【新連載】20代最後の夜を、ひとりぼっちで迎えるなんて
Story1 ★20代最後の夜に
さっきから、TVの脇にある時計ばかりを気にしている。
もうすぐ12時。
今日が過ぎれば、わたしの20代は完全に終わる。
テーブルの上にはスモークサーモンや、
アボカドで作ったオードブルが並び、
ステンレスの容器の中ではシャンパンが冷えている。
いっしょに暮らしている駿は、
今日はどうしても接待で抜けられないらしい。
だからディナーは別々だけれど、
せめて日付が変わる前に乾杯だけはしたいな、
と思っていたのだけれど。
でも、あと5分で完全に今日が終わってしまう。
「1つ年をとったからって、
別に何が変わるわけでもないよ」
と、駿は言ってくれたけれど。
12時前に帰らないと魔法が解けてしまう、
お話の中のシンデレラのように心細い。
大きな門が轟音をたてて閉まるような気がして、
不安で胸がいっぱいだ。
せめてこの、20代が終わる瞬間だけでも、
いっしょに暮らす恋人にそばにいてほしい。
それは決してわがままではないと思うのだけれど。