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クリスマスはカップルでデートすべきなのか?

#知らないと困る結婚の数字

荒川和久

未婚率の上昇、若者の恋愛離れ、男性の結婚意欲の低下……。婚活女子にとって耳をふさぎたくなるような情報が巷にはあふれています。そこで、独身研究家の荒川和久さんに、知らないと困る“結婚と恋愛の数字”について教えてもらうことにしました! つい現実から目をそむけたくなりますが、正しい情報、正しい数字を知って、婚活難を乗り越えましょう。

もうすぐクリスマスがやってきます。

テレビでもクリスマス関連の番組やCMが流れるなど、否が応にもクリスマス気分が盛り上げられます。キラキラとしたイルミネーションに彩られた街は、カップルだらけのような印象を受けがちですが、実は、クリスマスデートをするというカップルはそれほど多くはないのです。

僕が主宰する独身生活者研究ラボで、2019年に行った調査によれば、2018年のクリスマスにお出かけしてのデートをした独身者の比率は、20~30代で男性20%、女性も32%にすぎませんでした。

そんなに少ないの? とお思いになりますか?

今回は、クリスマスにまつわる数字や、日本ではカップルのイベントとなった背景について紹介したいと思います。

恋愛強者3割の法則。クリスマスに相手がいるのは3割程度

そもそも20~30代で彼氏・彼女がいる率というのは男女ともに3割程度しかいません。クリスマスに限らず、パートナーのいない男女は7割もいます。

これに関しては、2014年から毎年調査していますが、いつ調査しても、季節が夏でも冬でも決まってそんなものです。

ちなみに、国立社会保障・人口問題研究所が5年毎に実施している出生動向基本調査(対象18~34歳独身男女)においても同様の結果が出ています。

18~34歳の独身男女に彼氏・彼女がいる率

ご覧の通り、途中2000年代にやや上昇したものの、全体的に男性は2割から3割、女性も3割から4割の間に収まっています。直近の2015年の数字も、30年前の1982年の数字もほぼ変わらないのです。

「最近の若者は草食化してきている」などと分析する専門家がたまにいますが、それはとんでもない間違いです。昔も今も変わらず、恋愛をしている独身男女というのは、不思議と3割ずつしか存在しません。僕は、これを「恋愛強者3割の法則」と名付けています。

つまり、クリスマスだといっても、相手のいる独身男女は所詮3割程度しかいない。クリスマスデートしているカップルは2~3割。数字のつじつまは合っています。

日本に「クリスマス=デート」文化が生まれた背景

そもそも、クリスマスとはカップルがデートをする日ではありませんでした。一体、いつ頃からこの「クリスマスデート文化」が始まったのでしょうか?

ユーミンが起こした「恋人がサンタクロース」旋風

諸説ありますが、その大元のきっかけとなったのは、松任谷由実の「恋人がサンタクロース」という曲だと考えます。この曲は、1980年12月に発売されたアルバム『SURF&SNOW』に収録されていたものです。

この曲の歌詞が画期的だったのは、「クリスマスとは、恋人である男性がプレゼントを持って女性の家に来る」と歌っている部分です。

少なくとも1970年代まで、独身男女のクリスマスといえば、みんなでボーリングなどを楽しむグループクリスマスが定番でした。そんな中、ユーミンのこの曲は、「クリスマスは、カップルが2人きりで過ごす夜なのだ」という新しい提案でもあったのです。

この曲は、1982年に松田聖子がカバーし、全国的な認知が広まります。

赤プリがクリスマスカップルの聖地に

続く1983年には女性誌『anan』で、「クリスマス特集」が組まれることになります。

その内容というのが「クリスマスイブは素敵なレストランで過ごして、そのあとシティホテルで泊まり、ルームサービスで朝食をとりたい」というものでした。

奇しくもその年は、今の東京ガーデンテラス紀尾井町のある場所に、赤坂プリンスホテルがオープンした年でもあります。赤プリと呼ばれ、クリスマスにはカップルの聖地となりました。

男たちは、付き合っている彼女がいようがいまいが、半年前にホテルを予約します。じゃないと、部屋が埋まってしまうからです。それくらい人気でした。

もちろん、当時赤プリの宿泊料は高額でした。それにもかかわらず、どう見ても20代前半と思しき若いカップルが、イブの夜は大挙して宿泊します。宿泊に加え、レストランでのディナー、夜中にはシャンパンをルームサービスで頼むという、まるで全員がセレブの台本に従って行動しているのか、と疑いたくなるほど同調行動をしていました。

なぜ、そんないかにも見てきたかのように断言できるのかって?

ええ、見ていたからですよ。

僕は当時、赤プリのルームサービスでバイトをしていましたので、まさに目撃者でしたし、各部屋にシャンパンやらフルーツを運んでいました。

とにかくイブの夜は大忙しです。夕方から朝方にかけて、ルームサービスの電話が途切れることはありません。おかげで、こちらは一睡もせず、ただひたすら食事やお酒を次々と運んでいたことを思い出します。

当然、満室の翌朝のチェックアウト時間帯は、支払いのための行列ができ、いろんな意味で地獄絵図のようでした。

ヒットクリスマスソングのほとんどが恋愛ソングだった

また、今でもクリスマスソングの定番のひとつといえば、山下達郎の「クリスマス・イブ」ですが、この曲がシングルとして発売されたのも実は1983年です。もともとは同じ年の夏に発売されたアルバム『Melodies』に収録されていたものです。

この曲を使用したJR東海のCMが放送されるのは、ずっと後の1988年。主演は当時まだ15歳だった深津絵里です。その後、1989年に第2弾として、もっとも有名な牧瀬里穂バージョンが公開されました。

クリスマスの夜、遠距離恋愛中の彼氏が帰ってくる。それを駅に迎えに行く彼女。彼氏を驚かそうと駅の柱に隠れて待ちます。彼氏がどんどん近づいてくる……そんなキュンとする内容のCMでした。そのバックにかかっていた曲がこの「クリスマス・イブ」でした。

なお、クリスマスソングの別の名曲としては、1984年のワム「ラストクリスマス」があります。この曲は、後にEXILEがカバーして有名になりました。

また、1994年の発売のマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」は、フジテレビ系連続ドラマ『29歳のクリスマス』の主題歌に起用され、ミリオンヒットとなりました。

クリスマスソングの名曲は数多くありますが、そのほとんどが恋愛と結びついているものでした。

こうしてクリスマス・デート文化が形成されていったのです。

呪いは解けた。「ウチスマス」で無問題

前述した通り、男たちは相手がいなくてもホテルやレストランを前もって予約し、当然、プレゼントも購入しました。クリスマスとは恋人同士だけのものではなく、恋人未満の男性にとって「告白して付き合う」という決戦の日でもあったわけです。

街中がデートカップルで溢れていたように見えたのは、そうした付き合ってもいないクリスマスだけのカップルが大勢存在していたからなのです。

「クリスマスはデートをしなければ」という呪い

実は、「付き合う前に告白すべき」「告白は男からすべきもの」という文化もこの頃生まれています。

発端は、フジテレビ系列で1987年にスタートしたとんねるずの集団お見合い番組『ねるとん紅鯨団』でした。それ以前は、告白は必須ではなかったし、男から行うものという約束事もありませんでした。

付き合っている相手もいないのに、クリスマスはデートをしなければいけないという呪縛に囚われ、全員が我を忘れていた時代だったともいえるでしょう。

そんなクリスマス狂騒時代の80年代に20代だった若者は、今や50代~60代です。もしかしたら、今のアラサー婚活女子たちのご両親の世代なのではないでしょうか。

30年経って日本は呪いから解放されつつある

それから30年、随分と環境は変わりました。

調査(※)によれば、「クリスマスを1人で過ごすことに寂しさを感じますか?」という質問に「寂しさを感じない」と答える人が男女合計7割に達します。

(※)2017年レオパレス21「ひとり暮らしとクリスマスに関する意識・実態調査」

つまり、彼氏・彼女のいない7割の男女は、クリスマスを1人で過ごそうとなんだろうとまったく寂しくないわけです。クリスマスであっても、普段と変わらず、おウチで1人まったりと夜を過ごすことになんの問題もありません。

それは決して負け惜しみではなく、「クリスマスはデートしなければならない」という呪いから解放されただけなのでしょう。

また、パートナーがいても外出せずに、どちらかの家でまったり過ごすカップルも増えています。

クリスマスだから「誰かと一緒にいなきゃいけない」とか「デートしてお出かけしなきゃいけない」なんてことはありません。恋人がいるいないに関わらず、これからはおウチですませるクリスマス、つまり「ウチスマス」の時代かもしれません。

どうぞ、よいクリスマスをお迎えください。

(荒川和久)

※写真はイメージです

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