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ミモレ丈ドレスで小さく飛びはねる。幼馴染の彼と私たちらしい幸せ #ベルはまだ聞こえない

夏生さえり

「いつ結婚をするか?」「いや、そもそも結婚をするか?」「というか、相手は!?」……そんな具体的なことは何も決まっていない。でもウェディングドレスを見ると心が弾むし、女友だちのドレス姿は何度見たって飽きない。「ああいつか私もウェディングドレスを着てみたい」。ウェディングベルが奏でる音を、今か今かと待ちわびている。

フランス語でふくらはぎの真ん中あたりを表す、“ミモレ”。ふんわりと広がった短めのドレスは、かわいらしさとレトロな雰囲気を併せ持っているのが特徴。小物次第で印象ががらりと変わるので、なりたいイメージをしっかり持っておくといいでしょう。

まだまだウェディングシーンでの認知度は高くありませんが、他とはちがうかわいらしさと動きやすさの点から、徐々に人気が高まってきています。

かなりカジュアルな印象なので厳かな雰囲気の挙式にはあまり向きませんが、屋外でのパーティやガーデンウェディングなどにはぴったり。明るくカジュアル、そしてナチュラルな雰囲気に仕上げてくれます。参列者との距離が近く感じられるのもうれしいポイント。あえてスニーカーと合わせて前撮りをする方も増えているそう。「私たちらしさ」を求める人たちにオススメ。

数多のドレスの中でミモレ丈を選ぶのは、きっとこんな2人——。

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「うちの子は、ちょっとおてんばで」

よく、そんな風に言われていた。頭に手を当てて申し訳なさそうに話している父だったけれど、私はそんな父の声にずっと“やや誇らしげな弾み”を感じとっていた。

「おてんばで」のあとに続く言葉がもし目に見えるならば、「おてんばで、すみません」というよりも、「おてんばで、かわいいでしょう」という感じ。実際、一度もおてんばを理由に怒られたことはなかった。

幼いころの姿そのままに、私はのびのびと育った。好きなスポーツをして、好きな友だちと会い、好きな仕事に就いて。でも、恋愛だけはなかなか興味が持てなくて、彼氏は24年間できなかった。そんな私が、結婚したいと思える人に出会ったのは25歳の誕生日のときだ。

「ずっと好きだった」

え、と小さく声を漏らすしかできなかった。なんせ、相手は昔からの男友だちだったから。

恋は、向いていないと思っていた。でも、思っていただけだった。誰かをこんなに好きになるなんて誰が予想しただろう。思い描いていた恋愛は、甘すぎる空気や歯の浮くようなセリフのオンパレードだったけれど、実際はとても自然体でいられた。いつも、当然のように2人でいる。彼といるとよりのびのびしていられる。こういう愛があるのだと、恥ずかしながら初めて知ったものだった。

2人でキャンプをして、スノーボードをして、朝までカラオケに行って、ダイビングをして。正直、ロマンチックなところにはあまり行ったことがない。それが私たちらしくて気に入っていたのだけれど、彼はそれを引け目に思っていたのか……、一度だけ、プロポーズのときだけ高級なお店に連れて行ってくれたことがある。緊張のあまり何を食べているのかがわからず、そのうちにウェイターが指輪を持ってきてくれて、プロポーズされた。なにがなんだかわからないままOKをして、1階へ降りると急に実感が湧いたっけ。

彼自身も、出るなり「おいしかったけど、明日はナス味噌丼が食べたい」なんて言うから思わず笑ってしまった。

履いていったヒールをコンビニのビニール袋に入れて、急遽コンビニで買ったビーチサンダルを履いて帰った。あれ以来、私たちの教訓はひとつに決まった。

「無理なことはせず、私たちらしいことをしよう」と。

結婚式の相談をしたときも、「私たちらしく、明るくて、みんなとの距離が近い、肩肘張らない感じがいいね」と言い合った。ドレスは、ミモレ丈。ロングドレスに憧れる気持ちもなくはない。グローブをして、厳かな雰囲気でたっぷりとした裾を引きずる姿。そんな姿で友人の前に出てみたい気もする。けれど、そんなのきっと笑ってしまう。あんまりにも、私らしくないんだもの。いや、私たちらしくないんだもの。

ふんわりと広がるミモレ丈ドレスは、なんといっても動きやすい。少しも、私を縛ったりしない。

「ねえ見て。飛んだり、跳ねたりできる!」

試着を終え、彼の前でぴょんと跳ねてみせると、スタッフが少し驚いた顔をした。その横で、彼は「そうだね」と言って満足そうに笑っていた。

披露宴当日、思い切って両親に聞いてみた。ずっとずっと、気になっていたこと。

「ねえ、私っておてんばだったじゃない」
「うん」
「“おてんば”って、悪い意味で捉える人も多いと思う。どうして一度も、それを理由に怒らなかったの?」

父と母は目を見合わせて、少し笑ってこう言った。

「人はね、のびのびしているときが一番魅力的だって思うからよ。今のあなたが、一番魅力的に見えるのと、同じように」

人は、のびのびしているときが一番魅力的。その言葉を反芻した。何度も、何度も反芻した。披露宴会場のドアが開くその10秒前。溢れ出すうれしさをこらえきれなくなって小さく飛び跳ねると、ふくらはぎのあたりでドレスがふわりと踊った。心とドレスが、ぴったり同じ動きをしたように私には思えた。

(文:夏生さえり、イラスト:後藤恵、構成:マイナビウーマン編集部)

※この記事は2018年07月20日に公開されたものです

夏生さえり

フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計18万人を突破。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、『やわらかい明日をつくるノート』(大和書房)、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)。

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