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“優しい系クズ”に注意。彼の優しさはホンモノですか?

深爪

「『悪い男』と聞いて思い浮かべるタイプBEST10」のランキングがあれば、「浮気をする」「暴力をふるう」「金にルーズ」などが上位にランクインすると思うが、私はあえて「優しい」を挙げたい。「優しい」という特性はポジティブに語られがちだが、こと恋愛関係においては負の方向に働くことがある。ちなみに私はこのタイプを「優しい系クズ」と呼んでいる。

映画『昼顔』における北野先生がいい例である。「昼顔」は、平日昼間に夫以外の男性と肉体関係を持つ主婦を指す造語「平日昼顔族」をテーマにしたいわゆる不倫ドラマで、北野(斎藤工)は高校教師であり偶然出会った主婦・笹本紗和(上戸彩)と恋に落ちる。ドラマ版のラストで「もう二度と会わない」と誓約書にサインをした2人だが、映画版で再会して関係が復活するというストーリーだ。

真摯に仕事に取り組み、妻にはいつも穏やかに接する北野はおそらく、世間的には真面目で優しいと評されるタイプの男性だろう。だが、冷静に見ると非常にクズ。密会の現場を目撃され、2人そろって北野の妻に詰められるシーンで、いたたまれなくなってその場から逃げ出す紗和を妻の制止を振り切って追いかけた挙句、ショックに打ちひしがれる紗和に「今度こそちゃんとするから」と声をかける北野先生。愛する紗和を傷つけまいという「優しさ」から出た言葉だろうが、「今度こそ」の具体性はないし、「ちゃんとする」の根拠もない。無責任極まりない発言である。「軽々しくそんな約束をしていいのか」という私の不安をよそに、次の場面では同棲生活がはじまっていた。ちなみに、妻とは離婚していない。全然ちゃんとしてねえじゃん。優しく誠実そうな斎藤工の顔面に騙されそうになるが、妻と愛人、双方向に不誠実なクズ対応である。

また、一緒に住みはじめてしばらくすると、北野は紗和に隠れて妻に会うようになる。ケガをして車椅子生活になった妻を介助しているだけなのだが、事情を知らない紗和は復縁したのではないかと悩み苦しむ。これも体が不自由な妻を思いやる「優しさ」、そして、紗和に余計な心配をかけまいとあえて内緒にする「優しさ」からの行動だろうが、結果として双方を傷つけてしまっている。北野が優しくすることで妻は執着心を深めるし、紗和は嫉妬心に苦しめられるからだ。本当に相手を思いやるなら、妻には一切関わらず、紗和に疑われるような行動もすべきではない。北野は「優しさ」を履きちがえているのである。

そして、私の中の“北野先生の履きちがえているグランプリ”第1位は「妻と離婚するまでは『好き』とは言わない」宣言である。まさに優しい系クズの本領発揮。紗和に何度も「『好き』と言って」とせがまれているのに、「妻とちゃんとするまでは言えない」と頑なに拒む北野先生。妻とケジメをつけていないのに「好き」と言うのは不実であり、言わないのが彼流の「優しさ」なのだろうが、そもそも肉体関係があるのに誠意もへったくれもないだろう。もはやギャグとしか思えない理論である。

結局、この手のタイプは自分のことしか考えていないのだ。無意識下に「悪者になりたくない」「責任を負いたくない」があるから、その場しのぎの甘い言葉をかける。一見、優しさにも思えるが、単なる身勝手な自己保身からくる行動なので、最終的に相手を傷つけてしまうのである。

私も過去にその手の男性とお付き合いしたことがある。彼の家に突然遊びに行ったときのことだ。ふと洗面台を見ると、私のものではない口紅が転がっていた。明らかに浮気だと思い、追及したところ「あちゃ~、バレちゃったか。恥ずかしくて黙ってたんだけど、俺、趣味でたまに化粧するんだよね~。誤解させちゃってゴメン」と一点の曇りもない笑顔で答えが返ってきた。さすがに「そうなんだ! じゃあしょうがないね!」とは思えなかったが、「私を傷つけまいとこんな“優しいウソ”をついてくれるなんて、私って超愛されてるんじゃ」とむしろ嬉しかった。今思えば、あれは「優しさ」なんかではなく複数の女との関係を維持したい一心で放った苦し紛れにもほどがある言い訳だし、勘ちがいして喜んでたあのころの自分をブン殴りたい。

よく「彼に浮気されたけど、優しいから別れられない」と悩む女性がいるが、それは本当に「優しい人」なのだろうか。「優しい系クズ」ではないのか。そもそも、真に優しい人間は浮気などしないという点を忘れてはならない。

映画『昼顔』のクライマックス、離婚届を受け取ったあと、妻の運転する車の中で「なんであの人なの? なんで私じゃないの? 私のほうがあなたを幸せにできるのに」という妻の問いに対して「わからない。ただ紗和が好きなんだ」と答える北野先生。怒り狂った妻がアクセルを踏み込み、2人を乗せた車は爆走したまま崖から落下、北野先生だけ死亡という結末を迎える。自己中心的で相手の気持ちを思いやれない「優しい系クズ」の末路である。

「優しい系クズ」にお悩みのみなさんには、是非、その彼と一緒に映画『昼顔』を見ていただきたい。彼が改心することうけあいである。

(文:深爪、イラスト:ますだみく)

※この記事は2019年02月18日に公開されたものです

深爪

コラムニスト/主婦。2012年11月にツイッターにアカウントを開設。独特な視点から繰り出すツイートが共感を呼び、またたく間にフォロワーが増え、その数16万人超(2019年2月現在)。主婦業の傍ら、執筆活動をしている。主な著書に『深爪式 声に出して読めない53の話』『深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話』(ともにKADOKAWA)。また、女性セブン(小学館)にて隔週コラム「立て板に泥水」を連載中。芸能、ドラマ、人生、恋愛、エロと、執筆ジャンルは多様。

Twitter:@fukazume_taro

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