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超現実的ヴィジュアル系音楽論 #ラブソングのB面

#ラブソングのB面

藤谷千明

聴く人、聴く環境によって「ラブソング」の捉え方はさまざま。そんなラブソングの裏側にある少し甘酸っぱいストーリーを毎回異なるライターがご紹介するこの連載。今回はヴィジュアル系バンド中心の音楽ライター藤谷千明さんに「ラブソングのB面」を語っていただきます。

インターネット上でまことしやかに囁かれている俗説に、「14歳でハマったジャンルというのは、一生熱が冷めない」というものがあります(真偽は不明)。

私が、いわゆる「ヴィジュアル系」にハマったのは1994年、中学2年の夏休みのこと。ランキング形式の音楽番組で紹介されたPVに、文字通り「一目惚れ」しました。

ヴィジュアル系バンドの魅力とは

94年というと、「ヴィジュアル系」の認知度は一般的にはまだまだ。ただ、雑誌を開くとX JAPANやBUCK-TICKは盤石の人気を誇り、それを追うかたちでLUNA SEAが勢いづいており、黒夢やGLAYらが鳴り物入りでメジャーデビューし、「ブーム前夜」の熱気に溢れていました。

脳内に流れ込んでくる聞き慣れない横文字や難読漢字。「なにこれカッコいい!」あっという間にその世界の虜になったわけです。

非日常的な世界観に何故惹かれたのか? 当時の私は思春期真っ只中。自分のコトは大嫌いだったからこそ、等身大ではない、「私の存在しない世界」である派手で刺激的なヴィジュアル系バンドや楽曲に憧れたのだと思います。

「男が化粧なんかして」「見た目だけ」的な風潮が今よりも強かった時代の中で、偏見を実力や人気で跳ね飛ばしていったミュージシャンたちの生き様に、当時の私は大変勇気づけられ、今でもある種の「指針」として、自分の中にあり続けています。

ヴィジュアル系は人生に多大な影響を与えてくれたし、そのほとんどは自分にとって「良い影響」と呼べるものです。そう、恋愛観以外は

ヴィジュアル系バンド的恋愛観

このコラムのテーマは「ラブソング」。

ヴィジュアル系バンドの「ラブソング」はミュージシャンの実体験を元にした歌詞だったとしても、比喩に比喩を重ねた表現ばかりで、現実離れしているように感じていました。

歌詞を思い返すと、「届かない」「近づけない」「壊れた」「消えた」「離れて」など、例外は多少あれどバッドエンドを想起させるフレーズばかりで、多感な時期にそういう曲ばっかり聴いていたものだから、「恋愛=破滅の美学……†」という方程式が脳内に出来上がっていたのです。勝手にバンドのせいにしてますけど、どう考えても原因は自分の短絡的な思い込みにあるんですけどね!

そんな私ですが、十代の終わり頃に初めての恋人ができました。1つ年上の野球好きなスポーツマン、端的に申し上げましてヴィジュアル系とは縁遠い人でした。

ところで、ヴィジュアル系バンドのファンを公言していると「彼氏、全然ビジュアル系っぽくないじゃん(メイクしてないじゃん)!」と、周囲から言われがちなのは何故なのでしょう。私にとっては、ヴィジュアル系ミュージシャンのメイクや衣装は「非日常」の象徴なので、そんな人が日常的に隣にいたら、落ち着かないに決まっているじゃないですか。

それはさておき、「自分が存在しない」からこそ好きだったヴィジュアル系の音楽の世界とは全く違う、自分が当事者にならざるをえないのが恋愛です。

持ち前の自意識過剰さ(自意識過剰な人間がヴィジュアル系を聴くのか、ヴィジュアル系を聴くから自意識過剰になるのか……)で空回りする日々。

ただ、若さゆえの過ちというか、相手もハタチそこそこのガキなわけで(言い過ぎ)。彼は彼でざっくりとした解像度で「黒い服だけじゃなくてピンクとか着ろよ」と謎のアドバイスを投げつけたり、私は私で「は? 黒しか持ってないんだが?」とキレたりと、今考えてもしょうもない小競り合いを繰り返していました。

楽しいデートやみっともない大喧嘩を経て、なんだかんだで3年くらいの交際期間の後、恋愛の方向性の違いで活動にピリオドを打つことに(バンドの解散コメント風に)。

「聴いてきた“ラブソング”とは、まったく違う恋愛だな」と当時は思っていたのですが、今思えばヴィジュアル系の歌詞特有の比喩をとっぱらうと、嫉妬もするし失恋して弱気にもなる、恋愛における男の人の女々しさや弱さが浮かび上がってくるのではないか。

もしかしたら、非現実的な存在だと思っていたミュージシャンたちも、自分と同じく「等身大の恋愛」に一喜一憂してきたのかもしれない

14歳から四半世紀ほど「ヴィジュアル系のファン」をやっているけれど、年齢を重ねると「曲の見え方」が変わってくることもあるのだなと思うのでした。

そういえば、ヴィジュアル系の本質はその形式にあるという批評的態度をもって、2010年代を代表するヴィジュアル系バンドになったゴールデンボンバーも、こう歌ってますもんね。

「女々しくて、女々しくて、辛いよ」って。

(文:藤谷千明、イラスト:オザキエミ)

※この記事は2020年01月31日に公開されたものです

藤谷千明

1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。∨系、YouTuber、恋愛リアリティ番組、ヤンキー系コンテンツなど趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。

共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。

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