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一人焼き肉、一人鍋。「ぼっち飯」が経済を回す理由

#ソロで生きる

荒川和久

結婚をしない人生ってどうなんだろう。揺れるアラサー世代。結婚願望もそこまでないし、結婚せずに生きていく未来も想像する。実際のところどうなの? 独身研究家の荒川和久さんに「ソロで生きる」ことについて、さまざまなデータなどを基に教えてもらいます。

「ぼっち飯」という言葉があります。

かつて、学校で昼食を共にする友達がいなく、一人で食べる人をやゆする言葉として使われたものです。そう言われることを嫌って、わざわざ隠れてトイレで弁当を食べざるを得ない学生もいて、そうした行動もまた「便所飯」という新たなやゆ言葉を生み出しました。

「一人でご飯を食べる」という行為を、まるで「悪」のような扱いにして、排除する動きというものがあったことは事実です。これは前回の記事で紹介した「孤独を悪」として叩く現象と酷似しています。

「ぼっち飯」は悪いこと?

孤独は、絶対的善悪に振り分けられる話ではなく、孤独を苦痛に感じる人がいれば、一方で孤独の時間を至福と感じる人もいるのです。

個人によって感じ方が違うものを、一方の価値観だけで「悪」と断じて排除するという動きは、実は非常に怖いものでもあります。

一人でご飯を食べるという行為も、人それぞれです。本当は大人数で食べたいのに一人にさせられている場合は問題がありますが、本人が選択的行動として取る一人飯を他人がとやかく言う権利はありません。

そして、もはや、現代では、一人でご飯を食べることに対して、からかったりする若者はいないでしょう。なぜなら、もはや一人飯は日常だからです。こちらの記事によれば、すでに2016年の段階で、大学生の9割が「ぼっち飯」は気にならないと回答しています。

とはいえ、「本当は一人でご飯を食べたいのに……」と思いながら、なかなかお店に一人では入りづらいという人もいるかもしれません。

その背景には、「おひとりさま」などという言葉があったように、店の側からも、団体客よりソロ客は大事にされていないというイメージがあるからでしょう。

しかし、実際はそんなことはありません。

家族とソロ客とでは、そもそも来店人数が違うのだから、単価も違うし、ソロ客を重視しても意味はない。そう考える人もいるかもしれませんが、家計調査で1カ月あたりの外食費を比較すると、特に男性の場合などは、1家族の約1.7倍実額で消費しています。いわば、一人で2家族分近い外食費をかけているのです。

僕の試算によれば、20~50代の男女において、独身と家族での外食市場規模を比較したところ、家族の年間総外食支出費3.7兆円に対し、独身男女のそれは5.5兆円に達します。全ての家族が使う外食費より独身の使う外食費の方が多いのです。

さらに、その中で、独身男女がソロ外食している市場規模は、3.1兆円。独身男女の外食費のうち56%はソロ飯によって占められています(※2007~2019年までの家計調査での単身と家族世帯の外食単価と2015年国勢調査での配偶関係別人口とを掛け合わせて試算)。

つまり、事実として、今までも外食産業を大きく支えてきたのは、ソロ飯比率の高いこの独身男女だったわけです。現に、そうした客層の変化を敏感に感じ取っている企業は、一人席を用意するファミリーレストランを展開したり、一人焼肉や一人鍋のできるコースを用意したりしています。

ソロ飯は、もはやマイノリティでもなければ、逆に市場にとって無視できない大事なお客様であり、やゆされるどころか胸を張っていいのです。

経済を回す「ぼっち行動」

食事だけではありません。従来、団体や集団で行動することが当たり前だと思われていた消費行動も、調べてみると、偏見によってソロの行動が透明化されていただけという事例も数多くあります。

例えば、国内旅行です。かつて、温泉地などの旅館に、女性の一人客が訪れても宿泊できないということもありました。それどころか、警察に通報されたりするという話もあります。

なぜなら、「女性が一人で旅館に泊まるなんて普通ではない。自殺でもする気なんじゃないか」と心配されるからです。「一人旅する女性は自殺する」という因果のない話がまことしやかに信じられていたということなのかもしれません。

中には、「今でも一人旅する女性なんて数少ない」とお思いの方もいるでしょう。ですが、そんなことはありません。

2020年に一都三県20~30代の未婚男女(n7884)を対象にした僕の調査によれば、「一人旅(業務的な出張を除く)をしたことがある」20~30代未婚女性は58%。なんと6割近い女性が、すでに経験者です。同未婚男性の54%より多いことが分かりました。

確かに、コロナ禍以前の話になりますが、僕個人の体験でも、お花見や紅葉シーズンにおいて、京都などのフォトジェニックな場所では、一人でミラーレスカメラを提げて撮影にいそしむ若い女性をたくさん見かけました。

さらに、「今後、一人旅をしたいと思っている」未婚女性は23%。つまり、一人旅をする20~30代未婚女性の潜在ポテンシャルは8割を超えるわけです。

より細かく見ていくと、「一人で温泉旅館に泊まったことがある」という割合も、20~30代未婚女性の31%もいます。「温泉旅館で女性の一人客は断られる」などというのは、もはや都市伝説になっているのかもしれませんね。

女性より男性の方が孤独を好み、一人で行動するソロ活が多い。そういう誤解もありますが、それは行動の内容によって差があるだけであり、性差の問題ではありません。

男性のソロ活が多いのは、主に「食べ歩き」「ソロ外食」など食関連に集中しますが、女性の方は、前述の「ソロ国内旅」に加え、「ソロ海外旅」経験率もが多い。「ソロ遊園地」「ソロ映画館」「ソロ音楽フェス」経験率も全て女性の方が高くなっています。

他にも、メディアでは「ソロキャンプ」が、マンガやアニメのヒットの影響もあり、話題にもなりました。今は男性の方が多いですが、今後はこの分野も女性の比率が高まっていくことが予想されます。

日本の未婚を含む独身人口は間違いなく今後増加していきます。2040年には、国立社会保障・人口問題研究所の推計で15歳以上人口の半分は独身者となります(離別・死別含む)。日本は世界的な超高齢国家だといわれていますが、2040年には高齢者人口より独身者人口の方が多い「超独身国家」となることが予想されます。

かつて家族を中心とした社会構造が形成されたのは、家族の人口ボリュームが大きかったからです。家族と独身の人口ボリュームが逆転する未来に訪れるのは、間違いなく、「ソロ活経済圏(ソロエコノミー)」なのだと思います。

言い換えれば、「ぼっちが経済を回す」のです。

「ぼっち」も「誰かと一緒」も両方楽しい

一つ、忘れてはいけない大事な視点があります。

一人で行動する人は、「一人で行動するのが好き」ではあるものの、絶対に「一人でしか行動しない」わけではありません。

遊園地には一人で行きたくても、食事は大人数で楽しみたいという人もいます。同様に、既婚者で「誰かと一緒に行動するのが好き」ではあっても、「たまには一人で行動したい」という人もいるでしょう。

例えば、コロナ禍の中で、「いつも家族と一緒にいる時間があるから良い」と思う反面、「たまには一人でお出かけしたい」と思った既婚者は男女問わず多いことと思います。要するに、「一人行動人間」と「共同行動人間」というように、人間を二極分類することはできないのです。一人の人間の中に両方の特性が共存しています。

「ぼっち」だの「おひとりさま」だのと、「一人で行動する人間」をことさら異分子扱いして排除し、それによって集団の中にいる自己の安心を守るという心理こそ、実は異常だったとも考えられます。

一人行動が好きな人も、誰かと一緒に行動するのが好きな人も、それぞれの楽しみを謳歌すれば良いのであり、「みんな一緒」と同調しなければならないわけではないということです。

(文:荒川和久、イラスト:coccory)

※この記事は2021年02月27日に公開されたものです

荒川和久

独身研究家/コラムニスト。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。

韓国、台湾なども翻訳本が出版されるなど、海外からも注目を集めている。

著書に『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『結婚滅亡』(あさ出版)など。
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