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「結婚しない」生き方は正しくないのか

#ソロで生きる

荒川和久

結婚をしない人生ってどうなんだろう。揺れるアラサー世代。結婚願望もそこまでないし、結婚せずに生きていく未来も想像する。実際のところどうなの? 独身研究家の荒川和久さんに「ソロで生きる」ことについて、さまざまなデータなどを元に教えてもらいます。

「結婚し、子どもを生み育てることが、人として正しい生き方である」。そういう規範がかつて存在しました。そして、今も中高年の既婚層中心に根強く残っています。

「正しい生き方?」

結婚しない生き方とは正しくないのでしょうか?

規範とは、人間が共同体に所属して円滑に生きていくための「掟」のようなものです。掟である以上、それは全員が守らなければならない。

その「目に見えない圧力」は相当なもので、1980年代までは、男女とも95%の人が結婚する皆婚社会でした。

その当時ならまだ分かるのですが、つい5年前、僕が、拙著「結婚しない男たち」を出版した2015年にも、書籍の紹介記事がヤフーコメントで4000件以上来て炎上したことがあります。

そのうちの半分が「結婚しない」ことへの反発でした。

印象的だったのが、「結婚もせず、子どもも産まない人間が自由に生きるのは構わないが、そういう輩の老後の面倒を自分たちの子どもが負担させられることが許せない」というものです。

「結婚しない人間というのは、社会のフリーライダーだから、そういう者たちは勝手に一人で生きて、勝手にくたばってくれ。世間に迷惑をかけるな」とでも言わんばかりです。

コメントをした本人は自分の発言を「正しい」ものとして疑っていませんが、それは、本当に「正しい」のでしょうか。

「正しい」という概念に宿る攻撃性

そもそも「正しい」ってなんでしょうか?

「正しいか、正しくないか」

毎日のようにネット上では、「それ、正しくないと思います」「その考えは間違っている」などと誰かが誰かを糾弾する事例が後を絶ちません。

それに追随する人が増えて集団化すると、「正しくないあいつは懲らしめるべし」という危険な攻撃性を生みます。

芸能人の不倫報道などでも顕著ですが、そうした問題を起こした人がいれば、その問題とは無関係で、当事者でもなく、何ら迷惑も被害を受けていない人間が「正義の名の下に」、一斉に「謝れ!」と大合唱する始末。

さらに、ご希望通り、相手が謝罪したとしても、謝り方が気に食わないと「その謝り方は正しくない」といつまでも終わりません。

個人の指標として、「これは正しい」とか「これは正しくない」という基準を持つのは構いません。

ですが、その個人の「正しい」を他人に押し付け合うようになると、それはもう暴力に等しくなります。

歴史を見ても明らかなように、「正しさ」とは、きわめて脆弱で主観的で、決して普遍的なものでも万能でもありません。環境や事情が変われば、昨日の「正しさ」が今日は「正しくない」ものに変わった事例はたくさんあります。

「正しくない」という概念自体が存在しない

そもそも、「正しいか、正しくないか」という二項対立そのものが、社会においては実は正しいのか? という問題があります。

あなたの「正しい」と対立するのは、別の誰かの「正しい」かもしれません。だとすれば、「正しくない」という概念は実は存在しないといえるのです。

正義の争いには、立場の違いしかなくて、そこに絶対的・普遍的な正義なんて存在しません。

たとえば、「学校のいじめをなくすために道徳教育を強化すべきだ」と主張する識者がいます。

一見、「正しい」ように思えますが、そんなことでいじめがなくなるはずがないのです。社会心理学者山岸俊男さんの著書『社会的ジレンマ』の中にあるように、こうした「道徳教育」はことごとく失敗します。

もちろん、「他人を思いやりなさい」「他人のために尽くしなさい」という利他精神は、それ自体を否定するものではありませんが、そうした教育を真面目に聞き入れて、利他的に行動してしまう人は、現実の社会において、利他的ではない人たちに良いように利用され、搾取されるだけの人間になってしまうからです。

「あなたのしていることは、社会のためになるとても尊いことだから、給料安くても頑張れるわよね」という「やりがい搾取」などまさにこの典型です。

「規範」の基準は一人一人異なる

自己犠牲にしてもそうです。自己犠牲の精神を素晴らしいものとして崇めることで、我慢することは美徳とされます。百歩譲ってそこまでは良いとしたとしても、人間はそれでは済みません。

周りに我慢しない人が表れると「私たちが我慢しているのに、我慢しないあなたは間違っている。許さない。排除だ」という行動につながります。

利他にしろ、自己犠牲にしろ、こうした道徳的精神は、結局「みんなが我慢しているんだからあなたも我慢しろ」という謎の規範の強要に過ぎず、さらに、その規範は一人一人に我慢というストレスを植え付けます。

そのストレス発散の糸口こそが「我慢している自分は正しいのだから何をやっても許される」という身勝手な解釈となり、いつしか「正義の名の下の暴力」を許す錦の御旗になってしまうわけです。

「正しいか正しくないか」の問いに答えはない

自分の行動の基準を「正しいか、正しくないか」に求める人ほど、結果的に、他人を攻撃し、傷付けようとします。

「正しくないものを認めてしまうことは正しくない」からです。

それ以上に、自分が正しいと信じるもの以外の正しさがこの世に存在すること自体、不快だからです。所詮、それは単なる個人の感情に過ぎません。

一方、独身者にも言い分はあるでしょう。「私たちだって、ちゃんと働いて、納税して、消費をして経済を回している。既婚者や子あり世帯にはある諸々の控除も何もなく、事実上の独身税を課せられているようなものだ」と。

こんな言い合いは、「正しさと正しさの戦い」というよりも、互いの「感情と感情の戦い」であって、そこに答えなどありません。

「結婚しない」人が増える、これからの日本の在り方

身も蓋もない事実をお伝えすれば、日本が、昔のような皆婚社会に戻ることはもうないでしょう。

皆婚を実現したのは、決してその時代の若者たちに恋愛力があったからでもないし、恋愛に貪欲だったからでもなく、お見合いや職場縁という、いわば社会的結婚システムの恩恵によるものだからです。

2040年には、独身者が15歳以上の人口の半分を占めるようになります。一人暮らしの世帯が全体の4割を占め、「夫婦と子」というかつての標準世帯は2割にまで激減すると推計されています。

こうした人口動態の流れというものは、個人の気合いでどうなるものでもないし、ましてや、政策なんかで変えられるものではありません。

本来1990年代に来るはずだった第三次ベビーブームが来なかった時点で、日本の人口減少は決定付けられました。2100年には、日本の人口は今の半分の6000万人になるでしょう。

「囲いのコミュニティ」から、「一人一人がつながるコミュニティ」に

しかし、その未来は決して絶望の未来ではありません。未婚や独身のみなさんがその責任を負わされるいわれもないですし、感じる必要もありません。

大事なのは、ここからです。

結婚して子育てをする家族と、未婚のまま一人で生きる独身者とが、互いに「理屈付けされた正しさ」によっていがみあう必要などないのです。

かつて囲いのあった強固な村や職場といった「所属するコミュニティ」は失われつつありますが、そのかわり、「目には見えないが、一人一人がつながる、接続するコミュニティ」が確実に生まれます。

結婚しない人生は不幸せなのかの記事でも書いた「仕合(しあわ)わせる」という考え方です。

「仕合わせる」とは、誰かと何か行動を一緒にすること。その相手は知り合いである必要もなければ、特定の誰かのための利他行動である必要もないのです。

「私たちは決して孤独ではないのだ」と信じられる社会へ

そもそも、一人で生きていても、私たちは何かしら誰かの支えによって生かされています。毎日の食事にしても、いつも開いているコンビニにしても、それらを毎日生産し、運搬し、販売してくれる人たちのおかげです。

そして、同じように、ソロたちが消費するお金も、それが自分の快楽の為の趣味への消費だったとしても、その消費によって誰かを支えています。

どちらの生き方が正しいとかではなく、ソロであろうと、家族であろうと、毎日の何気ない日常の生活や消費行動そのものが、お互いを支えている行動なのだと「信じられる」社会でありたいと願います。

ソロにとっては、「一人で生きていても、私たちは決して孤独ではないのだ」と信じられる社会へ。

家族にとっては「家族以外、誰も頼れないわけではないのだ」と信じられる社会へ。

僕が言い続けている「人と人とがつながる社会」というのは、「本人の意図や意識には関係なく、各個人の行動の結果として誰かが誰かを支えることができる」そういう社会なのです。

(文:荒川和久、イラスト:coccory)

※この記事は2020年12月31日に公開されたものです

荒川和久 (独身研究家・コラムニスト)

独身研究家/コラムニスト。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。

韓国、台湾なども翻訳本が出版されるなど、海外からも注目を集めている。

著書に『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『結婚滅亡』(あさ出版)など。

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