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今こそ『スノースマイル』の素晴らしさを語らせて #ラブソングのB面

#ラブソングのB面

しりひとみ

聴く人、聴く環境によって「ラブソング」の捉え方はさまざま。そんなラブソングの裏側にある少し甘酸っぱいストーリーを毎回異なるライターがご紹介するこの連載。今回はライターのしりひとみさんに「ラブソングのB面」を語っていただきます。

「冬が寒くって本当によかった」

という印象的な歌詞で始まる名曲『スノースマイル』をご存知ですか? ロックバンドのBUMP OF CHICKENが2002年にリリースした名曲です。

この曲を耳にすると、私は毎回思うことがあるのです。それは――。

「この歌詞、最高では?」

聴き進めるにつれ「いや、良すぎだろ」と目頭を押さえたくなるようなフレーズがいくつも散りばめられているので、今日はその最高ポイントをご紹介させてください。

幸せワールド、冒頭から炸裂

まずは冒頭でもご紹介した「冬が寒くって本当によかった」という歌詞。これがこの後どのように続くかというと

冬が寒くって本当に良かった
君の冷えた左手を 僕の右ポケットに お招きする為の
この上ない程の 理由になるから

クゥ~!

あまりにも最高すぎて、私の中の川平慈英が顔をのぞかせてしまいました。

いや~、きっと普段は手をつながない二人なんだけど、寒い冬だけは「暖を取る」という名目で恥ずかしがらずにその手を握ることができるんでしょうねえ! ええ!? ありがとう!!!

興奮してきたので図で表しました。

これでより『スノースマイル』冒頭の最高さが分かりやすくなりましたね。

もしも、皆さんがこれから『スノースマイル』を聴く前に「あれ、『冷えた何』を『どこポケット』に招くんだっけ……?」と分からなくなった際は、ぜひこの図を見直して整理いただけたらと思います。

2番Aメロに見る「君」への愛1000%

次に私が好きなのが、2番のAメロの歌詞です。

二人で歩くには少しコツがいる
君の歩幅は狭い
出来るだけ時間をかけて 景色を見ておくよ
振り返る君の居る景色を

解説しますと、「君」は歩幅が狭くて、正直「僕」の歩幅からするととても歩くスピードが遅い。だけど、それを全く迷惑がらず、むしろその時間を愛おしんで「景色を楽しむ」という心意気でもって受け止める器の広さ。この歌詞の主人公「僕」の大変心優しい人柄がにじむ歌詞です。

図で表すとこうです。

不覚にも、「僕が30秒景色を見ておく場合に、僕と君が出会うまでの時間を求めよ(※ただし君の歩幅は僕の歩幅より8cm狭いものとする)」という数学の問題が誕生してしまいました。

頭のいい人はぜひこの問題を解いて2番のAメロに出てくる二人の時速を感じてください。私は数学の成績が2だったので無理です。

二人の終わりは突然に

『スノースマイル』は基本的にずーっと最高の歌詞なんですが、最後の最後で不穏な空気が流れます。

君と出会えて 本当に良かった
同じ季節が巡る
僕の右ポケットに しまってた思い出は
やっぱりしまって歩くよ
君の居ない道を

おらんのか~い!

1番、2番で畳みかけるように「君」との愛を描いたその果てに、なんと「君」はいなくなってしまいました。畳みかけたにも関わらず、最後は期待に応えないというのは吉本新喜劇でいう「乳首ドリル」とまったく同じ構造です(乳首ドリルが分からない方は、ググってください)。

二人の間に何があったのでしょうか。あんなに仲良く、冬の寒い日にも手を暖め合いながら歩いていたというのに、なんで乳首ドリル状態に……。

でもよく考えると、1番の冒頭では「右ポケット」に入れていた手を、2番のAメロでは離して、僕は少し前を歩き「君」のいる景色を振り返って見ている。

更に今回紹介しなかったフレーズなのですが、「こんな夢物語 叶わなくたって 笑顔はこぼれてくる」とか、「そうさ夢物語 願わなくたって 笑顔は教えてくれた」とか、夢が叶わない(叶わなかった)ということを示している歌詞が随所に出てくるのです。

冒頭から幸せいっぱいの二人かのように見えていたのですが、実は二人の関係が終わりを迎えることは最初から予兆として歌われていました。もしかしたら、この曲で歌われている「君」は、恋人ではなくて「夢」や、それ相応の概念的なのかも……という妄想すら膨らんできます。

真相は謎のままですが、単純なラブソングで終わらせない藤原基央さんの歌詞センス、すごいを通り越して恐ろしさすら感じます。

雪降る日には『スノースマイル』を

いかがでしたか? BUMP OF CHICKENの『スノースマイル』。知れば知るほど、深く温かい歌詞世界に引き込まれる名曲ですね。きっとこれからも、雪の降る季節に聴き続けられていくことでしょう。

と、書いている本日。もう桜が咲く季節だというのに、夜は冷え切っています。

せっかくの雪なので、自分の冷えた両手を自分の両ポケットにお招きしつつ、季節外れの寒さを感じながら散歩にでも行ってきます。もちろん、『スノースマイル』を聴きながら。

(文:しりひとみ、イラスト:オザキエミ)

※この記事は2020年03月30日に公開されたものです

しりひとみ

学園イチのモテ男に「おもしれー女」と言われることを目標に文章を書いております。
主にnoteで活動中の会社員兼ライターです。

◆Twitter https://twitter.com/sirisiri_hit

◆note https://note.com/sirisiri

◆著書「ママヌマ ママになったら沼でした」大和書房
https://www.amazon.co.jp/dp/4479785663/ref=cm_sw_r_api_i_FTMHJ10A8BCYZG5GVV00_0

産前、SNSで「子育て」と検索すると、辛い・苦しい話ばかりが目につき育児に恐怖を感じていた著者。
実際に子を持ってみて、初めて知った感情や嬉しい感動を、ユーモアあふれすぎる文章と等身大の視点でつづる。
子に振り回され、子のかわいさに癒される「地産地消」の日々を描く、抱腹絶倒必至のエッセイ!

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