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私を強くしてくれるHY『NAO』と「大きな片思い」

#ラブソングのB面

なんくるある子

聴く人、聴く環境によって「ラブソング」の捉え方はさまざま。そんなラブソングの裏側にある少し甘酸っぱいストーリーを毎回異なるライターがご紹介するこの連載。今回は、ライターのなんくるある子さんに「ラブソングのB面」を語っていただきます。

私は飽きっぽい女だ。

日記をつけ始めても1週間足らずで終わるし、好きな男性アイドルのファンクラブに入会しても半年後には他のアイドルに目移りしている。

もちろん恋愛においても飽き性を発揮していた。

中学時代に初めてできた恋人は、最初こそ燃え上がったが、3カ月経った頃にデート中のふとした瞬間に冷めてしまうくらいにすぐ飽きた。その後、同じクラスの男子をすぐ好きになったが、それもたった1週間で「好きじゃないかも」と我に返った。

社会人になってもコロコロと恋人が変わり、1年も続かずに別れることが大半だった。同級生の意地悪な女の子に「(男性を)取っ替え引っ替えしてるよね(笑)」と嫌味を言われ、全くその通りなので何も言い返せずに黙り込んだこともあった。

好きな人に「好き」と言われる感覚とは?

そんな私でも、唯一長く続いた恋があった。それが、高校生活3年間の片思い。

今から約15年前。中学卒業後、地元の高校に進学した私は、クラスメイトのSくんに一目惚れをした。いわゆるイケメンタイプではないが、すっと通った鼻筋と優しそうな垂れ目が印象的な男の子だった。

Sくんはとにかく努力家だった。勉学と部活の両立を理念として掲げるその学校で、理念通りに日々をまっとうしていた。課題は必ず期限通りに完璧に仕上げて提出し、テストも常に80点以上をキープ。部活も、普段の活動に加えて、毎日朝早く起きて自主練していたのを私は知っている。

Sくんとは、奇跡的にくじ引きで隣の席になることが多かった。しかし私はSくんと違って不真面目な学生だったので、課題の提出漏れや授業中の居眠りが多く、よく笑われていた。片思いの相手が隣にいるんだからちゃんとしろよ自分。

そんなある日、Sくんにメールアドレスを聞かれた。「これは脈ありか?」と思ったが、大きな勘違いだと気づいたのは初メールの夜。Sくんから「Mちゃんが好きだから、相談に乗ってほしい」という文章が送られてきて愕然とした。

Mちゃんは同じクラスの、私の友達だった。彼女もスポーツ万能で頭が良く、おまけに性格がめちゃくちゃいい。Sくん、女見る目ありすぎる。

私はMちゃんの友達なので、彼女がSくんに興味がないこともそのうち分かってしまった。だけど私はSくんとメールをしたいがゆえに、毎晩のように恋愛相談に乗り続けた。

その当時、よく聴いていたのがHYの「NAO」。この曲は1番と2番でそれぞれ異なる恋愛模様を描いているように思うが、特に私が共感したのは2番の歌詞だった。

どんなに二人一緒に居ても分かり合えなくて
あなたが想う人は世界でたった一人だけ
あなたが好きなあの娘になって聞いてみたい
「好き」と言われる事がどんなに幸せか感じたい

メールを重ねるたびにSくんのMちゃんへの一途な想いが伝わってきて、この曲をLISMOで流しながら何度も泣いた。それでも、Sくんと毎晩メールできることがうれしかった。

こんなにもいい人だから誰よりも幸せになってほしいけど、どうしてその相手は私じゃないのだろう。Mちゃんに対して、次第に嫉妬の感情が生まれるようになってしまった。

「いいな、Mちゃん。こんなに想ってもらえて」

ある日耐えられなくなって、ついメールで本音を口にした。すると、Sくんからは意外な返事が。

「○○(筆者の名前)だって想われてるよ。同じクラスのYが○○のこと好きだってさ」

「私→Sくん→Mちゃん」という三角関係に、突然新キャラYくんが加わり、「Yくん→私→Sくん→Mちゃん」という四角関係が爆誕した瞬間だった。

誰かに片思いしている人に片思いをする、数珠つなぎのような関係性。私がYくんを選べないように、Sくんも私を選ばない。誰一人として脈がないし、告白する勇気もないので、ズルズルと片思いを続けてしまう。

勇気をくれるお守りのような「大きな片思い」

結局2年生以降は、4人ともそれぞれ別のクラスに配置された。それでも私はSくんを想い続けていたし、SくんもMちゃんを想い続けていた。

高校3年生の受験シーズン。私は第一志望校に入るために、今までの分を取り返すように毎日図書室に残って猛勉強した。

ある日、同じく図書室で勉強していたSくんとたまたま帰るタイミングが被り、2人で真っ暗な校舎を歩いた。手と手が触れそうな至近距離で、私は告白しようか迷ったが、言葉が出てこなかったのを覚えている。

きっと私と同じような気持ちを、Sくんもずっと抱えていたのだろう。そう思うと胸が苦しくなり、そのまま何も言わずに別れた。これが私とSくんの最後の思い出だ。

外は雪がしんしんと降っていた。

それから約8年後。私はFacebookでSくんの結婚報告を目にした。写真に写っていたのは、Mちゃんではなく知らない別の女性。まだ26歳という若さで結婚を決断するのが真面目なSくんらしいな、と少し笑った。

記事の冒頭にも書いたが、社会人になった私はたくさんの短い恋愛を経験した。

ひとつの関係が終わるたびに「どうしていつも続かないんだろう」と悩むこともあったが、そのたびに高校3年間の恋と『NAO』を思い出す。

沢山の涙はあなたを想う切ない恋心
「好き」というたったそれだけの気持ちで動いた
大きな片思い

あんなに一途でまっすぐな恋ができたんだから、きっと大丈夫。

「大きな片思い」は、私に勇気をくれるお守りのようなもの。この先、誰かと関係を築く上で不安になったら、この曲を聴こう。泣いてばかりいたあの頃の私が、今の私を強くしてくれるはずだから。

(文:なんくるある子、イラスト:オザキエミ)

※この記事は2021年07月07日に公開されたものです

なんくるある子

編集者・ライター。20代で恋愛沼に浸かりすぎた女。最近のマイブームはちんあなご鑑賞。

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