も最高速の座は光が守っている。
アインシュタインの特殊相対性理論では、光速は一定で、これを超えることはないとされている。走行中の自転車から進行方向にボールを投げると、ボールはより速く飛ぶのが当然で、例えば自転車が30km/時、ボールが60km/時なら、止まっている人が見れば合わせて90km/時で進むのが見える。
だが、光にはこの単純な計算が通用せず、光速の2分の1で進む宇宙船がヘッドライトを照らしても、その光は秒速30万kmでしか進まない。つまり、15万km/秒+30万km/秒にも関わらず、答えは30万km/秒で、光は常に一定の速さで進んでいくのだ。
ただし光速=一定は真空での話で、水やガラスの中では遅くなる。コップに沈めたコインを斜め上から見ると、実際よりも浅く感じるのは光の屈折による現象で、水に飛び込む際に光が減速するのが理由だ。物質中の光のおよその速度を挙げると、
・真空 … 30万km/秒
・水 … 22.5万km/秒
・ガラス(石英) … 20.5万km/秒
・ダイヤモンド … 12.4万km/秒
で、ダイヤモンドの中では約40%まで遅くなるのだ。
光を追い越せ
物体の中を通過すると光が減速することが分かったので、あとはどこまで遅くできるかが決め手となる。NTT物性科学基礎研究所が2007年に開発したフォトニック結晶を使うと、光は5.8km/秒で進み、いきなり5万分の1まで減速するのだ。
人工衛星のように、地球に落ちずに飛び続けるためには最低でも秒速7.9kmが必要で、これは第一宇宙速度と呼ばれる。対してフォトニック結晶内の光は5.8km/秒なので、それよりも遅いのだ。
さらにハーバード大学の実験では、1999年には1,800万分の1にあたる秒速17mの光が作られ、2003年には停止させることに成功した。まず波長の違う光を重ね合わせ、それを断片的に照射してパルス光を作る。
通常の光は波の高さと間隔が揃っているのに対し、複数の波で強められたり打ち消しあったりするパルス光は、どちらも不揃いになっているのがポイントだ。
そのパルス光を絶対零度に近づけたナトリウム原子の雲に包む。これはボース・アインシュタイン凝縮(ぎょうしゅく)体と呼ばれ、レーザーを当てるとパルス光は押しつぶされた状態となり、動きが封じられて減速するのだ。
ウサイン・ボルト選手の最高速度は秒速12mほどなので1,800万分の1の光に勝てないが、女子200mの自転車世界記録が10秒782(平均18.5m/秒)だから何とか追い越せる。
現代のテクノロジーや恐るべし。光なんか目じゃないぜ。
まとめ
光を停止できたら我が家の光熱費は大幅ダウンかと思ったが、止まった状態では光らないので役に立たない。
それよりも絶対零度や制御レーザーを用意するだけで大赤字になりそうだから、永久機関はやはり幻想のようだ。
(関口 寿/ガリレオワークス)
※この記事は2014年02月11日に公開されたものです