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結婚に焦っている女子たちへ。「結婚ありきで相手を探さないで」

マイナビウーマン編集部

焼き鳥屋で語り合った日から数日後、里香からLINEがきた。

「今週末のママ友のホームパーティで、記者会見やるから!」

仮面夫婦でありながら人生を謳歌している里香が、何やら決断したらしい。仲のいいママ友たちの前で何を語るというのか。そして、“記者会見”なんて言葉で表現するのが、なんとも楽しい彼女らしい。

少し遅れてホームパーティ会場に着くと“記者会見”はすでにはじまっていた。概要を聞くと、旦那さんと話し合いをして正式に離婚することになったという。

「すごく円満離婚だよ」

彼女は笑って言う。結婚生活で、初めてお互いの気持ちを話し合ったらしい。

「結婚生活10年のわだかまりは、2時間の話し合いで解決した。お互いの価値観がちがうから、もう離れたほうがいいねって」

そこから行動派の彼女は早かった。その場にいた不動産業界で働くママ友にマンションを引き払う相談をして、そのまま彼女の母親がひとりで住む実家に子ども2人と戻る準備まではじめたのだ。

「なんで離婚を決断したの? 前は楽しく仮面夫婦やってるって言ってたじゃん」

「旦那が仕事をやめたのよ。しかも、知ったのはやめたあと。なんていうか、関係の希薄さがここまできてるなら、夫婦でいる必要性もないかなと思って。でも、『仕事ないなら出て行け!』って感じでもないよ。旦那もこれから再就職するときに、私や子どものことが負担になっているようだったし、じゃあお互い離れましょうって感じ」

長年の付き合いであるママ友たちは、彼女の決断を応援する眼差しで見ていた。でも、このホームパーティのホストであるパパ友ひとりだけが顔をしかめている。

「俺は旦那さんの味方だけどな。可哀想だよ、仕事がなくなって家族もなくなるなんて」

「それはちがう。こうやって休みの日にホームパーティを開いて、子どもと遊んだり世話したりするあなたにとっての家族と、娘の参観日や運動会のような行事に一度も行ったことがない人にとっての家族は、意味合いが全然ちがうんだよ。だって旦那は、離婚したいって言ったら、『じゃあ俺は、新しい職場の単身寮に入れるんだね』って言ったの。結婚の重みって本当に人それぞれちがうよね」

“可哀想”というのは、他人から見た勝手な感想だ。本当のところは本人たちにしかわからない。

そして、相変わらず生き生きしながら「いろいろ忙しくなるわ!」と話す里香は頼もしい。

「いつにも増して、パワーアップしてない?」

「まだ諸々手続きがあって、家を売却っていう大きいことからクレジットカードの名義変更っていう小さいことまで、事務処理を思うと面倒だよ。でも、私より実家の母が何気にテンション上がってるの。『誰がどの部屋使う? 床を張り替えたい! 子どもの二段ベッド買わないと!』みたいにね。新しい生活の幕開けだわ」

「本当に後悔しない?」

「うん。たとえば、部屋の向こうで子どもたちが笑う声を聞いてどう思う?」

「家族の幸せって感じよね。微笑ましく思うよ」

「旦那はね、『うるさい! 静かにしろ!』って怒鳴り散らしてきたの。その声のほうがよっぽどうるさいってことに、あの人は一生気づかないで生きていくんだと思う」

それを聞いていたパパ友は、もう何も言わなくなった。

“家族の幸せ”の象徴のようなものも、人にとっては騒音になる。結婚とはそういう価値観のちがいを認められるか否かが大事なのかもしれない。

価値観がすべて一緒の人なんて、この世に存在しない。存在しても、出会って結婚するなんて奇跡だ。

「価値観のちがいをどれだけ認め合えるかが結婚生活のポイントかもね」

よく独身の女子と話していると、結婚相手に望むことは“価値観が合う”ことだと言う。でも、価値観のちがいを受け入れられるほど、お互いを許容できるかということも大切だ。

「結婚ってよくわからないよね。私も結婚という形をとらずに旦那と恋人同士でいたら、とっくに別れてそう」

「結婚ってさ、簡単に別れないようにする縛り縄だよね。自らでお互いに縛りつけるみたいな部分もやっぱりあると思う」

うんうん、とみんなが頷く。

「その縛り縄を解かないでいられるっていうのも、いいことだと思う。ただ、独身の子に伝えたいわね。ずっとラブラブな夫婦もたまにいるけど、それは現実的じゃないですよって」

「自分たちでお互いを縛ったってことだもんね。甘い関係とはちょっとちがうわ」

「そんでもって、その縄に絞め殺されそうになったら解く必要があるわね。それが離縁かも。その縄で心が絞め殺されるようなら解いたらいいよ」

「結婚して子どもがいると、子どもにもその縄はかかってるってことだからね」

「大きな声で笑うこともできない縄なら、もっと早く解いてあげるべきだったかもね。そこは反省してるわ。でも、子どもたちもパパのことを心の底から嫌いなわけじゃないから、会いたいなら会えばいいと思ってる。彼も単身寮で音のない生活をひとりでしてたら、娘たちの笑い声を聞きたくなることもあるんじゃない? 年に1回くらいは」

「離婚が決まったけど、結婚したいと考えている女の子に改めてアドバイスするとしたら?」

「結婚は、本当に好きな人としたほうがいいよって」

「それは、経済的安定みたいな打算に走らずにってこと?」

「ある程度安定してるのは大事だね。そうじゃなくて、まわりの友だちが結婚していく焦りとか、行き遅れたくないとか、そういう“他人にどう思われるか”で、目の前の男性を選ぶのは絶対にやめたほうがいい」

「結婚ありきで相手を探すのはダメってこと?」

「そうそう。そんな状態で探すと、かなりの高い確率で自分にとって“可もなく不可もない男性”を選んじゃう気がするの」

「無難になっちゃうっていうこと? でも無難な人って、結婚するにはいいような気もするけど」

「可もなく不可もない人は、一緒に暮らしていくと、“必ず不可な人”になっていく。人間って一緒に暮らしていると、どうしても気になる部分が出てくるでしょう? そうなってくると、可がないのに不可なところをどう補っていくのかなって思うの。やっぱり不可なところを補えるものは、“気持ち”だけしかないと思う。ダメなとこもあるけど、やっぱり好きという根底がないと、結婚なんてうまくいかないと思うわ」

「里香の言うこともわかる気がする」

「その“気持ち”がないと、喧嘩もできないでしょう? うちは出会ったとき2人とも結婚適齢期だったし、お互いが可もなく不可もない人だったんだよ。結婚することがゴール。恋愛の先に結婚があるっていうのが普通なのにね」

なるほど。私たち夫婦も結婚して喧嘩ばかりする時期があったけれど、あの時期がなかったら容易く仮面夫婦になってしまっただろう。今思うと、恋人期間にもイヤというほど喧嘩をしては仲直りを繰り返していた。だから、お互い喧嘩のやり方と収め方に暗黙の了解があるのかもしれない。そう思っていると、里香が私の考えを見透かしたかのように口を開く。

「結婚って船なの。その船に2人で乗り込んで、恋愛で培った絆というオールで夫婦生活という荒波を越えて行くのよ。私たちの結婚は、大海原に放り出された難破船そのものだった。絆というオールを持ってなかったから」

「次にもし好きな人ができたら、ちゃんと恋愛して結婚したいと思う?」

「思う思う! 1回失敗したからって、人生ひとつも諦めてないわよ、私。次はハワイでリゾート婚がしたいな。でも、恋愛も結婚も娘たちが成人してからでいいかなぁ。今はとにかく、母と娘2人との女4人生活が楽しみ!」

最後にシャンパンを飲み干して里香は言った。

「これだけは書いてね。結婚はまわりを気にしてするものじゃないって。自分が本当にこの人と結婚したいって思わなきゃ、うまくいかないよ。世間体なんて気にしちゃダメ! 自分の人生なんだから、どの船に誰と乗るかは自分で決めるべき」

人生も仕事も子育ても、これからの恋愛も諦めない女、里香。私は彼女のこれからの人生を友人としてそばで見守り続けたい。

(文:マイナビウーマン編集部、イラスト:いとうひでみ)

※この記事は2018年09月22日に公開されたものです

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