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結婚しても、しなくても。20代でやるべき「終活」とは

マイナビウーマン編集部

「昔から恋愛に興味が持てないし、両想いは都市伝説なんじゃないかって。多分、私はこのままひとりで生きていくんだと思います」

ひとりで生きていく備えのため、3LDKに引っ越すことを決めた、都内在住のIT関連会社勤務・さとみさん(仮名/29歳)。その場にいたスタッフ全員が、彼女の発言に驚いた。だって、まだ29歳だよ? ……いや、もう29歳だからこそ、堅実派の彼女は早々に決断したのかもしれない。

私も、彼女と同じ29歳。同世代の友だちは結婚ラッシュど真ん中。でも、もしも私がこのまま結婚しなかったら? 彼女のように「ひとりで生きる」という選択をするしかないような気がして、怖くなる。

ひとりで生きるってことは、ひとりで死ぬんでしょ? もし私がひとりで倒れたらどうすればいいの? そのまま数カ月、誰にも見つけてもらえなかったら?

「だから、人はひとりで住むことはできても、ひとりで“生きる”ことはできない。必ず誰かのお世話にならなきゃいけないの。そのために、今からやるべきことがあるのよ」

そう話すのは、終活カウンセラーの武藤頼胡さん。15年前、3人の子どもたち全員を故郷に残し、着の身着のまま東京に出てきたという過去を持つ。彼女が提唱する“終活”とは、「最後まで自分らしく生きる準備をする活動」のこと。

結婚してもしなくても、私たちはひとりで生きることはできない。だけど、自分らしく生きていきたい。そのために「今からやるべきこと」って、いったい何なんだろう?

人生で大事なのは“キョウイク”と“キョウヨウ”

――私たちのように、「このまま結婚しなかったらどう生きればいいんだろう」と漠然と不安に思う20代の女性は多いと思います。まず、お金はいくら貯めておけばいいんですか?

武藤:私が講師を務める終活セミナーでも「いくら必要ですか?」ってよく聞かれるのよ。でも答えは「私はあなたじゃないからわからない」。だって、人によって必要な貯金額はちがうから。まず一歩目に、「どういう人生を歩んでいきたいのか」を決めることが大切。生き方を決めた上で、じゃあ自分にはいくら必要なのかがわかるの。

さとみ:たとえば「友だちと年に1回は海外旅行をする」とかでもいいんですか?

武藤:もちろん。あとは、自分が何を残したいか。お金をがっぽり残してどこかに寄付したいならまた稼ぎ方も変わるし、別に死ぬときには0円でいいならちがう稼ぎ方になるし。それを決めるから将来の生活費が生まれてくる。FPが教える「○歳のときはいくら必要で……」とかはインターネットで調べればすぐ出てくるんだから(笑)、それより自分の生き方を決めることのほうがすごく大事。どういう目的を持って生きていくか。結婚する・しないじゃなくてね。

さとみ:なるほど、勉強になります。お金以外にもやっておくべきことはありますか?

武藤:まず心構えとしては、生きがいを持つこと。幸せを研究している先生から聞いたんだけど、生きがいとは“キョウイク”と“キョウヨウ”なんですって。教育と教養ではなくて、「今日行くところがある」と「今日用がある」。これが生きがい。

さとみ:今は、友だちが遊びに誘ってくれたり、家族に会いに行ったりと、毎日のように行くところや用事があります。でも、年齢を重ねるとなくなっていくんでしょうか?

武藤:そうね。50~60代になったら自分から積極的に活動しないと、家にひとりでいるだけになっちゃう。今日行くところとか今日の用事はいきなりできるわけじゃないから、まずは目の前にあるご縁を大事にすることがひとつ。そうすると用事ができたりして、生きがいにつながるの。

さとみ:そっか。そのためには、誰かに「会いたい」と思われるような魅力的な人間にならなきゃいけないですね。自分の人間力を育てることも大事なんだなって思いました。

“終活”に定義はない。だからこそ、自分で決められる

――今、武藤さんが話されたようなことも、いわゆる“終活”のひとつなんでしょうか?

武藤:そう、まずは生きがいを持つことが終活の第一歩。

さとみ:終活って、お墓を作って葬式台を用意して……という、ちょっと暗いイメージがありました。

武藤:そうだよね。でも、“終活”って言葉、広辞苑に載っていないの。ということは、自分が「これが終活!」と決めたら終活になる。お墓を用意するだけが終活じゃなくて、部屋にお花を飾って綺麗だなあと思うのも終活。

さとみ:定義されていないから、自分で決めることができるんですね。

武藤:だけど、お花を飾って綺麗だなと思えるのは、心に余裕があるから。たとえば私は、3年前にお墓を買った。お葬式の場所はまだ予約していないけど、こういうお葬式がいいということは息子たちに伝えたり、エンディングノートに書いたりしている。こういうふうに、先の人生を考えることで、心に余裕が生まれるの。

さとみ:いろんなものが整理されているんですね。私なんて、仕事でいっぱいいっぱいになると、花を飾る余裕もなければ部屋も荒れてきたりして……。逆に、整理されているとホッとできるということなのかなって思いました。

武藤:私も仕事に余裕はないですけど(笑)、仕事を通して一人ひとりが生きがいを持つ社会を作りたいと思って、終活カウンセラーをしているの。みなさんにもその生きがいを感じてもらうために、まずは自分で生き方を決めてほしい。

さとみ:ちゃんと自分の人生と向き合っていかなきゃいけないということですね。ちなみに、さっきお話に出た“エンディングノート”って何ですか?

武藤:自分の人生について綴るノートのこと。エンディングノートって“死ぬためのノート”というイメージもあるけど、そうじゃなくて、人生の棚卸しをするためのノートなの。私も毎年誕生日に書いているし、私が講師をしている大学の学生たちも授業で書いているのよ。自分が過去にやっていたこと、お世話になった人、今年の自分を表す漢字1文字とか。ノートに書いて振り返ることで、「これもう一度やりたいな」「あの人にまた会ってみたいな」と思ったりして、未来につながっていく。

さとみ:ノートに書くことで、自分の人生において無駄だったことに気づくこともあるんですか?

武藤:うーん。無駄だったわけじゃなく「こういうことがあったから今があるんだな」と思えるかな。私にも向き合いたくない過去はあるし、いまだにノートはその部分だけ空欄。でも、誰かに見せるノートじゃないし、いいやって。過去を振り返っていくと現状が見えて、未来が見えていくから。

20代でも、今日からすぐにはじめられる“終活”とは?

――まだ20~30代で、結婚するかどうかもわからない、今のことで精一杯な私たちのような女性たちに対して、終活という目線からメッセージをお願いします。

武藤:考えたくなくても、1日1日みんな年をとっている。でも、人生の先輩である60~70代の方々がどういう生活をしているかって、知らないよね。だけど、知ることが大事。自分も死なない限り、必ずその年齢になるわけだから。結婚していても、独身でも、60~70代の方々がどんな気持ちでどういう暮らしをして何に困っているのか。それを知ることが一番、生き方の参考になる。

さとみ:でも、身近な60~70代ってせいぜい自分の祖父母くらいで、日常的な接点がないのですが……。

武藤:地域で開催している、60~70代向けのセミナーやイベントに参加してみるのもひとつの手。よく会報誌で案内も出ていて、最近は30~40代も増えてきているし。こういうふうに、その年代の方々と接したいと思うだけで、自然とアンテナを張って情報収集できるようになるから。それも、20代のうちからできる“終活”だと思う。

さとみ:なるほど。今日武藤さんに教えていただいたこと、私でもすぐにできそうです!

武藤:トンネルにいても、一筋の光が見えてきたらそこに向かって歩けるでしょう? みんな将来が見えてないから不安なのよ。今の日本は60歳以上が30%近くもいるんだから、これを利用しない手はない。テレビでも雑誌でもいいから、まずは彼女たちの生き方に興味を持つことからはじめてみて。

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正直なところ、2人の対談取材を終えたあとも、私は将来への不安から完全に抜け出せたわけじゃない。相変わらず「結婚できるか・できないか」問題は頭をちらつくし、親からの「いい人はできた?」は止まらない。だからといって、さとみさんのように「ひとりで生きていく」とも決めきれない。

でも、ひとつだけ変わったことがある。それは、自分がこれからどう生きていきたいか、目を背けずに考えられるようになったこと。

答えはまだ出ない。だけど多分、“考えること”が大事なんだと思う。今年はどんな1年だったか。今までの私は何に心を動かされて、何を大切にしてきたのか。これから誰を目標にして、どのような人生を歩みたいのか。

私がこの先誰かと結婚しても、しなくても。過去と未来を考えてみることで、真っ暗だった道に少しだけ光がさして、最後まで自分らしく歩いて行ける気がした。

(取材・文:マイナビウーマン編集部、イラスト:いとうひでみ)

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2人の対談動画は、NHK『クローズアップ現代+』公式Twitterでも公開予定。また『クローズアップ現代+』孤独死しないサバイバル術、今日11月14日(水)22時~放送!

※この記事は2018年11月14日に公開されたものです

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