軸は変えずゆるやかに、柔軟にキャリアを変える「ゆる変キャリ」。カシオ計算機・中村あゆみさんの働き方
「バリキャリ」「ゆるキャリ」……女性の働き方って、本当にこの2つだけなの? 100人いれば100通りの働き方がある。一般企業で働く女性にインタビューし、会社の内側や彼女の働き方を通して、読者に新しい働き方「○○キャリ」の選択肢を贈る連載です。
取材・文:ameri
撮影:大嶋千尋
編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部
バリバリ働きたい。でも結婚・出産の時期も考えなくていけない。欲張りだけど、正直どちらも諦めたくないのが本音ですよね。
「なるべく全部諦めない」がモットーだと話すカシオ計算機で働く中村あゆみさんは、子育てをしながら商品企画の部署で女性向けモデルの開発に携わるなど、仕事と子育てのどちらも叶えながら働く女性のひとり。数回の転職を経て、カシオ計算機で働く道を選んだと言います。
そんな中村さんに、これまでのキャリアや現在の働き方を伺ってきました。
5社を経てカシオ計算機へ。ひとつずつ強みを増やしていくキャリア
これまで5社を経てカシオ計算機に入社しました。短大を卒業し、最初は不動産の営業事務として働いた後、専門学校へ行き直して資格を取得し、動物病院で動物看護師をしていました。
小学生から家で犬を飼っていたこともあり、学生の頃から動物に携わる仕事がしたいと思っていました。ただ、学生の時に先生や親の意見に影響されて「普通の企業に勤めた方がいいかな」と感じ、短大へ進学して一般企業へ就職する道を選んでしまったんです。
不動産会社へは営業がしたくて入社したのですが、短大卒の20歳の女性が営業するのは難しいと、事務へ回されてしまい……。1年ほど働いたものの「このままだとやりたい仕事ができない。それなら最初からやりたかった動物の道へ進もう」と専門学校への入学を決意しました。
動物病院に勤めて2年ほど経った時期に、猫のアレルギーになってしまったんです。薬を飲みながら仕事をしていたのですが、そのタイミングで会社の統合によって勤めていた動物病院が無くなることになり、転職せざるを得なくなりました。
猫アレルギーを持っている状態で他の動物病院に勤めるのは難しいと感じたので、次は違う方面から動物に関われる「動物の製薬会社に転職しよう」と。ただ、求人の要項が全て“4年制大学卒業”だったんです。私は短大卒なので、応募することさえもできなくて。
ただ、諦めきれなかったので、「動物病院に勤めていた経験があるし、今度は営業の経験を積めば、大卒ではないけど働けるのではないか」と思い、美容系商材を扱うベンチャー企業に入社し、営業の経験を積むことにしました。美容も自分の興味がある分野だったのでそこで1年勉強し、当初の予定通り1年後に動物の製薬会社に転職した形です。
自分の思い通りに、綺麗に進めるわけではなかったけれど、当時はそれを遠回りとはあまり思っていませんでした。「これがやりたいからこの経験を重ねて挑戦してみよう」と、転職を重ねていましたね。
製薬会社に勤めていたのが15~20年前だったので、その頃はまだ女性が結婚を機に辞める風潮が強い時代でした。当時まだ結婚の予定はありませんでしたが、仲間を見ていた時に「ここにいると私にも降りかかってくるのかな」と思い、転職を決意しました。
ちょうど求人を探していた時に、カシオ計算機の子会社で動物病院向けのシステムを開発しようとしていることを知ったんです。女性の離職率も低かったこともあり、立ち上げメンバーとして参加することにしました。
動物に携わる仕事がしたいという軸が自分の中にあり、そこをなるべくずらさないようにはしています。今は一見関係のない時計の企画をしていますが、将来的には動物分野にと考えながら仕事をしています。
先輩の言葉で踏み出した新たな一歩
はい。動物病院で働く獣医師に向けたシステムで、企画から作ったものを売るところまで全てを担当していました。中でも、システムの中に入れる薬のデータベースを編集するのがメインの業務でしたね。獣医師と薬の用法容量を調べてデータの中に入れていく形だったので、動物看護師としての仕事を生かせていました。
公募で異動しました。私が携わっていた動物病院向けのシステムが他の会社に移管されることになり、その後はしばらくお医者さんや薬局に提供するシステムの営業企画をやっていたのですが、その間も社内のプロジェクトの公募があればチャレンジしていて。その中で知り合った先輩社員に「今度、時計で公募があるからやってみたらどう?」と薦められたんです。
正直、商品企画はやったことないし……と思ったのですが、「すごく向いていると思う」と声をかけてくれて。今まで一貫して自分がやりたいことしかやってこなかったのですが、ちょうど動物に関わる事業からも外れていましたし、人から薦められたことをやってみてもいいかなと。
そして、営業の時もシステム開発の時もずっとBtoBビジネスに携わっていたので、コンシューマー商品の企画はどう作るんだろうと興味が湧いたのもひとつです。将来、動物に携わるお店を出したいという夢もあるので、その時に提供する商品がどう作られているのかを勉強できるかなと思ったんですよね。
3年越しに叶った“女性に向けたメッセージが届けられる”モデル
異動して最初は、レディースメタルウオッチ「SHEEN」の商品企画に携わっていました。出産と育休が明けてからは、G-SHOCKやBABY-Gなどのレディースラインを担当しています。
仕事の範囲は多岐に渡ると感じています。まずは「どのブランドのどのカテゴリーで、どこの地域を伸ばすか」といった商品戦略から始まり、次にどういうコンセプトの商品を作っていくか、製造する時の課題を考えます。「こういう時計を作りたい」と決まったらデザイナーに依頼し、設計の部門と「これをいつまでに、この価格で作りたい」と調整をしていきます。量産の日程の調整も商品企画の担当です。
私のいる商品企画はどちらかというと製造側の部署として置かれていますが、営業ともかなり繋がりがあります。実際に商品ができたら販売に移りますが、営業側と綿密に打ち合わせをしながら「どういう形でプロモーションをかけていくか」という部分まで関わっています。
そうですね。すごく勉強になります。多方面の方と仕事をするので、異動してすぐは各部門で使われる専門用語が覚えられずに苦労しました(笑)。あとは、G-SHOCKもBABY-Gもグローバルで展開しているので、海外に出張へ行き現地の営業の方と話す機会があるのですが、英語には今も苦労しています。
ただ、大変さはありますが、思いを込めた製品が形になるのはとてもうれしいです。現在担当している、G-SHOCKの通常よりも一回り小さい“ミッドサイズ”を本格的に展開したの2019年でした。
G-SHOCKのレディースラインを本格的に展開できるとなった時に、社会でまだまだマイノリティな女性に向けてメッセージが届けられると思いました。その思いを込めて最初に作ったのがピンクリボンモデルです。最初に提案してから、商品化するまでに3年かかり、ようやく今年実現されました。これまでは女性のためのイベントに向けたモデルは出してこなかったのですが、どうしてもやりたくて。粘り強く提案してようやく形になりました。
今は、一緒に働くチームの女性たちが後押ししてくれて、このようなモデルを作りやすくなってきました。
バリキャリを目指していた20代。病気をきっかけに考え方を変えるように
拘束時間で考えると仕事の方が長いですが、感覚的には半々くらいです。
元々バリキャリを目指していたので、20代の頃は平日・休日関わらず仕事をし続けて成果を出す働き方をしていました。ですが、そんな生活をしていたら、32歳の時に関節リウマチの病気になってしまい、医師から「この病気はストレスが原因のケースが多いから、働き方を見直した方がいい」と言われて。
あまりストレスを感じないので、正直無理しているという認識がなかったんですよね。ただ、病気をきっかけにプライベートと仕事は半々ぐらいのつもりでやろうかなと意識を変えるようになりました。
仕事が好きだし、仕事をしていると楽しいので、今もプライベートのストレスを仕事で発散し、反対に仕事のストレスをプレイベートで発散して上手にバランスを取っています。子どもができて物理的な時間は減りましたが、それをむしろ「時間がない。どうしよう」と楽しんでいます。
いつも、今の自分が置かれている状況に優先順位をつけるようにしています。そうすると、そんなに難しく考えなくても自ずと「今これがやりたい」ということが分かるようになるんです。今は子どもが第一優先。その後、仕事と一人の女性としてのプライベートを上手く調整しています。
仕事の中では、短時間で仕事をなるべく終わらせるために“後回しにしないこと”を意識しています。メールも来た瞬間に「ちょっと言葉足らずかな」と思っても返してしまうとか。後に回すと忙しすぎて忘れてしまうんです。
モットーは「なるべく全部諦めない」。そして「無理をしない」
「なるべく全部諦めない」です。
実際はもちろん諦めなくてはいけないこともありますけどね。例えば後回しにされそうなプライベートでは、私は美容がとても好きなので、どれか一つは絶対続けようと決めていて。月に一度サロンへ行き「自分だけのために爪を綺麗にする」という時間を大切にしています。
私も20代の頃はそう思っていました。ですが、実際は諦めるのではなく、少し先に延ばせばいいだけかなと。出産したいけどキャリアをあきらめたくないと思っているなら「戻ってきた時に理想のキャリアを積むためには今何をしたらいいか」を先に考えておくとか、あらかじめ何となく計画しておくと意外と上手くいくと思います。
基本的には仕事でも諦めないとは思っていますが「無理をしないこと」も大事にしています。理想が高すぎると知らないうちに頑張りすぎてしまうので、今の自分の少し上くらいをちょっとずつクリアしていった方が精神的にも良く、止まることなくレベルアップしていけるなと。
「やりたい」と思っても、時間がなくて諦めなくてはいけないことはあると思います。その時に「じゃあ時間を作るためにはどうしようかな」「子どもが何歳になったら時間が作れそうだから、そのために今はこれをやっておこう」と考えて少しずつ取り組んでいると、自分も諦めている感じがしないし、負担も少ないのではないかなと思います。
キャリアの価値観も環境に応じて緩やかに変化してきているので、「ゆる変キャリ」かな。ベースはブレないけれど、少しずつ変化してきていますし、今後も柔軟に変化に対応していきたいと思っています。
会社を定年退職した後に、事業やお店などの形で動物と関わることができたら理想ですね。
昔は、トリミングや物販を行うお店を作りたいと思っていましたが、今の仕事で商品を企画することを学べたので、自分でコンセプトを考えた商品を作って、困っているワンちゃん・ネコちゃんに使えるものを考えたりしたいなと、漠然とした夢ですが考えています。
※この記事は2023年12月01日に公開されたものです