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コラム 結婚

「仮面夫婦」を10年続ける妻。離婚しない本当の理由とは

マイナビウーマン編集部

「結婚ってそんなに幸せなものなんですかねえ」

編集会議で、あるひとりの独身女子がぽつりと呟いた。

半年前に長年付き合ってきた彼氏にこっぴどく振られて以来やさぐれているその子の据わった目が完全に私を捉えている。まあ仕方ない。9月から「ねえ先輩、結婚って幸せですか?」という特集を立ち上げた。編集チームで唯一の既婚者である私自身が問われているような特集だ。

メンバーが一斉に私を見る。すがるような目の子もいれば懐疑的な目の子もいる。みんなの眼差しは、そのまま読者の眼差しなんだと思った。

結婚が幸せか幸せじゃないか。なんだか答えは2択じゃない気がする。

たとえば……とあるママ友の顔が浮かんだ。彼女の名前は里香。結婚して10年が経つ旦那さんとの関係は冷え切っている。彼に一室を与えることで顔を合わせることを最低限にし、会話も事務的なものをLINEで行うのみ。週末の予定も旅行の予定も、何もかも旦那と別行動。いわゆる家庭内別居の仮面夫婦ってやつだ。

私と里香は、子どもが通う保育園が一緒ですぐに意気投合した。子どもが別々の小学校に進んでからも毎日LINEを送り合い、一緒に海外旅行に行き、週末も一緒にいることが多い。もはやママ友というより親友とも呼べる存在だ。あの里香なら取材を申し込んでも嫌な顔をしないような気がする。というわけで、私は里香にLINEを送る。

「ねえ、仮面夫婦の実態っていう記事書きたいからさ、取材させて」

「なにそれ。おもしろそう(笑)」

というわけで9月某日。残暑を感じる蒸し暑い午後に、私たちはいつも行く焼き鳥屋で待ち合わせをした。

里香は美人だ。35歳になる2児の母なのにスタイルは抜群だし、髪の毛の先までいつも手入れが行き届いている。しかも、ウエディング会社でバリバリ働いている。そんないわゆる“完璧な美人”の里香が、なぜ仮面夫婦になったのか? 聞きたくても聞けなかった真実に迫ろうではないか。

「ごめんね。わざわざ時間作ってもらって」

「いいよ、別に。今回は仮面夫婦に関して? あんたもいろいろ大変だねえ(笑)」

「こんな取材引き受けてくれるの、あんただけだから。ちょっと唐突な質問だけどさ、今って幸せ?」

「うん。なんで?」

「だよね。そう言うと思った。この夏なんて大好きなハワイに2回も行けたし、相当楽しそうだったよね」

そうなのだ。仮面夫婦と聞くと、人は悲壮な生活や虚無な生活を想像するかもしれない。でも彼女とその子どもたちはとても幸せなのだ。だから私は里香に取材を依頼した。結婚=幸せor不幸せの方程式は、どうやら当てはまらないのかもしれない。

「旦那さんとの出会いってなんだっけ?」

「前職が一緒だったの」

「馴れ初めはなに?」

「うわー、辿っていきたくない記憶だわ……。なんとなくご飯に誘われて、一緒に何回か遊びに行って……とかじゃない?」

「それで1年くらい付き合って結婚したの?」

「うん、まあそうね。ただただ行き遅れたくなかった。あのときは未婚の30代女性が哀れに見えていたの。今じゃ未婚の先輩たちの自由さが死ぬほどうらやましいけどね。でも、あのときは本当に『結婚しないとやばい!』って思ってた。その一心のみです。誰でもよかった。悪気もなかった」

「犯罪の供述みたいに言わないで。でもわかる。20代後半になると、みんな結婚を見据えて恋愛する。結婚っていう脅迫概念はまだまだ女性にのしかかってくるよね」

「そうだよ。平成だって今年で終わりますよって時代なのにね。特にあんたのところみたいなメディアが助長してるよね(笑)。なんであんな“結婚・出産”という文字に取り憑かれていたのか。メディアにも責任あるよ」

「うん、自覚してます。すみません。でも結婚してからうまくいってる時期はあったの?」

「いや、もう同居した時点でお互いのスタンスがちがったね。旦那は家のことも子育てのこともすべてに無関心。2人目がどうしてもほしかったから、それまで最低限のことは我慢したって感じ」

「なんでダメになったと思う?」

「ひとつひとつ衝突したときに話し合うってことがお互いできないの。面倒くさがりで。そこだね。結婚って話し合って解決してって、その繰り返しらしいじゃん?」

「うん、そうだね。まだ結婚して浅いときは、衝突するたび寝不足になるまで話し合って解決してた気がする。よく言うじゃん、ケンカは次の日に持ち越さないって。揉めごとは鮮度が命」

「もう5年は寝かせてる。熟成された不和だよ。お互い『ああ、こいつのこういうところ無理だわー』って思って距離がどんどんできていく」

「なんで話し合わないの? 女って話し合う生き物みたいなとこない?」

「うん。でもほら、私は両親の影響を多大に受けてるからさ。両親が本当に毎日毎日どうでもいいことで大声で喧嘩してたの。旅行に行っても目的地に着くまでに喧嘩して、そのまま東京にトンボ帰りとかさ。子どもからしたら勘弁してくれよって感じ。だから話し合っても喧嘩になるから話し合いたくない。あと、もうそこまで修復したいって気持ちもないのよ。1回意を決して意見したときに、物に思いっきり当たり散らされて、家壊れるかと思ったもん。そのときに、『こいつは動物なんだな』って思った。動物に話し合いは無理」

「なるほどね。諦めの境地ね。そんでもってご両親は熟年離婚したよね」

「そうなのよ。わたしが二十歳くらいのときにね」

「どんな気持ちだった?」

「やっと離婚すんのねっていう気持ち。だって毎分毎秒喧嘩してたんだもん。子どものころから離れたほうがいいのになぁ……って思ってた。そしてやっと離婚して離れて暮らしたら、いきなり仲よくなって、しょっちゅう泊まりに来るし旅行にも行ったりしてる」

「不思議な関係だよね。でもいいじゃん。円満離婚で今も仲よしって。里香もそうしようとか思わないの?」

「ねえ知ってる? 結婚ってはじめるより、終わることのほうがよっぽど大変なんだよ。あと両親は死ぬほど喧嘩してきたからわかり合えてる部分もあって、今距離を置いて仲よくやってるけど、私は旦那と1億km離れてもうまくはいかない」

「そんなに性格が合わないのに、娘2人のためにも離婚はしないみたいな感じ?」

「父親としての役割は彼に期待してないけど、離婚すれば苗字も変わるし、買ったマンションの名義どうするだの、保険はどうするだの、そういうの面倒くさいじゃん。あとお互い干渉しないから、楽っちゃ楽だよ」

「嫌いな人と暮らすのがツラいとかもない?」

「それは多少あるよ。でも結婚なんて、ツラいものでもあるでしょう? あんたもしょっちゅう喧嘩して私に愚痴ってるじゃん」

「うん、殺意も定期的に抱くよ」

「でしょう? 脳内お花畑みたいな結婚生活なんてありえない。『私の結婚生活はものすごく幸せ!』みたいな瞬間を放棄したかわりに、楽だよ。期待なんて1mmもしてないから」

「旦那さんと結婚したこと、後悔してる?」

「別に。だって旦那と結婚しなかったら、娘たちと会えなかったわけだし。あと、結婚生活がうまくいってないから不幸せで、結婚生活がうまくいってるから幸せっていう定義もおかしいわよ。結婚していることが人生のすべてなわけじゃないじゃん。私、思いっきり夫婦生活は崩壊してるけど、仕事は最高に楽しいし、子どもはかわいいし、あんたみたいな友だちもいるし、人生楽しいわよ」

「結婚生活が人生のすべてになっちゃうと、相手次第の人生になっちゃうよね」

「そう。子どものことは第一に考えてるから、もちろん子どもの幸せが最優先だけどね。だから旦那との喧嘩も一度も見せたことないし、旦那の悪口なんて子どもの前では絶対に言わない。それさえ守れれば、自分の人生は自分のものよ。旦那なんかに左右されない」

「里香の個としての幸せは、自分で掴めるってことでしょう。自分軸で生きていくというか」

「そう。結婚が人生のすべてじゃないもの。うまくいってないなら離婚しろとか言ってくる人もいるけど、それも自分と子どものタイミングで決めるわ。とにかく私は幸せに元気いっぱい仮面夫婦してますってことで!(笑)」

「じゃあさ、もし離婚することになったとして、もう一度結婚したいと思う?」

「当たり前じゃん。私、結婚式売ってるんだよ? 何度でも結婚したいし、若い子にもどんどん結婚してもらいたい(笑)」

あっけらかんと笑いながら話す里香は、とても強い。強いっていうか、彼女から感じるパワーは、彼女の強い独立性によって放たれているような気がする。誰かに依存する気配がないのだ。だとしたら、里香は結婚に向いていないってこと?

里香にとって理想の結婚、理想の夫婦ってなんなのだろう。

>後編は9月19日更新予定

(文:マイナビウーマン編集部、イラスト:いとうひでみ)

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