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プリンセスラインな王道ドレスを着た、非王道な私たち #ベルはまだ聞こえない

夏生さえり

ウエストからふんわりと膨らむ「プリンセスライン」。その名の通り、お姫様ドレスのような形です。ふんわりと広がってくれるシルエットのおかげで、どんな体型の人にも似合います。このドレスは、日本人の体型に一番合うと言われているほど。

シルエットから甘めの印象を受けますが、アイテムとの合わせ方で調整が可能。髪を下ろして少しカジュアルにしたり、花のヘッドアクセサリーを合わせて清楚系にチェンジしたり。また、生地がシンプルであれば大人っぽく、チュールなどで軽やかにすればかわいらしく着ることもできます。なりたいイメージに合わせることができるので、「甘いから私には無理」と諦めないで。

王道で、華やか。そしてかわいらしく映えるプリンセスラインは、大きな会場でもしっかりと存在感を放ってくれます。

こんな王道ドレスを選ぶのは、きっとこんなふたりーー。

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「はじめまして」
そう声をかけられた瞬間に、ビビッときた。

と、話すと随分ロマンチックなようだけど、実は出会いは“合コン”。そのころの私は、長年彼氏ができないことにヤケになって、誘われた合コンに片っ端から参加していたのだ。そこでやっと彼と出会えた。

本当は、“同窓会で再会した昔の恋人と結婚”とか、“小さいころから隣に住んでいた幼馴染と結婚”とか、そういうオーソドックス(かつ、実はすごくロマンチック)な結婚にずっと憧れていた。幼馴染なんて、特に憧れる。小さいころから一緒に育ってきて、親同士は知り合い。そして両家族で「まさかこんなことになるなんてね」と笑い合ったりするような。けれど現実は、幼馴染はすでに結婚していたし、運命的な再会もなかった。……まあ、現代的といえば現代的なのだけど。

出会い方はさておき、「はじめまして」の声を聞いた瞬間、「この人だ!」と思った。そこからは、自分でも今思い出すと笑っちゃうくらい、あからさまなアプローチをした。隣に座って、酔っ払った勢いでボディタッチ。終電を逃したふりして「どうしよう?」なんて。あのころのことを振り返ると、彼は「すごいアプローチだった」とからかってくる。でも、許してほしい。こんなに、自分の気持ちに歯止めが効かなくなったのは、はじめてだったのだ。自分でも、感情の扱いに戸惑っていた。そんな気持ち、これまでに想像できた?

「付き合ってください」

告白なんて、したことなかったのに。ずっと「告白は男から」と理想ばかり口にしていたのに。

「結婚してください」

そしてついに、プロポーズまでしてしまうなんて。

付き合ってしばらくして、仕事終わりに彼の家で過ごしているとき、口をついて出てきてしまったのだ。あまりにも“好き”が溢れて、言わずにはいられなかった。こんなにも自然に、溢れ出るようにプロポーズしてしまうとは。

「ちょっと……」

彼の第一声はこうだ。焦りすぎた? 結婚なんて考えてなかった? そう不安になった瞬間、彼は言ったのだった。

「俺、プロポーズの準備してたんだけどな」

うつむき加減で、ちょっぴりこちらをのぞくその目。手は後頭部にあてられていて、怒られた子どもみたい。ぼんやり見入っていると、洋服ダンスの奥から指輪を出してきて、言う。

「俺にも、言わせてよね」

そう言った彼を見て、状況を一瞬で理解した。そうか、明後日は付き合って1年記念日……。そこから、2人で大笑いしたんだっけな。「ごめん」と何度も謝って、彼は「もう」と呆れたふりをして、愛おしそうな目をしていた。これが、私たちの結婚までの物語だ。王道とは言えない。でも、それでいい。私たちらしい。

ドレスは、迷うことなくプリンセスラインに決めた。せっかくの結婚式だし、ずっと憧れていた王道ドレスを着てみたかった。

当日、彼の前に立つと彼が目を潤ませるのが見えた。思わずもらい泣きしそうになるのをこらえ、冗談めかして「今日は、プリンセスみたいでしょ?」と笑ってみせる。

「うん。……逆プロポーズしちゃうような、ずいぶん頼もしいプリンセスだけどね」

泣き笑いで彼が言い、私はムキになって言い返す。

「最近はディズニープリンセスだって、自分で塔を抜け出して王子を見つける時代なんだから、私だって十分王道でしょう?」

彼は、「なんだそれ」と言いながら本当に幸せそうに笑っていた。くしゃっと笑って、目をほんの少し潤ませたまま。彼の目尻のシワは、出会ったときと比べてずいぶん増えた気がする。私たちはとにかくよく笑うから、きっとその影響だろう。私の目尻のシワも増えただろうか。でもこんなに幸せな増え方なら、どれだけしわくちゃになったって構わない。しわくちゃになって、1人で歩けなくなったってこわくない。そばにあなたがいてくれるなら。

結婚が素晴らしいことかどうかなんて、正直今はまだわからない。なぜ私たちが結婚をしたのか、それすらわからない。ただ、一緒にいたくて、ただ、好きが溢れて、そうして自然と家族になっただけ。

それでも今が最高に幸せであると、自信をもって言える。今の積み重ねが未来を作るのだとすれば、私たちの未来は最高に幸せなものになるにちがいない。

まもなく、ベルが鳴る。彼の目を見て、ふふっと笑いあった。

ドレスの裾が、身体に合わせてふわっと揺れた。そのたっぷりとした揺れは、私の幸せの大きさに比例しているように感じた。

(文:夏生さえり、イラスト:後藤恵)

☆「ベルはまだ聞こえない」は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました!

※この記事は2018年09月18日に公開されたものです

夏生さえり

フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計18万人を突破。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、『やわらかい明日をつくるノート』(大和書房)、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)。

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