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もしも海中ホテルを建てるなら―何が大変なのか?「排気」「水圧」「コスト」

モルディブで海中ホテルの建設計画が発表された。海中にはバーも開設されるというから、熱帯魚を眺めながら一杯やりたいものだ。

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海中ホテルで安全に暮らすことはできるのだろうか? もし浸水したら最深部では4気圧の水圧に押しつぶされ、侵入した水は突風を生み出す。海上部分で暮らしていても、浸水の心配をしながら暮らすことになりそうだ。

ホテル内でもダイビング?

モルディブの海中ホテルは、ポーランドのウォーター・ディスカス・ホテル社が建築する予定で、すでにモルディブ観光省の許可を得ているというから、完成するのは時間の問題だ。公開されている完成予想図では、海上7mには宇宙船のような円盤状の建物、海面下30mは客室やバーが予定され、タワー状の建造物がこの2つを結んでいる。

これらを囲むように海面から4本の柱が建てられ、海上施設の高さが一定に保たれるように調整され、海上にはレストランやスパをはじめ、プールやヘリポートまで予定されているというから、ホテルよりも海外SFドラマ「サンダーバード」の基地のような印象だ。

海中ホテルでもっとも警戒すべきは浸水だ。海中は深さが10m増すごとに、およそ1気圧高くなる。深度30mまで潜ると、海上の1気圧におよそ30÷10=3気圧が加わり、約4気圧に身をさらすことになる。スキューバダイビングの世界記録が318.2m、素潜りでも95mまで潜れるので4気圧が命取りになることはないが、問題は浮上速度で、急激に浮上すると減圧症を起こしてしまうからだ。

減圧症は、体液中の気体が気化し血管を詰まらせてしまう病気だ。そのため気泡が発生しないように、ゆっくりと浮上するのが鉄則だ。もしかかってしまったら、もう一度高い圧力を加え、徐々に下げることで治療はおこなえるが、重度になると神経や脊髄にダメージを受け、後遺症に悩まされるので注意が必要だ。

潜る深さと時間によって浮上速度は異なるものの、目安は毎分18mほどとするデータもある。つまり、浸水して深度30mに取り残されても、減圧症を避けるためには約2分かけて浮上しなければならない。息を2分間止めるのはさほど難しくはないが、海面を目指して泳げば酸素の消費量も増えるので、ある程度のトレーニングが必要となる。

恐怖のあまり急いで海面に向かえば、減圧症が待ち構えている。

コワいぞ海中ホテル。水漏れ厳禁で建設していただきたい。

突風で人間大砲?

海上部分も無事ではいられない。侵入した水が空気を押し出し、突風を生み出すからだ。

建物の寸法が分からないので、海上~海中を結ぶタワーを内径10mと仮定し計算してみよう。海底に建てた高さ37mの塔と同じだから、海中30mがすべて水没した場合、浸水量=押しのけられる空気の量は2,355立方mにものぼる。

標準的な家庭用バスタブの180リットルに換算すると、およそ13,000軒分の空気が一気に押し寄せてくるのだ。

もし海上部分に排気口があったら、どれくらいの勢いで空気が出ていくのだろうか?押子(プランジャ)を押し込んだ注射器と同じなので、排気口が小さく短時間で押し出すほど勢いが増す。排気口の直径と浸水しきる時間(秒)から、噴き出す風の速さをいくつかのパターンで計算してみると、

・直径1mの排気口 … 10秒 … 秒速300m

・直径1mの排気口 … 60秒 … 秒速50m

・直径5mの排気口 … 10秒 … 秒速12m

・直径10mの排気口 … 10秒 … 秒速3m

となる。秒速3mは木の葉がゆれる軽風(けいふう)程度なので問題ないが、12m/秒は電線がうなるほどの雄風(ゆうふう)となりかなり危険だ。気象庁の定義では最大風速が54m以上になると最上位の猛烈(もうれつ)な台風となるので、直径1mの排気口では台風発生器となってしまう。

海中ホテルから空中遊泳では、サービスが過剰すぎる。排気口は大きめに願いたい。

まとめ

先に営業を開始しているフィジーのポセイドン・アンダーシー・リゾートの宿泊料金は、カップル1組・一週間で3万ドルという。

水深12mで3万ドルなら、30mなら7.5万ドルになるのだろうか?いずれにせよ高級車が余裕で買えるような宿泊料金を、庶民である筆者が気にしても意味がないのだが。

(関口 寿/ガリレオワークス)

※この記事は2014年02月08日に公開されたものです

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